強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百七十二話「変わるもの、変わらないもの」

「よろしい。では今からサクラは魔法使いじゃ!」

 

 祭壇に登ったクシナタ隊のお姉さんの前で老神官が宣言する。

 

(僧侶は魔法使いに、魔法使いは僧侶に。そして、イシスで修行すれば、賢者と同様、魔法使いと僧侶双方の呪文を扱える人材が出来上がる。最終的に盗賊に転職させてしまえば、違いは能力値ぐらいだしなぁ)

 

 遊び人を経由しないからこそ運の良さは低く、賢者ではないからこそ力や体力と言った近接戦闘においての戦闘力は劣るかも知れないが、その分、賢さや精神力に秀でるだろうから、その辺りは適材適所だ。

 

(うん、人材は資質を見て正しく活かせる場所に配置する。大切だよね)

 

 采配を誤ることで、その人が実力を発揮出来なかったり、トラブルを起こしたりしては問題だ。

 

「いや、あたしにこんな格式高い神殿の神官とか無理っすから。そもそも僧侶になったばっかの駆け出しっすよ? 声かける相手、間違えてないっすか?」

 

「そんなことはありませんっ! 魔法使いとして一流と言って過言でない経験をお持ちのあなたでしたら、魔法使いへの転職希望者へ良きアドバイスだって出来るでしょう!」

 

 だからこそ、ごーいんぐまいうぇーのおねえさんと熱烈スカウトしてる神殿関係者を見ると、俺は何とも言えない気持ちとなるのだが。

 

「あの勇者シャルロットを世界を救った英雄に育て上げたあなたが力を貸して下されば、どれだけ心強いか!」

 

「いや、俺にもやることがあってな?」

 

 と言うか、ぶっちゃけ人事ではない。

 

(や、そりゃここには転職したての新人が溢れてる訳だし、教え、導いてくれる人材がいればありがたいってのはわかるよ)

 

 それが勇者の師匠なら言うこと無しだ。だから、俺をスカウトしようと思うのもある意味当然だ。

 

(その可能性を失念してた俺が抜けていたってことだよな、うん)

 

 神殿だからスカウトされるのは僧侶ぐらいだろうと勝手に決めつけてた俺が浅はかだったのだ。

 

「そこを曲げて、何とか。どうぞご再考を!」

 

「駄目だ、諦め――」

 

「わしはピチピチギャルになりたいのう」

 

「何だ、今の?」

 

 問答の最中、ツッコミどころしかない発言をした老人が通り過ぎていった気がするが、それはそれ。

 

「今だ! トロワ、外まで出るぞ!」

 

「はい、マイ・ロード」

 

 老人の方に気が逸れた機を逃さず走り出しながら、声をかければ応じたトロワの頭でうさ耳が揺れる。

 

「外で待つ」

 

 他のクシナタ隊のお姉さん達にも言い放つが、聞こえただろうか。

 

(まぁ、外目掛けて走ってる訳だし、去った方向ぐらいはわかると信じよう)

 

 もし来た時と人数が合わなければ、透明呪文をかけて引き返せばいい。

 

「……こんなところか」

 

 振り返り、ついてきてるのがトロワと幾人かのお姉さんだけであることを確認した俺は、走る速度を緩め、やがて立ち止まる。

 

「すまん、少々飛ばしすぎたか」

 

「いえ」

 

 トロワは頭を振って見せるが、逃げ出す好機であったとは言え、いきなり走り出したのだ。

 

(しかも、ついてきてる人はみんな転職したてで身体能力が転職前と比べて半減してるだろうに)

 

 明らかに俺の配慮不足だ。

 

(得に、トロワに関しては背負うくらいしても良かったよな。元魔法使いははぐれてもルーラの呪文でイシスに戻れるし、元僧侶だって魔法使いに転職したお姉さんなら、バギ系の呪文で周辺の雑魚モンスター倒してればそのうちルーラは覚えるし)

 

 トロワの才覚なら何らかの方法でキメラの翼を入手するか代用品を作り出しても驚かないが、置き去りにしかねなかった状況へのいい訳にはならない。

 

「転職したばかりで走るのはきつかろう。俺の背中で良ければ――」

 

 貸すぞと続け、失点を挽回しようと屈むと。

 

「えっ、スー様いいんですか?」

 

「ありがとうございます、スー様」

 

「スー様ぁぁぁぁ」

 

 なんか、クシナタ隊のお姉さん達が、降ってきた。

 

「う、ぐ……」

 

 首に腕に胴に、お姉さん達の腕が回され、数人分の重量がのしかかる。元の身体なら確実に潰れていただろう。だが、借り物であるこの身体はお姉さん達の体重を受け止めきって見せた。

 

「ま、マイ・ロード?」

 

「っ、大丈夫だ」

 

 出遅れたトロワが心配そうに覗き込んでくるが、俺は口元をつり上げ、立ち上がる。

 

「ふ、ぅ……大丈夫、だろう?」

 

 こう、腕や背中やあっちこっちにお姉さん達の胸が押しつけられて柔らかな感触を感じるけど、ただそれだけだ。

 

「自分から言い出した……以上、俺はこのまま……外まで行く義務がある」

 

 たとえ、通行人がむっちゃ見ていても。

 

「スー様、何やってんっすか?」

 

 追いついてきたごーいんぐまいうぇーさんにツッコまれても。

 

「あいつ……なんて羨ましいっ」

 

 見知らぬ血の涙でも流しそうなお兄さんに睨まれても。

 

「歩くだけだ……歩いてるだけだ、外まで」

 

 俺は歩き続ける。自分で言うように、ただ。

 

「外に着いたら降りるようにな。この状態でルーラは着地に不安が残る」

 

「「あ、はい」」

 

 懸念を言葉にするとお姉さん達は口を揃えて応じた。

 




よーく見て起きなさい。滅多に見られる光景じゃありませんよ、水着の女の子数人ぶら下げてダーマの神殿を行く盗賊なんて。(倒置法)

次回、番外編6「ぼくちゃんの知らない昨日(???視点)」

そして場面はイシスに戻るのです。
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