強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百六十八話「ピチピチギャル」

「あなた、知っていますか?」

 

 原作だったら「はい」か「いいえ」で答えなければならなさそうな質問を投げてきたのは、視界の中に広がるテントの一つから出てきた商人風のオッサンだった。

 

「主語も無しに知っているかと聞かれて答えられると思ってるのか?」

 

「おっと、これは手厳しい。いや、失礼しました」

 

 俺が正論で返すと恐縮した態で頭を下げ、実はともったいを付けて話し出し。

 

「これは噂なのですが、何でも『若作りの書』と言うモノがあれば『ピチピチギャル』に転職出来るそうですよ」

 

「は?」

 

 声を潜めつつ打ち明けられた内容に、思わずただの一音で聞き返していた。

 

「あ~、いや、『若返りの書』だったかな? とにかくそう言う書物が有ればピチピチギャルになれるそうで、これは一大商売チャンスと思いましてね? あなた方のように遠方からキメラの翼とかでやって来られた方には声をかけてるんですよ」

 

「「スー様?」」

 

 オッサンの話に興味を持ったのかクシナタ隊のお姉さんが幾人かこっちに視線を向けてきたが、俺は無言で首を横に振った。

 

「……そうですか。お手数おかけしました」

 

 一応クシナタ隊のお姉さん達に向けて、原作にそんなモン無かったぞと伝えたつもりだったのだが、オッサンは自分に向けた答えと思ったらしく、肩を落としてテントへ戻っていった。

 

「マイ・ロード、首を振られたと言うことは……」

 

「ああ、デマの類だろうな。それなりに物知りだと自負してる俺でも聞いたことがない。まぁ、森羅万象知り尽くしてると豪語する気もないし、現地に赴いて発見し、驚くなんてこともあるにはあるが」

 

 さすが に、あれ は ない。

 

(まぁ、あったらあったでめんどくさい事になるのは目に見えてるしなぁ)

 

 クシナタ隊の半数以上は女性、そして個人的な見解だが、女の人って若さとか美しさには敏感なもの。若作りだの若返りだのと銘打った書物が実在したなら、結託して「探しに行きましょう」と提案が上がってきても俺は驚かない。

 

(そもそも、そんな有るかどうかも不明な書物追っかけ回すぐらいなら、別パーティー編成してイシスで修行し、神竜に勝って願い事でピチピチギャルにして貰う方が余程確実だし)

 

 短時間で良いなら、変身呪文とか変化の杖を使った変身って手もある。

 

「だいたい、あれは自分がなって嬉しいモノとは思えんしな」

 

 若い女の子なら嫌という程イシスで変身させられたのだ。

 

「「えっ」」

 

「いや、何故そこで驚く? ここに来るまでどこにいた? あの夜の事は忘れたか?」

 

「「あ」」

 

 重なる驚きの声に俺も驚いたが、心の傷をほじくり返しつつ暗示してやれば、幾人かは俺が言わんとすることを察したらしい。

 

「じゃ、じゃあ、スー様は私達がピチピチギャルと?」

 

「そ、そうですよね。まだ焦るような年齢じゃないですよね。うん。若い、私は若い……」

 

 ただ、続いた嬉しそうな呟きの数々はちょっと想定外だった。

 

(あー、そっか。こっちの世界は中世っぽい感じだもんなぁ。成人とか結婚適齢期が前倒しになるから――)

 

 俺の認識する若い女の子とこっちの世界のピチピチギャルには認識として大きなズレがあったのだろう。

 

(が、結果オーライかぁ)

 

 さっきのデマが頭から飛んでくれるならそれで良い、そう思った矢先。

 

「おいっ! その話、詳しくっ!」

 

 テントの一つが開いて飛び出してきたのは、褐色の肌をした一人の女性。

 

「な」

 

「だからさっきの話だ! たのむ、頼むからっ」

 

 そのまま土下座の体勢に移行したので、はっきりとは見えなかったが、顔立ちは二十台後半から三十台前半と言ったところか。元の世界なら結婚適齢期に当たる年齢層に思える、が。

 

(この必死さを見る限り、そう言うことなんだろうな)

 

 顔がひきつるのを抑えつつ、俺は顔を上げてくれと言った。

 

「じゃ、じゃあ」

 

「先に言っておくが、話の内容が期待したモノと違っても苦情は一切受け付けん」

 

 と言うか、目の前の女盗賊の容姿とさっきのデマを鑑みれば正直に話しても、絶望に叩き込むだけなのは目に見えている。

 

「それから、もう一つ……とりあえず、場所を変えるぞ?」

 

「えっ? あ」

 

 二つめの条件を挙げながら周囲を示せば、女盗賊も気づいたらしい、騒ぎを聞きつけテントから出てきた人達によって形成されたギャラリーの輪に。

 

「流石に、この状況では話せん」

 

 呪文で若い女の子に変身しましたなんて黒歴史をばらまき、社会的自殺を図る気も無ければ、話半分に聞いた連中によって新たなデマが産まれるのを座視している気もサラサラ無かった。

 

「場所を変えるぞ?」

 

 話すなら、俺が居ればそれで良い。その間にトロワや同行してるクシナタ隊のお姉さん達には転職してきて貰うべきだろう。答えも待たず、俺は神殿の中に向かって歩き出し。

 

「お待ち下さい、そこの方」

 

「ん?」

 

「整理券はお持ちですか?」

 

 なんか係の人っぽい感じの腰が低い系の兵士に止められたのだった。

 




女盗賊さん、闇谷の脳内イメージが艦娘の足柄になったのはなんでだ(砲雷撃)

次回、第百六十九話「これが人の夢! 人の望み! 人の業! 他者より若く――」
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