「屍山血河と言う程ではないが……まぁ、酷い有様だな」
辿り着いた先にあったのは死体で出来た堰と上半身だけ堰の一部になりながら、道の部分に下半身の引っかかったトロルの骸。
「この量では引き上げるのは厳しい、か」
爆発を起こす呪文で吹っ飛ばそうとすれば、崩落を招きかねないし、仮に崩落しなかったとしても爆発に巻き込まれた死体がどうなるかを鑑みるとおそらくやるべきではない。
「川の水量は思った程ではないが、ここは下り坂の底だ。時間がたてばこの一帯は水没してもおかしくない。急ぐぞ」
「うむ」
「「はい」」
死体を何とかする作業を諦めた俺は、同行者の同意を背に堰の脇を通り過ぎ、ムール君から聞いたこの洞窟の構造を思い出す。
(さて、ここからだ。タイム制限有りなら時間の浪費は許されない。ただ、ここからも開けた場所に出るまでは一本道で、しかもまた登り坂って言ってたよなぁ)
ここでまたトロルと出くわして転がしていった場合どれだけ時間がかかるか、考えたくもない。
「蹴り転がすのはもう無し……だな」
かといって呪文を使うと言うのもやっちゃっていいモノか、気になる。原作に出てきた洞窟とは違うと言うのが呪文で落盤発生もあるのではと俺に心理的なブレーキをかけていたのだ。
(ラリホーみたいな破壊とは直接関係ない呪文もあるけれど)
例に出した呪文は相手を眠らせるモノ。眠った魔物という大質量が残る上、目を覚ますかも知れないという危険性もあり、それなら普通に仕留めた方がマシだ。
(そう言う訳で今のところノープランなんだよね)
幸いにもと言うべきか、この辺りのトロルは先程のコロコロに全部巻き込まれたようで、進行方向に敵の気配らしきモノは殆どなく。
(気になる気配なん……て?)
敵の気配を更に探った俺は想定外の所から発された気配に硬直する。
「な」
「マイ・ロード?」
「ちょっと、急に止まってどうしたのさ?」
訝しんだトロワが声を上げ、俺にぶつかりそうにでもなったか若干非難の混じった問いをムール少年が投げて来るもそれどころではない。
「最後尾、敵だ! 後ろから来ている」
「えっ」
「て、敵ですか?」
「ああ、完全な後ろとは言い難いが、なっ」
驚きの声を上げるクシナタ隊のお姉さん達へ答えつつ、俺は足下の小石を拾って投げる。
「う゛お゛ぼっ」
投じた石は途中まで道の脇と併走する形になっていた川からはい上がってきた腐乱死体の顔面を破壊し、そのまま元の川へと落とす。
「よし」
「く、くさった死体?」
「地下墓地が繋がった影響だろうな。何処か上流で川に落ち、抗えずに流されてここまでやって来たと言う所だろう」
本来ならそのまま海まで直行コースだったところを、俺が川をせき止めてしまったせいではい上がってきたのなら、説明もつく。
「ムール、すまんが、後方で敵の警戒を頼めるか? 俺の連れもそこそこ戦えるが、呪文の使い手が多く接近されるのはよろしくない」
おまけに、想定される敵は見た目も匂いも最悪な動き出した死者の皆さんである。
「あー、うん。オイラじゃトロルの相手は無理だもんね。解ったよ。けど、道案内はいい?」
「ふ、一応大まかな構造は教えて貰っている。万が一にも行き止まりに当たればお前に声をかけるしな」
トロルの通れる道だけあって幅は一列に並ばずとも通れる広さがあり、同行者の人数を鑑みても振り返れば最後尾とは充分会話出来る距離だ。魔物の気配がする時でなければ、助言を求めても問題はない。
「とにかく、魔物の気配が前方に無い内に距離を稼いでおきたい。少し急ぐぞ」
動く腐乱死体が川から流れてきたというのも若干気にかかるが、ムール少年に教わったこの洞窟の構造からすると、川の上流は村への出口と別方向であり、地下墓地の魔物が村の中まで侵入でもしていない限りそちらに手を出す理由もない。
(って、あれ、今のひょっとしてフラグ立った?)
いや、現実にフラグなんて存在しない。そう言うのは物語の中だけの話しだろう。
(うん、だから大丈夫だよね)
いや、まぁ、悪意が蔓延してるこの世界は時々やらかすせいでこうでも言わないと安心出来ないのだけれど。
「マイ・ロード、どうされました?」
「いや、何でもない。とにかく、開けた場所まで出てしまえばトロルと遭遇しようとも倒して脇を抜けられる」
別に全滅させる必要はないが、迂回に時間を取られるようなら倒してしまった方が早いし、おそらく俺はそうするだろう。
(状況が変わったりしなきゃ迂回したんだけど)
トロールのどいつかはムール少年の仇であるし、生かしておいて狭い場所で鉢合わせになってはたまらない。
(狭い場所に詰めて上がってくる水への栓代わりにするって利用法はあるかもしれないけど、隙間から水漏れるだろうしなぁ)
水は悩ましいが、良い考えが浮かばない以上、俺はただ洞窟を奥に進むことしか出来なかったのだった。
流しゾンビ始めました?
次回、第十八話「想定外? ああ、仕様です」
ファイトだ、主人公の胃。