強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百五十三話「逃がさん……お前だけは……」

「ん? シャルロット?」

 

 何の反応もないのが気になり、横を見れば、そこにいたのは何故か固まってしまったシャルロット。

 

「……か、この下……さんの部屋」

 

 いや、ブツブツ呟いているようなので固まったというのは厳密には正しくないか。

 

「どうしよう、おじさんに聞かれちゃう……けど、せっかくお師匠様から切り出してくれたのに……ううん、だけど、そんな……」

 

 前半分が途切れ途切れだったので事情はわからない。ただ、真っ赤な顔で落ち着かない様子と言うか百面相をしてる辺り、何かは有るのだろう。

 

「……よくわからんが、やはり防音が万全でないなら場所を変えるべきだろうな」

 

 何にせよ、他者に聞かれることを問題視しているなら俺としても都合が良い。場所を変えようと提案し、ルイーダさんの酒場に引っ張って言ってしまえばいいのだから。

 

(ここで魔法使いのお姉さん達とかまで出てきたら余計面倒なことになるだろうし)

 

 アランの元オッサン達の部屋も近い、騒げば俺の存在を気取られてしまうだろう。ここは一刻も早く、密談場所を変えるよう提案した方が良い。

 

「問題があるようだし、場所を変え……っ」

 

 変えるとするかと言いつつ扉に背を向けようとするも、腕が引っ張られ。

 

「み、ミリー?」

 

「だ、大丈夫ですっ。こ、声が出ないように、が、我慢しますから」

 

「待て待て、声を出さずにどうやって話をするつもりだ?」

 

 理解が追いつかないながらも、俺の腕をけしからんホールドしつつこの場に止めようとした元バニーさんの名を呼べば何故か赤面しつつも必至な様子で主張され、俺は混乱した。

 

(と言うか、我慢って何?)

 

 怪談話でもすると思ったのか。いや、流石にそれはあり得ない。

 

(とすれば、これから話す内容が「シャルロット達とは一緒に行けないが理解してくれ」って内容だと察したとか……「別れは辛いけど、覚悟はしてます。声に出しては泣きません。我慢します、旅立ちに泣き顔は似合いませんから」と?)

 

 流石にこれは都合よく考えすぎだろう。

 

「と、とにかく……シャルロットは気にしてるようだしな? こんな事も有ろうかと防音性に優れた場所を手配している。ここでなければいけない理由でもあるのか?」

 

「い、いえ……ミリー。気持ちはわかるけど、お師匠様はああ、言って下さってるし……」

 

「……シャル。わ、わかりました」

 

 問うた結果、シャルロットが味方に回ってくれたのは幸いだった。

 

「ただ、お師匠様……少しお時間を頂いても良いですか? ボクもミリーも用意とかしたいですし」

 

「……用意? そうか、そうだな」

 

 場所は伝えていないものの、シャルロット達からすれば外出だ。女性が出かける準備に時間をかけることは彼女居ない歴が年齢と等しい俺だって知っている。

 

「ならば俺はここで待っていよう。効率は悪かろうがなんなら片方が見張っていても構わん」

 

 さっきの元バニーさんの必死さからすると部屋に引き込まれそうな気もしたので、敢えて自分から譲歩し。

 

「わかりました。じゃあ、ミリー先に準備して貰える?」

 

「わ、私が先に?」

 

「うん。これからボクも動けなくなっちゃうから……」

 

「動けなく? ちょっと待て、シャル――」

 

 頷いたシャルロットが元バニーさんに語る内容に心当たりがあった俺は制止しようとしたが、遅かった。

 

「アストロンっ!」

 

 シャルロットの呪文が完成した瞬間、俺は人の形をとった鉄の塊と化し。

 

(というか、ここまでやりますか、しゃるろっとさん)

 

 パーティーを無敵にする代わり行動不能にする原作でも殆ど使った覚えの無かった呪文をかけられるという貴重な体験をしつつ、俺は遠い目をすることを禁じ得なかった。まぁ、信用のなさは身から出た錆なのだが。

 

(しかし、アストロンって効果時間は短かったはず……あ)

 

 効果が切れたらどうするのかなぁと思いつつ、ただ立ちつくしていると、案の定効果は切れ。

 

「アストロンっ!」

 

 再び呪文を唱えるシャルロット。

 

(やっぱ、そうなるか)

 

 ぶっちゃけ、俊敏さなら俺の方が上なので、効果が切れた直後に逃げ出そうと思えば逃げられるが、流石にそれをする気はない。

 

(と言うか、宿屋の廊下で鉄塊化して他の宿泊客とか来たらどうするのかなぁって疑問に思うのは無粋かな?)

 

 身体が動かせない以上、出来るのは考えることだけ。

 

「アストロンっ!」

 

 シャルロットと仲良く鉄の塊になる時間はこうして過ぎて行き。

 

「お、お待たせしました。しゃ、シャル」

 

「あ、うん。それじゃ、ミリーお願いね?」

 

 出てきた元バニーさんへ首を縦に振ったシャルロットが今度は部屋の中に引っ込む。

 

「今度はミリーか。こういうのは変かもしれんが、よろしく頼む?」

 

「はっ、はい。ふ、ふつつか者ですが……そ、その宜しくお願いします」

 

「あ、ああ」

 

 緊張でもしたのかお嫁さんのそれになっちゃってる元バニーさんの挨拶に突っ込むのも無粋かと応じれば。

 

「そ、それではご主人様、失礼します。も、モシャスっ……アストロンっ!」

 

 どうやって俺の動きを止めるつもりなんだろうと少しだけ好奇心が頭をもたげた俺の前でシャルロットに変身した元バニーさんは、鉄塊化呪文《アストロン》を唱えて俺諸共鉄塊と化したのだった。

 

 




そう言えばこの呪文の効果って3ターンでしたね。

某、大冒険とかで使われたりしたのってもっと効果時間長かった気がしたのですが。

あれは使い手の家庭教師が凄いのか。うーむ。

次回、第百五十四話「であいとわかれのさかば」


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