強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百六十一話「女の子が声をかけられる事案」

「……成る程、自らの手で性根を鍛え直したいと申すか。ふむ、この世界が救われたのは勇者の師であるおぬしの存在も大きい。罪人は区別することなく法の裁きを受けさせるモノではあるが、今回の騙りで一番に被害を被ったのもそなたであろう故な」

 

 悩みに悩んだ俺が出した結論は、国家権力を頼ることだった。一応アリアハンの国王から見た俺には、勇者を育て、また補佐をしつつ魔王バラモスを倒したという功績がある。だからだろう、俺のお願いはあっさり通ったらしい。

 

「そやつのことは任せておくが良い。確かにこれほど顔立ちが瓜二つでは混乱を招くというおぬしの言い分も尤も、おぬしがこの国を旅立つまで一つの部屋に閉じこめ監視下に置けばよいのであろう?」

 

「あぁ」

 

 王の言葉を俺は頷くことで肯定した。甘いかも知れないが私的制裁はするつもりなので、その上で一時的にでも牢屋に放り込むのはあんまりかと思いお願いに注文を加えた結果が、今王が口にした処置である。

 

「俺の記憶が確かなら、牢は隣に先客が居た。鉄格子越しに話の出来るあの地下牢の構造だと面倒くさい事になりかねんからな」

 

 そんな地下牢に入れるのも拙いという表向きの理由つきで、もう一人の俺については国家権力に一時預かりして貰い。

 

「そして、先程も述べたが……バラモスが倒された以上、俺の役目は終わった。交易網はあのスレッジが育てた魔法使いも居る、捜し物でこちらから頼ることこそ有るだろうが、逆にあちらについても俺が出来ることはほぼ無かろう」

 

「うむ……その才覚惜しいとは思うが、決意は固そうじゃな」

 

 王は、鎖を付けることは不可能と見たのだと思う。同時に下手な駆け引きでこちらの心証を損ねるのも損と思ったのか、それ以上引き留める異様な真似はせず。

 

「だが、これだけは覚えておくが良い。おぬしはこの国の、世界の恩人であると同時にこの国の民でもあると」

 

 つまり、いつでも門は開いてるから帰りたくなったらいつでも帰ってきて良いのよとかそう言うことなのだろう。

 

「そう、だな……」

 

 神竜に挑む人員についてはもう充分だし、メダルコレクターのオッサンから貰うべきモノは貰った。この国に立ち寄ることがあるとすれば、バシルーラの呪文でパーティーメンバーが飛ばされた時ぐらいだろうが、世の中、絶対と言うことはない。

 

「心の端に留め置こう」

 

 もう一度頷き、王への謁見は終了した。預けたもう一人の俺を取りに来る時は、直接あいつの押し込まれた部屋の方に赴き、兵士と話し引き取る形になるそうなので、ひょっとしたらあの王と会うのは、これが最後になるのかもしれない。

 

「そうか、ならば行くが良い! ヘイルよ! また会おう!」

 

「ふ……ああ」

 

 原作で言うところのゲームの中断と続行を混ぜ合わせたような言葉をかけられ踵を返した俺は、そのまま階段へ向かい歩き出す。

 

(さて、次は宿屋に行って最後に酒場だな)

 

 もしルシアさんがついてきてくれる事になった場合、その後でシャルロット達と会うのはいささかばつが悪い。

 

(「お前達とは一緒に行けないけど、この人は別だよ~」なんて間違ったメッセージを受け取ることはないと思うけど「李下に冠を正さず」って言もんなぁ)

 

 紛らわしいことは避けるべきだ。

 

「出来ればシャルロット達とは鉢合わせしたくないところだが……」

 

 メダルコレクターのオッサンに制裁を科した時間と、王に謁見してあの男遊び人を預けるのに要した時間を考えると、ポルトガの元呪われカップルとの面会は終わっていると考えていい。

 

(話の続きはゾーマ倒した後ってことだし、せくしーぎゃる全開で迫ってくるなんて事は無いと思うけど)

 

 影響を受けてる可能性があると言うだけで気後れしてしまうのだ。

 

「まぁ、まごついていても仕方ないし、覚悟を決めろってことかぁ……」

 

 むしろ宿屋でトロワを引き取れば勇者一行も心おきなくゾーマ討伐の旅に戻れるのだ。旅立ちを見送ったなら、ルシアさん勧誘中にばったりなんて展開がなくなる。

 

(ものは考えよう、か)

 

 考えつつ宿屋へ続く通りを進み。

 

「っ、サラ……か」

 

「あら、盗賊さんではありませんの?」

 

 声をかけたのは、ある意味予想外であるが不思議ではない人物。たまたま出会った勇者一行内カップルの片方、魔法使いのお姉さんであり。

 

「アランと一緒ではないのだな?」

 

「ええ、あの人は教会ですわ」

 

 問いかければ頷き、視線で示されたのは城の堀の横に立つ教会の尖塔で。先端のシンボルが現実世界にもあったアレであるところに、そう言えばまだこのころはあっちだったなぁとこの世界の人には意味不明であろう事を胸中にて呟く。

 

「しかし、教会に用というと、僧侶だった頃の何かか?」

 

「いえ、どちらかというと別件ですわね」

 

「別件?」

 

 心当たりが無く、首を傾げた俺に魔法使いのお姉さんは言った、結婚式のことですわと。

 

「やっぱり、故郷であるこちらで式をあげるのも良いと、思っていたのですけれど――」

 

「なるほど、な」

 

 バラモスを倒して挙式するはずが、俺の逃亡がきっかけになり、大魔王ゾーマの存在が判明、結婚してる場合じゃねぇって流れになったのだろう。

 

「つまり、式のキャンセルというか延期の手続きをしていると?」

 

 シャルロットもゾーマをさっさと倒してお話の続きしますねお師匠様とかそんな感じのことを言っていた、要するにゾーマを倒すメドぐらいはついているのだと思われる。

 

「成る程、俺もうかうかして居られんな」

 

 このままのんびりしていては、世界が平和になったのに神竜にまだ一度も勝負を挑んでいないなんて事になりかねない。

 

(帰りはリレミトで良いとして、神竜の元まで向かうダンジョンは曲者なんだよなぁ。ルーラで中継点の何とか王の城まで飛ぶと中継点まで飛ぶので一日使っちゃうし、徒歩であのエクストラダンジョンを進んだ方が早い気もするとなると、魔物との遭遇で消耗するし)

 

 などと、つい思考は逸れてしまったが、考えるなら後でも出来る。

 

「では、シャルロット達は?」

 

「おそらくですけれど、ゴールド銀行にお金をおろしに行かれましたわ。盗賊さんがお願いしたのでしょう、アレフガルドの武器防具が欲しいと」

 

 どうやら宿で鉢合わせすることは無いらしい。ああそうだったなと応じた俺は適当なところで会話を切り上げると宿屋に向かうのだった。

 

 




着々とエンディングが近づいてますね。

真偽はさて置き、主人公の中ではアリアハン国王と会うのは今話が最後かも知れないと思ってる風味ですし。

尚、勧誘シーンまで到達出来なかったので、声をかける相手を魔法使いのお姉さんに変更しました。

次回、第百六十二話「おむかえ」
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