「さてと、あの二人はあれで良いとして――」
空の旅を終えイシスに到着した俺はクシナタ隊のお姉さん達にルシアさんともう一人の俺の修行を任せるとモンスター格闘場を出て、東北東――転職を司るダーマ神殿の方角を向いた。
「問題はあちらの混雑くらい、か」
(一応、勇者一行の一人だったからとか勇者の師だからって理由で特別に優先して転職させて貰うことは出来ると思うけど……)
小心者だからか、特別扱いに後ろめたさは感じてしまうのだ。
(神竜に挑む為のメンバー以外から希望者を募って神殿の手伝いに行って貰うってのも一つの手だよなぁ)
転職の窓口が増えれば混雑も些少は緩和されるだろうし、あの神殿にはクシナタ隊のお姉さん達が何人も世話になっているのだから。
「いつかはトロワにも転職して貰わないといけないし、な」
ちらりと傍らの女アークマージを見てから視線を見えるはずもない遠方の神殿がある方角へ戻す。
「マイ・ロード、ダーマの事をお考えですか?」
「ああ、まぁな」
独言が聞こえたか、主の目をやる方向から察したか、問うてきたトロワへ肯定すると格闘場の方を振り返る。
「で、お前はどうだ? これ以上格闘場で修行して得られるモノはありそうか?」
ないなら転職して新たな呪文を覚えるのも良いと思うのだが、と続けたのは神竜へ挑むのについてくるなら最低限会得しておいて欲しい呪文を覚える兆しがいっこうにないことへ起因する。
「回復か補助、出来れば両方有るなら補助要員を任す事ぐらいはできる」
俺の記憶では、神竜との戦いで有効な火力になったのは、バイキルトをかけられた戦士や勇者、武闘家などの直接攻撃、前者にモシャスで変身した他職の直接攻撃、ギガディンかメラゾーマの呪文攻撃だった。
(今のトロワだと、出来るのは味方が死亡した時の呪文による蘇生ぐらいだからなぁ)
ブレスは原作で使える仲間が存在しなかった為、ぶっつけ本番で検証してみるしかなく、トロワが現在使える攻撃呪文の方は効いたとしても
「ベストなのは、賢者にしてその辺を丸ごと覚えさせることだ。本来なら育成に時間と労力をを要すが、この国の修行場を使えば一週間もかからんだろうしな」
今転職のためダーマに向かうとすれば、帰ってきた頃にはもう一人の俺とルシアさんが賢者へ転職可能になっていると思う。
(で、遊び人のトロワが賢者に転職可能な強さに至った頃、賢者が二人帰ってくる、と)
もちろんこれはコネで並ばず転職させて貰った場合だ。
(ついでに言うなら、トロワの予定も考えないで計算したものでもある)
トロワの作り出すアイテムは有益だ。だが、転職の為に移動したり、修行をすれば当然アイテムを作り様な時間は消滅してしまうが、問題はアイテム作りの時間を勝手に奪ってしまうと言うところにはない。
(当人の希望も聞かず人のスケジュールを勝手に決めてしまう訳にはな)
世話になりっぱなしな相手なら、尚のこと。
「マイ・ロード、転職するとしたら――」
だが、ダーマの方を見たりした上であんな問いを投げかけたなら、聡いトロワが俺の意図に気づかない筈もない。
「良いのか?」
馬鹿な問いかけであるとは言った直後に思った。
「はい。賢者の万能さはマイ・ロードに教えて頂きましたから……」
「そうか」
言われてみれば、トロワには色々見せていた気がする。一番使ったのは透明化呪文だったような気もするが。
(しっかし、そう言う意味でいま、きれいなトロワで居てくれて本当に良かったよなぁ)
以前の子供を得るためには手段を問わないトロワが賢者になってしまったら、俺は自分の貞操を守りきれる自身がない。
(鍵をかけても解錠呪文であっさり解除、透明化呪文でいつでも何処でも姿を消せて、モシャスの呪文で変身も可能)
一応、気配の察知が出来るから透明化痴女の危険度は気配を知覚出来ない人に比べれば低いが、トロワにはアイテム作りの才能もある。
「こんな事も有ろうかと気配を消すアイテムを作っておきました。そして、マイ・ロードの夕食に混ぜておいたのが媚薬ですね。いや~、透明化呪文、こんなに便利だとは思っていませんでした。既成事実の準備は万全ですよ、マイ・ロード?」
なんて、ドヤ顔でにじり寄ってくる旧トロワの姿があっさり想像出来た。
(いや、まぁ今でもアルコール分を摂取するとそう言う俺の天敵と化す危険性は有るんだけど……)
酒は飲ませなければ良いだけだし。
(トロワが賢者としてその域まで成長してくれたなら、神竜へ挑めばいい)
迷うことも躊躇うこともない。おそらく、戦力は揃っているだろう。
「わかった。では、一緒にダーマへ行き、転職したい者が居ないかを確認し次第、ダーマへ飛ぼう。それで良いな?」
「はい」
確認にトロワが頷きと共に答え、俺達は来た道を引き返し始めた。
「飲ませなければ」って、主人公、それフラグじゃ……
次回、第百六十七話「待つ人々と俺」