強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百六十九話「これが人の夢! 人の望み! 人の業! 他者より若く――」

「転職希望者が殺到したことで恥ずかしながら収容人数をオーバーしてしまいまして、当神殿では整理券の順番に訪問者の方をご案内しているのです」

 

 それと同時にこの神殿に着いたばかりの来訪者に説明し、整理券を配る事もしているのだとその兵士は言った。

 

「成る程な。回りのテント郡は整理券を貰って順番待ちをしている者の天幕と言うことか」

 

「そう言った方を目当てに商売をされてる方のテントも有るようですけどね。それはそれとして……」

 

 視線をテントの方へ戻した俺へ補足した兵士は一枚の紙片を取り出し、俺へと突き出す。

 

「整理券です、どうぞお持ちください」

 

「あー」

 

 こちらの言動から来たばかりの旅人と判断したのだろう。見立ては、ある意味で間違っていない。

 

(間違ってない、けど――)

 

 はいそうですかと引き返し、順番待ちをする訳にもいかなかった。

 

「一応貰っておくが、これは転職者用の整理券ではないのか?」

 

「えっ」

 

「ここまで来たのは、別件もあってな。神殿内の店にも用がある。そちらに行くにも整理券が要るというなら待つしかないが……」

 

 内密の話をしたいからなんて理由を口にする訳にもいかない。

 

(中に入れたら、その後で実際立ち寄れば嘘ではなくなるし)

 

 あの時、色々買い物していて良かったとつくづく思う。

 

「し、失礼しました。どうぞお通り下さい」

 

「すまんな」

 

 頭を下げ横に退いた兵士に声をかけると俺は神殿へと足を踏み入れ。

 

「……ここに来るのも久しぶり、だな。さて」

 

 懐かしさを感じつつも首を巡らせる。

 

「内密の話だが……外までテントが張られていたぐらいだ。宿屋に借りられる部屋は無かろうな」

 

 宿泊代節約のために野宿してる可能性だってあるが、その手の人だけでテント群が出来るとは思いがたい。

 

「『若作り』だか『若返り』だか知らんが、流れてるらしい妙な噂を含めて気になるというなら、丁度良い」

 

 この神殿には情報屋という裏の顔を持つ青年が居た筈だ。デマだとは思うが、あの店へ行けば裏もとれる。

 

「スー様?」

 

「こっちだ、お誂え向きの店を知っている」

 

 イシスの夜のトラウマな一件については魔法使いのお姉さんも同行者にいるのだ、あのごーいんぐまいうぇーなお姉さんにでもモシャスの実演を人気のない路地裏とかでやって貰えば、それでいい筈。

 

「お誂え向きって……まさか、売ってる店があるのか、この神殿の中に?」

 

「……何の話をしてるかは知らんが、俺の知ってるのはお前の想像してるモノとは別物だと思うぞ?」

 

 食いついてきた盗賊の女性へ予防線を張りつつ、俺は記憶を掘り返す。

 

「確か、この道だった筈だが……」

 

 以前見た景色と照合し、先導する中、決めなくてはいけないことが一つ。

 

(実演をどの辺りでやるかも考えておかないといけないしなぁ)

 

 整理券を配る程この神殿には今人が押し寄せているのだ。あの時人気の無かった場所だから目撃されないとタカをくくっていれば、痛い目を見る可能性もある。

 

(ベストなのは通行人のやって来る恐れの殆どない袋小路だけど……あ)

 

 良い場所はないかと探しつつ歩いていれば、それはあっさり見つかった。

 

「曲がるぞ」

 

 後続に向かって宣言すると逸れた細い路地の先は行き止まり。

 

「……ここで良いだろう。俺は通行人……迷い人が入り込んでこないか警戒しておく」

 

「えっ? スー様が説明なさるんじゃないんですか?」

 

「俺が実演すると変身対象が異性しかいないし、な」

 

 この点、あのごーいんぐまいうぇーなお姉さんなら他のお姉さんに変身してみせることだって出来るのだ。

 

「あぁ、そう言う……」

 

「それに、着せ替え人形にされてはたまらんからな」

 

「スー様、ひょっとしてあの夜のこと根に持ってるっすか?」

 

 割り込んできたごーいんぐまいうぇー姉さんの問いには敢えて答えなかった。ただ、頼むぞとだけ言い残して見張りに立ち。

 

「変身呪文だとぉ?!」

 

 女盗賊の叫び声が背後で上がるのに時間はかからなかった。

 

「スー様、お待たせっす」

 

「そうか」

 

 口調はごーいんぐまいうぇーなまま、声の変わったお姉さんの声に振り返れば。

 

「……なんだよ。まるっきり無意味じゃねぇか」

 

 両手を床について四つん這いの様な格好で打ちひしがれる女盗賊が目に飛び込んできた。真相を聞いて夢やぶれたのだろう。

 

(なんだろう、この罪悪感……)

 

 一応、本当に若返りに拘るなら、神竜に挑むという手段もあるのだが、あの件は誰にでもホイホイ話せるものではない。

 

(なら、こういう時は言葉の一つでもかけるべきなんだろうけど……)

 

 言葉が見つからなかった。

 

(いや、厳密には一つ思い浮かんだんだけど)

 

 検討の余地もなく脳内のゴミ箱に叩き込んだ。

 

(「お前はまだ充分若い」とか、あっちの基準だったらセーフかも知れないけどこの世界でもそれで通るなら、あの人あんなに落ち込まないもんなぁ)

 

 下手をすれば若いと思うならお嫁に貰ってよとか言い出すかもしれない。

 

(我ながら飛躍しすぎというか若干気持ち悪い考えかも知れないとは思う)

 

 思うものの、こちらのかけた言葉に対して一番困る切り返しとして思いついたのが、それなのだ。

 

(世界の悪意なら、言わせかねない)

 

 と言うか、まず言わせるだろう。

 

(……が、あの状態で放置して行くのもなぁ)

 

 迷ったあげく、俺は――。

 

「まったく……」

 

 口外無用と前置きした上で、この近くに凄腕の情報屋が住んでいると明かしたのだった。

 




せかいのあくい「君の七転八倒は好きだったがね……私はそれほど甘くはない」

次回、第百七十話「再訪」
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