強くて挑戦者   作:闇谷 紅

188 / 248
第百七十話「再訪」

「お久しぶりアルな。活躍は聞いてるヨ」

 

 出迎えた青年は俺の顔を見るなり、そう言った。顔を覚えていてくれたのだろう。

 

「ふ、俺は大したことはしていない。魔王を倒したのはシャルロットだ」

 

「ふーむ。ソしたら、そう言うことにしておくネ」

 

 頭を振って主張してもさらりと流されるが、まぁそれはいい。

 

(「解せぬ」って言いたいところだけど、その分本題にはいるのが遅れるからなぁ)

 

 俺としては、デマとしか思えない噂を検証するのが第一。

 

(出来ればついてきた女盗賊の人(このひと)が立ち直るきっかけになる情報が有れば尚良いけど)

 

 難しいだろうなと思ってしまうのは、噂の内容が原作に登場しない上に胡散臭いというダブルパンチだからだ。これで実在するとか言う真相だったら、俺は驚く。

 

「まぁ、いい。とりあえず俺達が買いに来たのは、本当の商品の方だ。正確にはその副業のな」

 

「あー、お客さんならそう言う思てたヨ。よっと」

 

 思考を断ち切って本題に入れば、青年が商品棚に手をかけ、あの時と同じように棚が動き出す。

 

「なっ」

 

「……凄い」

 

「さテ」

 

 初見の女盗賊やクシナタ隊のお姉さん達が騒ぐ中、青年はせり出してきた展示台から一冊の本を取り出し。

 

「ここのところ良く聞く噂アルね。そして、お客さんの来たタイミング、ついでにお客さんの連れを見てピンと来たヨ。お客さんが聞きたいは、この『若作りの書』のことアルな」

 

 すまし顔で本を持つ青年を前に、俺はもう少しで叫ぶところだった。

 

「な、じ、実在してたのか?! な、なぁ、お願いだ! それを私に――」

 

 叫ばずに済んだのは、代わりに女盗賊が食いついたから。

 

「わ、ちょ、お客さん、落ち、つく、ね!」

 

「これが落ち着いていられるか! 頼む! 何でもするからその本を譲ってくれ!」

 

 襟を掴まれガクガク揺さぶられる青年が宥めようとしても女盗賊は取り合わず。

 

「トロワ、頼めるか?」

 

「はい、マイ・ロード」

 

「なっ、放せ! うっ、く……」

 

 止めようにも、女の人を俺が力ずくで押さえ込むのは拙い。やむを得ず頼れば、トロワはすぐさま動いて女盗賊を後ろから羽交い締めにし。

 

「危ういところだったな」

 

「くふ、はぁ、はぁ……ホントよ。護身用の装置を作動させるかちょっと迷ったとこアル」

 

 声をかければ喉を押さえ、顔をしかめたまま青年はぼそりと漏らした。

 

「……そんな物まであるのか」

 

「置いてある商品が商品アルしな。ちなみに、この本、効果何にもないインチキ本ヨ」

 

 感心する俺の前で、前触れも無しに青年は爆弾を投げるが、それは揺さぶられたことに対するささやかな意趣返しか。

 

「え」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

 女盗賊は見事に固まるが、最初から効果どころか存在まで怪しんでいた俺にとって驚くには値しなかった。

 

「それで、詳しい話は聞かせて貰えるのか?」

 

「全部は無理だけど、それで良ければOKネ。信用問題で話せないこともアルからそこは勘弁して欲しいヨ」

 

「構わん。デマとわかっただけでも収穫はあった訳だしな」

 

 頷き、言外に話の先を促せば、青年が明かしたのは問題の本が作られたきっかけは、事故だったと言うモノ。

 

「質の悪い『悟りの書』の偽物を作ってた贋作師が、うっかり背表紙を書き間違えた、か」

 

「転職希望者が増えたことで需要があると見込んだその贋作師は不眠不休で偽物量産したヨ」

 

「成る程、それで疲労と眠気で集中力が落ちた結果、書き損じたのか」

 

「そうネ。しかも、無理がたたって道ばたでバタリ倒れ、助けた人が家の場所を聞いてその贋作師運び込んだために贋作のことがバレたネ」

 

 何とも間抜けな話ではある。

 

「結果、贋作は押収され、その時たまたま描き損じを目撃した人が聞いたヨ、『若作りの書って何?』と」

 

「……それが噂の始まり、か」

 

「ここにもそう言う本があることはその辺の事情から察するヨロシ」

 

「いや、そこまで言われればだいたい分かる」

 

 おそらくは、噂を聞きつけた人に作成を依頼されたのだろう。それなら、青年が全てを言えない理由も説明はつく。

 

「しかし、ここまで来て結局絶望、か」

 

 真っ白になってる女盗賊がちょっと気の毒になってくるが、俺としてはやれるだけのことはやったと思う。

 

(これ以上となると神竜の話ぐらいしかないしなぁ)

 

 この情報屋でもある青年が掴んでるのか確認したいと思わないでもないが。

 

「しっかし、そんなに若さが必要アルか? かなりの美人さんアルのに」

 

 青年がボソッと漏らしたのは、俺がそんなことを考えている最中だった。

 

「っ、貴様ぁ! 私がどんな思いで本を探していたとっ」

 

 流石に聞き捨てならなかったのか、復活した女盗賊は掴みかかり。

 

「わかってるアルよ。あの本を探してワタシのところに来た人、初めてじゃないアルからな」

 

 今度は動じず、青年は言う。

 

「っ、それがわかるなら」

 

「わかるから、ある」

 

「なっ」

 

「実を言うと、雲を掴むような話ながら、未確認の情報で若返る手段があるとは聞いたことがアルよ」

 

 驚く女盗賊へ青年は更に爆弾を投げる。

 

「そっちのお客さんなら知ってるかもしれないアルけどな」

 

 と。つーか、こっちに振んな。

 





次回、第百七十一話「とある伝承の一説に」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。