「……と言う訳で、お前に来客のようだ。とならば、そのまま合う訳にも行くまい?」
シャルロット達の元に戻った俺は事情を説明すると、マントを羽織るよう言外にシャルロットを促すが。
「……もうすこし、だったのに」
「シャルロット?」
俯いたシャルロットは心ここにあらずのようであり。
「シャルロット……」
俺は途方に暮れた。ピンチを出したかと思えば、来客が会いに来た相手があの有様では、会わせるのも憚られた。
「どうしたものか……」
一応
(呪文の効果が談話中とかに切れたらアウトだしなぁ)
頻繁に席を外してかけ直せば、不審がられるだろうし。
(「お礼をするため面会した勇者様は体調が優れないようだった」とか誤解される恐れだってある)
この体調不良というのは曲者だ。俺も前にシャルロット達から不治の病か何かと勘違いされたことがあったと思うが、変な推測を呼んで大事になる恐れもある。
(一番最悪のケースは「アリアハンの勇者シャルロット、ご懐妊の様子」とかかな……元の世界程の娯楽は無い世界だし、うわさ話とか結構軽視出来ないし……)
そんなデマが広がった日には、父親として疑われるのは、まず間違いなく俺だ。アランの元オッサンには魔法使いのお姉さんが居るし、シャルロットと長期に渡って旅をした異性はアランのオッサンを除けば俺しか居ないのだから。
「普通に考えれば、この時期に妊娠など拙いとわかりそうなものだが……」
って、ゾーマの事をこっちの世界の人達は殆どが知らないから、そう言う発想には至らないのか。
「あ」
「ん?」
ふいに聞こえた声に俺が振り向いたのは、そのすぐ後のこと。
「……そっか。何でそんなことに気づかなかったんだろう」
「しゃ、シャルロット?」
何やら晴れ晴れとした顔ですっくと立ち上がったシャルロットは、困惑する俺の前に歩いてくると、ごめんなさいお師匠様と頭を下げた。
「ボクが間違ってました。そうですよね……お師匠様の言う通りです。何でそんなことに気づかなかったんだろ……あ、ええと、ボクに来客があったんでしたっけ?」
「あ、ああ」
「それじゃ、お話聞いてきますね。お師匠様、ボク、なるべく早く大魔王ゾーマを倒しますから……お話の続きは、その時にでもっ、それじゃ、失礼しますっ!」
何がどうなってるのかわからない、急に元気になったシャルロットは、外に飛び出して行き。
「ふにゃああっ」
「わっ、ごめんなさいっ」
勢い余ってルシアさんとぶつかったらしい閉じきらないドアの向こうから悲鳴と謝罪の声が聞こえ。
「……ミリー、済まないが」
「は、はい。わ、私もシャルと同じで……」
「そうか」
意味不明ではあるが、ピンチはひとまず去ったらしい。
「ならばすまんが、俺はちょっと外に出てくる。ルイーダへの伝言を頼んだ相手に礼も言っていないのでな」
正確には、さいごのかぎを確保するため旅立つスミレさん達を見送るのだが、わざわざ正直に明かす必要はない。
(それから、登録所の方に行ってこっちの世界でのこの身体の持ち主が居るかも調べておくべきだよな。ヘイル……この身体の持ち主は勇者一行の初期メンバーじゃなかった訳だし、遅れて冒険者登録されていたんだとしたら、調べれば条件に合致する人材が居る可能性はある)
もし、こっちにも遊び人のヘイルが存在した場合、イシスで鍛え上げ、転職を繰り返せば理論上二人目の俺が誕生することになる。
(そうすれば、俺が元の世界に戻ったとしても……いや、駄目だ)
一瞬よからぬ考えが頭を過ぎったが頭を振ってそれを振り払う。
(人に自分のやって来たことを背負わせようとか……)
一瞬でも考えてしまった自分のロクでもなさに嫌悪感を覚えつつ顔をしかめた俺は商談用の個室を抜けた足で外へと向かい。
「そうだっよ~ん! 僕ちゃんがあの勇者シャルロットの師匠、ヘイルなのだ。そ~ら、柔らかそうなおしりちゃんに、おっぱいちゃん、全部僕ちゃんが盗んじゃうぞ~」
「や~ん、たすけてぇ」
「きゃ~」
「な」
その途中、酒場のテーブルを回るように追いかけっこする女性二人と男遊び人に出くわし、固まったのだった。
(背負わせるって言うか自分から背負ってやがったぁぁぁ?!)
い、一応語りと言うことも考えられるが、ピエロっぽいメイクをしつつもその男の顔にはどこかで、主に鏡の前でよく見る誰かの面影がきっちりと有り。
「……思わずボコって引っ張ってきた訳だ」
「スー様、さすがにそれはあたしちゃんも無理はなかったって思う」
気づけば俺はぐるぐる巻きにしたもう一人の俺を背負ったまま、海岸でスミレさんに労られていた。無論、この場には他のクシナタ隊のお姉さんも居て。
「スー様を騙るなんてとんでもないです」
「だよね。あ、けどスー様と顔とかは一緒って考えると……」
「ねぇ、スー様、お仕置きに裸にひん剥いてしまってもよろしいでしょうか?」
うん、気のせいかな、あぶないひと が まじってる ような き が するんですが。
「とりあえず、コイツの所業については、ある意味で俺の落ち度だ。二度と騙りをせぬよう、するなら相応の実力ぐらいは持つようきっちりしごいてひとかどの人物にしてみせる」
それが、俺の償いだろう。もはや、このもう一人を自分の身代わりにする気など欠片もない。だが、コイツが同じ顔で色々やらかすのを放置も出来なかった。
「同じ名前で同じ顔、きっとあちこちで比較されて歪んでしまって今のコイツになったのだろう。そう思えば情状酌量の余地もあるし、な」
肩をすくめると、俺は鍵のことは頼んだと続け、もう一人の俺を背負ったまま踵を返した。何とも微妙な見送りになってしまったが、俺にはまだアリアハンでやることも残っているし、合流すべき仲間もいるのだ。
「さてと、次は……あの男への礼だろうな」
ポツリと呟き向かう先は、ただ一つ。アリアハンの城下町にある何の変哲もない井戸だ。俺の敵はそこにいるはずだった。
あっちのお話と落差ありすぎですね、こっちのヘイルさん。
まぁ、遊び人レベル1じゃ、無理もない気がしますが。
そして、偽物の背後からご本人登場は鉄板。
次回、第百五十九話「けじめ」
逃げて、メダルおじさん逃げてぇ~