強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百五十七話「じゃあ、今度はボク達のお話の番ですよね、お師匠様?」

「じゃあ、今度はボク達のお話の番ですよね、お師匠様?」

 

 ただ、妥協したからこれで一件落着だったと思った俺はシャルロットの口から出た問いを理解するのに、少々時間を要した。

 

「……お前達の?」

 

「はい」

 

 即座に肯定しつつ、マントに手をかけるシャルロット。

 

「ミリー、本当にボクからでいいの?」

 

「し、知ってますから……シャルが、ご主人様との再会をどれだけ待ちわびていたかも……」

 

 マントを脱いだところでそれを抱えたままシャルロットが元バニーとやりとりをかわすが、俺は完全に置いてけぼりだった。

 

(とは言え、ここで説明を求めるのはどう考えても空気読めない人だし……)

 

 流れで察そうにも、父親代わりの俺にこんな場所でマントを脱ぎビキニ姿になって何をするのかなんて想像もつかない。

 

(ん、いや……そうか)

 

 否、一つだけ有った。何度もやったことでもある。

 

(技の伝授、かぁ)

 

 最後に伝えたのはムール君にだが、思い返してみればシャルロットには教えると言いつつも結局伝授せずじまいで今に至っていたような気もする。

 

「そう言うことか、ならば」

 

 俺も脱がねばならない。即座にマントに手をかけ外すと、続いて服の上も脱ぎ捨てる。

 

「おっ、お師匠様?」

 

「あ」

 

 何故か先に脱いでいたシャルロットが慌て出すが、解せない。元バニーさんは元バニーさんで固まってしまってるし。

 

(まだ上を脱いだだけなんだけどなぁ……さてと)

 

 続いて下も脱ぐと言いたいところだが、その前にすることがあった。

 

(モシャスを使う理由を誤魔化さないといけないからな)

 

 これについては考えがあった。マントを脱ぐ時外した鞄へ徐に近づくと表面をシャルロット達に見られないようにしつつ、一枚の羊皮紙を取り出す。

 

「準備は調った、な」

 

 手にしたこれを一回限り読むことで呪文の効果を発動させる使い捨ての巻物だと偽ることで、俺はモシャスの呪文を使う。

 

(使った後なら効果を失ってただの羊皮紙になったって言い訳出来るし)

 

 一回こっきりのアイテムと説明すると二度使えないという欠点もあるが、効果時間内に伝授出来なければ、巻物を再入手しておくのでまた次の機会にとシャルロット達の話を打ち切ることも出来る。

 

(俺としてはモシャスの使える元バニーさんから教えた方が効率も良いんだけど、当人達が納得してる様子なのに混ぜっ返すような真似をするのはなぁ)

 

 明らかに無粋だ。

 

(それにシャルロットも……あれ?)

 

 こちらが何か言う前に自分からマントを脱ぐ程やる気のようだったから、と心の中で続けようとして、ふと気づく。下着姿やそれに近い姿になることが奥義伝授の下準備だと教えた記憶がないことに。

 

(ちょっと待て、だったらなんで……あ)

 

 マントを脱いだんだと疑問を抱いた俺が思い出したのは、シャルロットにとっての黒歴史。忌まわしき品(がーたーべると)でシャルロットがせくしーぎゃるっちゃった事件であり。

 

(って、ことは……シャルロットは奥義伝授して欲しかった訳じゃなくて、せくしーぎゃるってたと?)

 

 今更ながらに嫌な汗が出てきた。見たところがーたーべるとは着用していないものの、えっちなほんのページを見たせいで中途半端に影響を受けてしまっている例がここにある。

 

(何らかの理由で、残りのページをたまたまシャルロット達が見てしまったとしたら……)

 

 パズルのピースがかみ合うように、真相が見えた。

 

(やばい、大ピンチじゃないですかぁぁぁぁ!)

 

 どうしてこのタイミングまで気づかなかった、俺。

 

(ど、どうしよう? このまま勘違いしてる振りをして奥義伝授しちゃうとか? いや、自分にモシャスで変身した俺が今のシャルロットにどんな影響をもたらすかも不明だし……)

 

 結果的に女の子同士に目覚めましたなんてオチにでもなろうものなら、シャルロットのお袋さんに土下座したぐらいでは済まされない。

 

(数年後、そこにはシャルロットの姿でウェディングドレスを着てシャルロットと並び式をあげる俺の姿が……って、やめろ俺の想像力っ!)

 

 いろんな意味でアウト過ぎる。そもそも師匠兼父親代わりがどう飛躍すればそこに辿り着く。

 

(そもそも想像で遊んでる場合じゃないだろ! 何とかこの状況を打破しないと……)

 

 ああでもないこうでもないと打開策を模索する中、ドアに備え付けのベルが鳴り。

 

「っ、何かあったらしい……俺が用件を聞いてこよう」

 

 これ幸いとばかりに脱いだ上着に袖を通すと俺はドアへと向かう。防音の部屋だからこそこの部屋へのノックは意味がない、そこで備え付けられたのが外からの操作でなるベルなのだ。

 

「どうかしたか?」

 

「恐れ入りますにゃ、つい先程男の方と女の方が、勇者シャルロットを尋ねてこられまして――」

 

 ドアを開け顔を出せば、立っていたルシアさんが告げたのは、来客の到着。おそらくはポルトガのカップルだろう。

 

(あの時、声をかけて良かったと思う日が来るなんてなぁ……)

 

 うまく行けばこれで話は有耶無耶に出来る。せくしーぎゃるったシャルロット達をどうにかするという問題も残されているが、そこは頼れる味方が近くにいるのだ。

 

(トロワにシャルロット達用のプレゼントを改良して、性格改変アクセサリーにして貰えれば、せくしーぎゃるは一時的にしのげるはず)

 

 後は、アクセサリーで二人のせくしーぎゃる化を抑えてる内に性格を変える本を入手読ませてやればいい。

 

「用件はわかった。中に戻ってシャルロットに伝えてくるとしよう」

 

 ピンチを抜け出せそうなことにホッとしつつ、請け負った俺は部屋の中へと戻るのだった。

 

 




いやー、本当に危ないところでした。

次回、第百五十八話「出発」


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