「じゃあ、やっぱりお師匠様は大魔王のこと知っていらしたんですね」
話を、ゾーマに見逃されたところまで話したところで、口を挟んできたシャルロットの言葉に、俺はああと頷いた。
「アンやトロワ……アークマージは本来ゾーマの居城に務める程高位の魔物なのだが、一部の者があやしいかげとしてこちらの世界に派遣されているらしい。アンもその口だったはずだが、以前俺は別のアークマージに遭遇したことがあってな。そいつは隠行に気づかず、潜んでいた俺に色々情報を与えてくれた……それで、だ」
「ば、バラモスが倒れた事をゾーマが知ったら何らかの行動に出ると、ご主人様は……」
「思った。だが、俺が驕ったせいであの態だ。お前達に話を通せばゾーマは油断すまい。むしろ、独自で動いたからこそ意表は突けたが……結局、自分を追いつめうる者が居ると知らしめ、警戒させることになってしまった」
失策だった。
「道具袋に忍ばせた手紙に書い」
「「えっ」」
悔いつつ続けた言葉に驚きの声が上がったのは、この瞬間。
「て、手紙?」
「ご、ご主人様、それは?」
「い、いや、『ゾーマを警戒させた俺がお前達と動くのはさらにゾーマを警戒させる、よってパーティーから抜ける』という内容の手紙だが、お前達気づいて……無かったようだな」
慌てて道具袋を漁り始めたシャルロットと元バニーさんを見て、俺は連絡が上手くいっていなかったことをようやく知った。
「あの時は時間もなかった。よって、長文の手紙を書く時間もなかったからな。だから今こそ話そう。俺があの後何をしていたかと、これからのことについて」
いよいよ正念場だ。
「この世界の何処かに神竜と呼ばれる竜が居る。戦い、勝てば願いを叶えてくれると言われる竜だ」
「勝てば願いを? ご主人様、まさか……」
「ああ。俺はこの神竜に挑むつもりで居る。そのつもりで、今までも準備をしていた。お前達のゾーマ討伐に直接関わればゾーマを警戒させてしまうからな。違う形で何か支えることは出来ないかと考えて真っ先に思い至ったのがこれだった」
叶えて貰う願い事で、不測の事態に陥った時そのフォローに回れるからなと俺は補足し、更に続ける。
「それだけではない。もし、願い事がゾーマとの戦いに不要となった場合でも、叶えたい願いがあった……神竜は死者を生き返らせることが出来、その願いを叶える力はミリー達の使うザオリクすら凌ぐ。つまり、呪文では生き返らせられなかった者を蘇生させる事も叶うかもしれんのだ」
「お師匠様、それはひょっとしてボクのお父さんのこと……ですか?」
「いや」
ここでそうだと答えれば、父親は生きてるので大丈夫ですとシャルロットは言おうとしたのかもしれない。だが、敢えて横に首を振り。
「俺が願うのは、ゾーマと人間との戦い及びその余波で命を落とした勇者一行の家族全員の蘇生だ。つまり、バラモスの出現によって凶暴化した魔物に襲われ亡くなったミリーの父親、アンの夫でありトロワの父であるアークマージ、勇者一行としたのだからおそらく勇者クシナタとその仲間達にまで効果は及ぶやもな」
目的の一つを敢えて明かし、嘯いてもみせる。クシナタ隊はもともと俺との繋がりで勇者一行と見なされていた。だからこれは方便だ。
「ご、ご主人様……で、では、私達の為に?」
「本当は明かすつもりなどなかったのだがな。この目的を明かせば、お前達はこっちに着いてくると言いかねん。だが、それではゾーマの討伐が遅れ、魔王軍の犠牲になる者が増えてしまう。それに神竜が叶えてくれる願いは、挑戦者一グループにつき三つまでとも聞いている。ひょっとしたら叶えて貰える願いが増えるかもしれんと言うのに、わざわざその可能性を潰す必要もあるまい?」
「み、三つですか?」
「ああ、三つだ。ただし、一つ叶えて貰うごとにより厳しい条件で挑んで勝たねばならないとも聞くが」
その叶えて貰える願いの一つが原作では忌まわしいあの書物一冊というのが凄く解せないとも思ったが、それはそれ。
「……俺は、この三つの願いを叶えて貰うべく、密かに戦力を集めていた」
正確には集めた戦力を鍛えていただが、シャルロット達には言えない、だから敢えて言葉を換え、説明する。
「イシスにお前達も利用したあのはぐれメタルの修行場があるからな。実戦経験が養えないというネックはあるが、あそことダーマを往復すれば素質や個人差という誤差はあれ、理論上お前達と互角の戦力は編成出来る」
「あ、あそこですか……」
「ああ。むろん風呂の方は使わせるつもりもないがな……」
イシスとはぐれメタルというキーワードに反応して元バニーさんが赤面したので、敢えて言い置き。
「そう言う訳で、人員はメドがついている。後は出来たらアレフガルドの地にのみ販売されているという強力な武器防具を揃」
「そ、それでしたらボク達に任せて下さい!」
最後まで言い終えるよりも早く食いついてきたのは、シャルロットだった。
「た、確かにお話を聞くと一緒に冒険をするのは難しいかも知れませんけど‥…『武器防具を手に入れて届けに来る』ぐらいなら問題有りませんよね?」
「い、いや、それはそうだが……」
「シャル?」
「ミリー、聞いて! お話を聞いて思ったんだ。一緒に旅は出来なくてもお届け物をした時に会いに来ることなら出来るって。幸いボクもミリーもルーラの呪文は使えるし、お師匠様もボク達の旅が遅れるのには気兼ねすると思うから、交代交代って事にすれば――」
あるぇ、なにこのながれ。というか、しゃるろっとさん、そういう おはなし は もっと ひそひそする たぐい の もの じゃないのでせうか。
「そして、ルーラで精神力を使ったからって理由でその日は……」
と おもったら、こえ を ひそめ はじめるし。
「そ、そうですね。で、では、シャル」
「うん」
どうやら話は纏まったらしい。俺としては想定外の展開なんですが。
「お師匠様、武器防具の件、ボクとミリーが必ず成し遂げます。ですからご安心を」
「あ、ああ」
とてもではないが、もう手配済ませてるんですよと言える空気じゃなかった。
(か、かんがえよう に よって は これ で ついてきて とは いわれなくなった わけだし)
妥協しておくべきなのだろう、きっと。俺は複雑な心境を押し隠しつつも、天井を仰いだ。
一件落着、かなー?
次回、第百五十七話「じゃあ、今度はボク達のお話の番ですよね、お師匠様?」
なぜだろう「おはなし」のはずなのにお話し以外と言うかお話以外のことをしようとする流れにしか見えない。