強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百六十四話「回収と出立」

 

「すまんな。さて、話が来ているならわかると思うが、俺達はこれから預けたモノを回収してイシスへ飛ぶ」

 

 ルシアさんへ頭を下げ、続けた言葉はルイーダさんへのもの。

 

「そう。それじゃ、他の娘にも話はしておくわね」

 

「お願いしますにゃ。それから、ルイーダさん、今までお世話になりましたにゃ」

 

 もう一人の俺さえ回収すればアリアハンへとどまる理由もない。雇用者と雇用主のやりとりを視界の端に入れつつ、俺はトロワと従者の名を呼ぶ。

 

「はい、マイ・ロード。なんでしょうか?」

 

「次は城に出向き、今し方口にしたように預けたモノを受け取ってからルーラの呪文でイシスへ戻る。ルシアに身支度の時間が居るかもしれんからな。もし、補充しておきたい品があるようなら言ってくれ」

 

 性格改変アイテムなんかもメダルコレクターのオッサンから頂いた品物のお陰でトロワに作成をお願いする理由は消滅した。

 

(つまり、その手の素材を消費する理由はなくなった筈なんだけど、あくまでこっちの依頼分だからなぁ)

 

 トロワが自分のために何か作ったとか、腕を磨く、あるいは鈍らせないために何か作っていたとしても不思議はない。

 

(それ以外にも、久しぶりに会った母親に何か作って贈ったとか)

 

 綺麗になってもマザコン部分は直っていない模様のトロワなら充分あり得ることだ。

 

「あ、ありがとうございます。で、では、寄り道させて頂いても?」

 

「構わん。ルイーダ、そう言う訳だ。俺達は物資の補充をしてから城に向かう。部屋の使用料はゴールド銀行から引き落としておいてくれ。ルシア、準備が終わったら城の入り口へ来てくれ。不審がられぬよう門兵には話しておく」

 

「ありがとうございますにゃ」

 

 頷き、後半をルシアさんに振れば感謝の言葉が返ってくるが、礼を言いたいのはこちらであり。

 

「いや、気にすることはない。城の前で会おう。ゆくぞ、トロワ」

 

 頭を振った俺は商談用の個室を出ると、その足で酒場の外へ向かう。

 

(ルイーダの酒場、かぁ。そう言えば、全てはここから始まったんだっけ)

 

 気が付けば、この酒場の一角でテーブルに着いていたと言うのがこの世界に来て最初の記憶だったと思う。

 

(って、感傷に浸ってる時間はないな。ルシアさんとの合流をシャルロット達に見られないためにも買い物を済ませてさっさと城に向かわないと)

 

 俺を捜すのにアリアハンの国自体も協力していた様だし、そうなるとお礼なり何なりでシャルロットがお城にやって来る事は充分に考えられうる。

 

「早めに足を運んでおけば、選択肢も増える。居ないようならさっさと用件を済ませば良いだけだし、先に来ているならやり過ごせばいいだけだからな」

 

 タイミング悪く鉢合わせって最悪のケースであっても盗賊としての気配察知能力と割とお世話になっている透明化呪文を併用化すれば切り抜ける事は難しくない。

 

(あんまり色々考えてると、それが逆にフラグになりそうだけど)

 

 だからこそ、思案はこの辺で切り上げるべきだろう。

 

「トロワ。入り用なのは何だ? 商店はある程度固まってると思うが……」

 

「布です、マイロード。金属はこちらよりイシスで求めた方が、安く質の良い物が手にはいると思いますので」

 

「なるほどな」

 

 原作でもアリアハンで扱ってる武器は良い物がなかった。今は交易網が広がって外国から多彩な品が入ってきてると思うが、有ったとしても他所から運んできたならその分値段が高くなる。

 

「それに、あちらならはぐれメタルの身体の一部も手に入るかも知れませんし、はぐれメタルにかかわらず、モンスター格闘場の有る町では命を落とした魔物の素材が密かに売りに出されることもあるそうですから」

 

「そ、そうか」

 

 言われてみると有りそうだなと納得するが、と言うかどこからその情報拾ってきたんですかトロワさん。

 

「マイ・ロード、どうされました?」

 

「いや、何でもない」

 

 聞いてみたいと思った時に顔を覗き込んでくるとか、聡いというか。ひょっとして、イシスでの修行の成果だったりするんだろうか。

 

「話はわかった。だが、それなら布地もあちらで仕入れては駄目なのか?」

 

「それも一つの手ではあるのですけれど、良い品は値段が張ってしまうので、易価な物も仕入れておきたくて。それはそれで部屋着とか下着のようなモノぐらいにはなりますから」

 

「っ、すまん」

 

 下着のくだりで微かに頬を染めたトロワへ、俺は謝った。プチ墓穴を掘ってしまったらしい。その後、気まずさを誤魔化すため、足早に店へ向かい、顔見知りに出会うことなく買い物を済ませられたことは怪我の功名かもしれないが。

 

「アリアハンのおし……これは、あなたは」

 

「お役目ご苦労。預けていた物を引き取りに来たのだが、通っても良いな?」

 

 俺が声をかけると門兵はもちろんですと首肯して見せ。

 

「それから、ここにルシアと名乗る遊び人が来るかもしれん。用事があって俺が呼んだ者だ。中から出てくるのに手間取った場合、ここで俺を待つと言うかもしれんが――」

 

 とりあえず、ルシアさんのことも伝えてから城の中へと足を踏み入れる。

 

「さて。トロワ……これからとある男と会うことになるが」

 

 驚くなよと俺は事前に言った。

 

 

 




次回、第百六十五話「続・回収と出立」
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