「いらっしゃいませにゃ!」
酒場へ足を踏み入れた俺達を出迎えたのは、特徴的な語尾の推定遊び人のお姉さんだった。
「ん?」
「どうしました、お師匠様?」
「いや……あの店員、何処かで見覚えが。初対面の様な気もするのだがな」
何故か懐かしさを覚え、だがその理由がわからなくて。
「三名様ですにゃね? それではお席にごあん……にゃ? にゃ?にゃああああっ?!」
俺が、困惑する中店員のお姉さんは元バニーさんの顔を見て固まったかと思いきや、いきなり大声を上げる。
「み、ミリー、いったい」
「ミリー先輩……ですにゃね?」
「あ、そっか」
店員さんの反応は明らかに元バニーさんを見て、当然シャルロットは問いかけようとするも、恐る恐ると言った態で確認してきた店員さんの言葉に疑問は氷解したらしい。
「ミリーも元はここの従業員だったっけ」
「成る程な」
この遊び人さんから見れば元バニーさんは元先輩でしかも勇者パーティの一員としてバラモスを倒す戦いにも参加していたのだ。それなりにあこがれの人だったのかも知れない。
「先輩の残された覚え書きにはいつもお世話になってますにゃ!」
「えっ、そっち?!」
「まぁ、好意を抱いてはいたようだな……」
割と大げさにシャルロットが驚いてくれたので、堪えてさらりと流せたが、一歩間違えばシャルロットのようにツッコんでるところだった。あぶない、あぶない。
(師匠としてのイメージが崩壊しかねないからなぁ。まぁ、ルシアのぶっ飛んだ行動にはいつも振り回されてたけどさぁ……あれ?)
ルシアって誰だ。しかも、振り回されていた、とか。
(ん? 待てよ? ルシア、ルシア……あっ)
その名を反芻して、思い出す。原作のパーティーメンバー、遊び人から賢者へ賢者から盗賊に転職させた男盗賊、つまりこの身体の持ち主の他にもう一人、同じ経緯で盗賊にした女盗賊をパーティーに入れていたこと、そしてその女盗賊の名前がルシアだったこと。
(じゃあ、今のは身体の持ち主の記憶?)
何故今更になって。いや、考えるまでもない。目の前の遊び人のお姉さんだ。
(この世界での俺が遊んだゲームの中のパーティーメンバー、あのルシアがこの子だと言うなら、このタイミングで俺のものでない記憶が浮かんできたことも説明がつく)
となると、もう一人のヘイル。つまり、この世界のこの身体の持ち主もアリアハンの何処かに存在する可能性はある。
「お師匠様、どうされました?」
「ん? あ、あぁ、ちょっと考えごとを、な。それはそれとして……」
ただ、気にはなったが今優先すべきは他にある。シャルロット達を連れてきたのは、説得する為なのだ。
「商談用の個室を一つ、使わせて貰えるか? ルイーダには事前に連絡が行ってると思うが……」
「にゃ? あ、し、失礼しましたにゃ。伺っておりますにゃ、どうぞこちらに」
話を振れば我に返った店員さんんことルシアさんは店の奥を示して歩き出し。
「ああ。いくぞ、シャルロット、ミリー」
二人を促し、俺も後に続く。
(さてと、問題はここから……個室に着いてからだ)
話の内容、順番、この日のために数日前から考え、カナメさん達に相談もした。
(だからこそ、しくじれない)
ルシアさんの後ろ姿に着いて歩く中、密かに拳を握り込む。
「えっと、こちらですにゃ」
「ありがとう。ついでに聞いておくが、一組の男女が俺達より先に尋ねてくることは無かったか? 俺にではなく『勇者シャルロット』に会うためとかで」
やがて立ち止まったルシアさんへ礼を言うと部屋の入り口に姿のないポルトガのカップルのことについても聞き。
「勇者シャル……そ、そんな方はいらしてませんにゃ」
「そうか、すまん。世話をかけた」
返ってきた答えに軽く頭を下げて応じつつ、脳内で先に二人が来ていた場合のプランを没にした。
(しかし、元バニーさんの時に比べるとシャルロットの名前を出したのにあんまり驚いてないけど……まぁ、元バニーさんと一緒に居るって時点で予想はつくもんな)
流れからすると俺の素性も察しているかもしれない。
(って、違ぁぁぁぁう!)
何故ルシアさんの反応気にしてるんだ、俺。これからシャルロット達との説得に望まねばいけないって時に。
「ご主人様?」
「何でもない、入るぞ」
動きが止まっていたのを訝しまれたか、名を呼ぶ元バニーさんを誤魔化しつつ個室のドアへ手をかけ。
「あ、は、はい。シャル?」
「うん、えっと、お邪魔します」
中に踏み込めば、二人もすぐに入ってきた。
「さて……やはり、まずは謝っておくべきなのだろうな」
謝らなければいけないことが多すぎてどれから謝るべきか悩むレベルだが、ただ。
(その前に、確認しないと)
ポルトガでシャルロットの捜索網に俺は捕まった訳だが、あの時までこちらがもたらした情報と言えば、忍ばせた手紙が一つ。
(事態を何処まで把握してるかで、話の持ってき方も変わるから――)
まずは、最初から話す。
「バラモスを倒し、アリアハンへ帰還した後のこと。ゾーマの存在をとある筋から知った俺は、ゾーマが何らかの行動に出るのではないかと疑い、はたしてアリアハンへやって来た大魔王ゾーマと城の外で戦った……」
「……お師匠、さま?」
「……ご主人、さま?」
二人は突然話が飛んだからか、面を食らっているようだったが、俺からしてみれば好都合。
「そこで大魔王が倒れればそれも重畳、そう思っていた……」
だが、あの時俺は敗北した。そう、負けたのだ。
次回、第百五十六話「師、曰く」