「悪は滅んだ……と言うのは言い過ぎとして、まぁ、こんな所だろうな」
ゴールドパスを指に挟んだまま、俺は縛ったオッサンに足を乗せ、呟く。オッサンの隣には下着姿の男が縛られて寝ている。
「しかし、見上げた忠義だな……勝ち目はまず無かったというのに」
こんなほぼ性犯罪者でも主と仰いだからか、護衛と思わしき男は抵抗してきた。体感からすると、強さの方はあの覆面パンツの変態泥棒カンダタと良い勝負といったあたりだろうか。
「だが、忠誠心があるというならまず、シャルロットへした事を諫めるべきだった。主が間違ったなら、それを止めるのが臣下たるものの役目だろう」
俺とて鬼ではない。だが、シャルロットへやらかした事を咎めた訳でもなかったと言う点は看過出来ず、無力化したところで、一つの提案をした。物品で償うか、身体で払うかと。
(けど、まさかあの腐った僧侶少女が役に立つとはなぁ)
どこかの劇場で、某僧侶少女の書き上げた物語の主演を務めて貰い、その興行収入を賠償に当てるというのが俺の提案の片方であった「身体で払う」の内容だったのだが、あの腐った僧侶少女、この国では知る人ぞ知る存在であったらしい。
(即答だったもんなぁ、物品で償うって)
ちなみに護衛の男の方も、後者が選ばれた場合、連帯責任で一緒に舞台に出て貰うつもりだと説明したが、あれが決め手になったとは思わない。縛られたオッサンが物品で償うと叫ぶ方が、補足説明を終えるより早かったのだから。
「さて、わかってはいると思うが二度と若者を誑かさんことだ。俺は鬼ではないが優しくも甘くもない。お前達が約束を違えたその時は――」
井戸の地下に隠れ住む中年男と共に暮らす男のラブストーリーが広まると思え、と俺ははっきりオッサンに忠告し、足をどけた。
(本当は、こうどっかの
成り行きで連行してしまったもう一人の俺のこともどうにかしないといけないし、トロワを迎えに行く必要もある。
「しかし……ヘイル、か。ふむ」
確か、俺がプレイしたゲームではヘイルともう一人一緒に育てた女遊び人が居た。
(そう、ルシアさん、なんだよな……イシスで修行させるなら一人も二人も大して変わらないし)
身体の方から流れ込んできた記憶のせいか、あの人も何故か放っておけなくて。
「……ついてくるかどうか、話をしてみる、か」
幸い、ナンパでもしてるのとからかってきそうなスミレさんももうこの国には居ない。
「と言うか、スミレさん達が居ない分イシスの修行場にも空きが出来た訳だし……」
そう言う意味でも丁度良いのかも知れない。
「なら、次はおばちゃんのところに向かえばいいかな、貰うモノは貰ったし」
トロワを迎えに行く訳だが、同時にあのメダルコレクターのオッサンから頂いたお詫びの品を渡すためでもある。トロワの母親であるおばちゃんの目的は勇者一行とゾーマ軍に所属する息子の殺し合いを避けること。
(目的からして今後もシャルロット達と行動を共にするだろうし、だったらおばちゃんに「シャルロット達へ渡してくれ」と言いつつ預けておけば、シャルロット達の手に渡るはず)
同時に何もなければダーマかイシスにいると俺自身の所在を明らかにしておけば、イシスに帰る前にシャルロット達と会う必要も消え去る。
(嫌いって訳じゃないけど、せくしーぎゃるってる可能性があるとわかった以上はなぁ)
シャルロットのおふくろさんに顔向けが出来なくなるような展開は防がねばならない。
(お詫びの品の中に性格改変装飾品もあった事を考えると、ちょっと神経質になり過ぎかも知れないけど)
君子危うきに何とやら、だ。せかいのあくいという俺の宿敵も存在するこんな世界だし。
「ん゛ーっ」
つらつら考えつつ井戸の底に降りた場所まで戻ってくると、そこではまだもがく男遊び人の姿があり。
「……ふ、流石に担いで登るのは無理だからな」
もう少し転がってろと言うなり、俺は垂らされたロープを握り、登り始めた。
「……造作もない、な」
登り切り、井戸の縁に手をかけて飛び出すまでが、だいたい十数秒。そこから鞄を漁り、取り出した布を脇に挟み、もう一人の俺へくくりつけたロープをたぐり寄せ。
「あ」
ふと気づく。
(布を巻いて担いで行くのは良いとして、ルシアさんに声をかける時、こいつどうしよう?)
いくら布を巻こうと、呻き声が漏れる事は大いに考えられる。つーか、人一人分はある上動く荷物なんて担いでる人物に勧誘されてついて行く人間なんて居るとも思えない。
(トロワに預ける……のは、無理だな。おばちゃんのところに行ったら「マイ・ロードには親子水入らずの時を過ごさせて頂きました、これよりは制約通りお側に」とかそんなこと言って着いてきてもおかしくないし)
かと言って、俺と同じ顔の人間をシャルロットの来そうな場所に置いておきたくはない。まして、せくしーぎゃるってるかも知れないシャルロットと出会う可能性のあるような場所には。
(まぁ、流石にあの二人なら俺じゃないって気づくとは思うけど、せくしーぎゃるり過ぎて「似てるからこれでいいや」とか変な妥協されるかもしれないからなぁ)
以前の俺ならそんなことはあり得ないと一笑にふしたかも知れないが、あの手の性格の恐ろしさを知った俺には笑えない。可能性が小数点以下でも存在するなら、断っておく。失敗は許されないのだから。
尚、メダルおじさんへのおしおきはビジュアル的に描写すると読者への嫌がらせにしかならないと判断、省略しております。ご理解ください。
次回、第百六十一話「女の子が声をかけられる事案」
それやった相手の服をはいで、慰謝料要求した極悪人がいると思うんですけどね、主人公さん?
ブーメランにならないと良いなぁ。