「どうした? この先は魔物が待ちかまえているかもしれん。やるなら手短にな」
俺としてはどちらでも良かった。
(ここでムールが手を出したことがきっかけになって二人がくっついてくれれば、あの逆セクハラから解放されるし)
揉まれるのが嫌で逆セクハラ発言を取り下げたとしても、さっきの言葉は変態娘への楔となってくれると思う。
(まぁ、それ以前にこれ以上モタつきたくないってのもあるんだけどね)
やるなら手短に、言外に早くしろもしくは早く決めろとせかしたようなモノだ。どっちにしても長々とまごつくようなことは無いだろう。
「え、えーと……」
「マイ・ロード」
結局の所、俺は救いを求める目を二人分向けられたが、これも想定の範囲内ではある。
「やらんならやらんでいい。だが、覚えておけ。今俺達は魔物と遭遇し襲われてもおかしくない状況にある。ふざけるにしても時と場所を選べ」
「申し訳ありません、マイ・ロード」
助け船を出しつつ、窘めれば流石にこたえたのかトロワも謝罪の言葉を口にし。
「解ればいい。これが安全な町の宿屋ならムールも快く揉んでくれるだろうしな」
「ちょっ」
俺は鷹揚に頷いた。何だか抗議の声が上がった気もするが、きっと気のせいだろう。
「気のせいじゃないよ? そもそも何でオイラが」
「俺がやっても喜ぶだけで罰にならんからな」
尚も食い下がるムールに、俺はきっぱりと言い切った。きっとその場のノリがそうさせたんだと思う。
「スー様、気持ちはわかるぴょん」
そんな俺の肩にポンと手を置いてくれたのは、ある種似たような被害に遭っているカナメさん。
「解って……くれるか」
しかし、どうして こう、この せかい には へんたい な おんなのこ が おおい の だろうか。
「ふ、理解者が居るというのはいいな……」
ありがたみを噛み締め、俺は歩きながら鞄に手を突っ込み、それを抜き出す。
「ならば――」
まだ残った心のモヤモヤはぶつけてしまおう。
(手にしたブーメランに乗せて、ねっ)
気取られないよう投げる時は無言。
「えっ」
「な」
「ぐげっ」
「がっ」
追い越してしまった二人が驚きの声を上げた直後に、短い悲鳴が曲がり角の向こうから聞こえ。
「ほう、だいたいの見当で投げたが……運が良かったな」
角を曲がると、行く手を塞いでいた死体が二つ増えていた。
「……まぁ、流石にこんな所に投げたらこうなるか」
更に周囲を見回して、壁に突き刺さったオレンジのブーメランを見つけると、回収すべく歩み寄り。
「ぬっ、ふっ」
掴んで、引っこ抜く。
「よし……さて、少々通りにくくなってしまったが、死体が見つかっていたのは時間経過を鑑みるとやむを得ん。ここからは慎重にいくぞ」
魔物としては大したことのない手応えでも、道を塞がれるとめんどくさい。
「承知した。しかし、これほどの魔物をブーメラン一投で二体も仕留めるとは……」
「油断もあったのだろう。気配と音を頼りに投げたが、それ故にこいつらも俺を知覚できていなかった筈だ」
悲鳴が気配の数と合わなかったらブーメランの後を追いかけてそのまま一掃くらいはするつもりだったが、運良く二体とも仕留めたことで、問題は道を塞ぐ死体が四つに増えたことぐらい。
「……しかし、四体か」
呟き、振り返るとそこにいたのは、母親譲りの体型をした変態娘。
(うん、どう考えてもつっかえるな、二箇所が)
と言うか、もう一度進行方向を確認してみるが、パズルゲームよろしく死体を転がしでもしない限り、俺でも通るのは難しい気がする。
「とりあえず、死体を動かすぞ。流石にこれでは通れん」
「うむ、手を貸そう。この巨体では一人で動かすのはきつかろう」
「助かる。なら、トロワやムールと向こうの死体を壁際まで押して貰えるか?」
オッサンの申し出に礼を言い、指示を出し。
「えっ、じゃああっ」
「ふんっ」
俺は別の死体に手をかけると首の無いそれを引っ張り立たせた。ムールが何か声を上げた気もするが、まぁ今は死体をどけるのが優先だ。
(うーっ、そこそこの重量はあるなぁ。まぁ、この身体のスペックなら問題ない重さだけど)
しかし、ブーメランが首を刎ねた形になったからだろう。見た目がグロい。炎を吹き出させつつ飛ぶブーメランだったからか、傷口が焼かれて出血は予想した程ではないが、匂いの方もきつく。
「せやあっ」
たたせた死体を壁際へ蹴り転がす。
(ふぅ、やってて良かったスライムサッカー)
いや、あのスタイリッシュ魔物虐待も最近はご無沙汰か。
「ええっ」
「あの巨体を……一人で?」
「うん? どうした、何を驚く?」
いきなり騒がれたのは解せないものがあったが、そうして人が通り抜けられるスペースは確保され。
「なんだ、あっぢのほうからだぞ?」
「ごっぢが?」
進もうとした矢先に進行方向から聞こえてきた声と、微弱な地面の揺れ。
(まぁ、そうなるな)
急ぎたかったり先に進みたいときほど邪魔が入るのは、良くある話だ。
「……ただ、な」
発想を転換してみればいい、心に感じたイライラをぶつける相手が来てくれたと。
「この期に及んで出てくるなら、覚悟して貰おうか」
丁度良い足が短いし、太いし、蹴れば転がるのは実証済みなのだ。
「バイキルト」
呪文は回りに聞こえない程小さな声で。
「でやぁっ」
「べっ」
肉迫され、太ももまで腹に俺の足をめり込ませたボールその一が身体をくの字に折り曲げ。
「でぇいっ」
白目を剥いていたのだ更に蹴る。悲鳴はなかった。
「げべっ」
むしろ悲鳴をあげたのは後ろにいて巻き込まれたボールその二。
「さて、では始めるか」
「マイ・ロード?」
後ろで変態娘が怯えた声を上げたような気がするが、とりあえずスルーする。
「まったく、面倒くさい」
後ろにはもう四つも死体があってこれ以上置けるスペースはない。
(なら、このデカブツをサッカーのドリブルよろしく蹴り転がして行かないと進めないじゃないか)
生まれてこの方、褐色の巨人でサッカーをやったことなど無い。だが、いけると思った、この憤りが変態娘の振るまい他で生じたムカムカが有れば。
「ムール、暫く一本道だったな?」
「あ、うん。えっ、まさか」
何がまさかなのか解らないが、俺は言った。蹴り転がすぞと。
主人公堪忍袋の緒が切れる?
次回、第十六話「ころころ」
そして、運命のキックオフ。