強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百四十八話「準備調い」

「ふむ、だいたいこんな所か」

 

 二人から貰った意見を踏まえ修正を加えた説得内容を羊皮紙に書き終えた俺はほぅと息を漏らす。

 

「すまんな、助かった」

 

 完成にこぎ着けたのは、どう考えてもカナメさん達の助力があってのことだろう。だからこそ続いて二人に頭を下げ。

 

「止めて下さい、マイ・ロード。従者として主に力添えするのは当然ですから」

 

「そうね。ここであちらの勇者様を説得出来ないと、拙いのでしょ? スー様が困ってるなら、クシナタ隊の誰だったとしても力を貸した筈、当たり前のことをしただけだから」

 

「そうか……だが、礼は言わせて貰う。ありがとう」

 

 これで説得がうまく行けば、残るはさいごのかぎの確保と、それから。

 

「パーティーメンバーが相応の実力を付け、充分な装備を用意した上で挑むだけ、か」

 

「神竜への挑戦についてですか?」

 

「ああ。正確には、鍵の確保を除いた『俺達がすべき事』だな」

 

 シャルロットの説得に複数パーティーで叶えて貰う願い倍増計画を入れるなら、一応勇者サイモンにも話を通しておくべきかなとも思うが、問題が一つ。

 

(ほこらの牢獄から助けた人のことがあるから話を聞いたら乗ってくる気はするけど、勇者サイモンの実力で神竜に勝てるかって聞かれると……うん)

 

 おまけにパーティーを組めそうな人材も、息子と戦士ブレナンくらいしか居ないのではないだろうか、サマンオサ勢。

 

(そもそも、別口と言って叶えて貰える願いを増やせるかどうかも実際には不明な訳だし、話を持って行くなら、一つめの願いを叶えて貰いついでに「別パーティならカウントも別か」と聞いた後でもいいか)

 

 期待させておいて駄目だった何て事になっては目も当てられない。

 

「さて、話は変わるが……シャルロットの説得と鍵の確保に赴く間、カナメにはこのイシスで留守番していて貰う。いや、留守番というより、正確には修行だな。イシスには賢者になって戻ってきたばかりなのだろう?」

 

「え、ええ」

 

「ならば修行は必須だ。出来ればトロワにも残って修行して貰いたいところだが――」

 

 トロワには俺の側に侍るという制約がある。

 

「マイ・ロード……」

 

「わかっている。鍵の確保に必要なのは、特定の人ではなく壺だ。説得が無事終わったなら、既に修行で一定以上強くなった者達に鍵の確保は任せ、アリアハンから一足早くイシスに戻るという手もある」

 

 トロワの視線に頷きで応じると、俺は一つの選択肢を挙げ。

 

「無論、どちらにしても説得がうまくいけばの話だがな」

 

 宿の構造から見当を付け、アリアハンのある方角へ目をやる。

 

「アリアハン、か」

 

 視界に映るのは部屋の壁だけだが、それでも壁の向こう、遙か遠くにその国は有るはずであり。

 

(ホームシック……は違うよな。なんだろうなぁ、この感覚)

 

 形容しがたい気持ちのまま、じっと壁を見る。

 

「……マイ・ロード?」

 

「っ、すまん。つい……な。説得の方もお前達のお陰でメドはついた。ついたのだからな……」

 

 鳴こうが喚こうが時は戻らない。せいぜい、何が起こるかわからない呪文で一時停止が出来るくらいだ。だが、それでいい。

 

「例え、相手がシャルロットであろうとも――」

 

 己が意思を貫き通さなければいけない時はある。

 

(別れは必ず訪れると知っていた、知っていたんだから、今度だって……)

 

 ただの繰り返しだ。一度失敗した逃亡を完全なモノにするだけだ。

 

(迷うな、俺。躊躇うな……その日は、その日だけは……ん?)

 

 声には出さず自分に語りかけ、首から上だけでドアの方を見る。

 

「マイ・ロード?」

 

「ただいまー」

 

 俺が答えるよりも早く、ドアの外の気配は声を発す。

 

「戻ってきたのね」

 

「あ、うん。食事の後、話し込んじゃって……」

 

 すぐにドアが開いて顔を見せたムール君はカナメさんの言葉を首肯し。

 

「相手はクシナタ隊の誰かか?」

 

「そう」

 

 俺の問いにも頷きを返した。

 

「えっと、ひょっとしてここもお話し中だった?」

 

「いや、話の方は少し前に終わった。後は順に風呂へ入って就寝、と言ったところだな。むろん、就寝の前にカナメには部屋に戻って貰うつもりだが」

 

 変なことはしていないという証人として呼んだ一面もあるが、このまま朝帰りでもさせた日には、逆効果になりかねない。

 

(そもそも、ベッドだって足りないしなぁ)

 

 どうしてもここに泊まって貰うなら、性別を鑑みトロワと同じベッドで寝て貰う事になるだろうが、呼びつけておいてベッドを共有させるとか人としてどうだろう。

 

(ない、な……)

 

 心の中で頭を振ると、俺は鞄に歩み寄る。

 

「さて、準備だけはしておこう」

 

 風呂の順番はレディファースト、これは動かない。

 

「なんだったら一緒に入る?」

 

 とかカナメさんがトロワに言いだし、けしからん想像が脳裏を過ぎりかけたとしても絶対に、だ。

 

(そもそもカナメさんがそんなことする訳ないし)

 

 説得内容を詰めたから、俺も疲れているのだろう。

 

「こんなとこだな、良し」

 

 入浴の準備を済ませると、ベッドへ横になる。

 

「スー様?」

 

「風呂が空いたら起こしてくれ。済まんが、少し休む」

 

 ちょっとだけ訝しげなカナメさんの声に答えると、俺は目を閉じた。

 

 

 




次回、第百四十九話「そして――」
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