強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百七十五話「選択」

 

「……マイ・ロードについていきます」

 

 少し間は開いたが、トロワははっきりと答えた。

 

「そうか」

 

 もしここで母親を選んでくれたならいいと心の何処かで思っていた俺が居て、同時に選ばれたことが嬉しい俺も居た。

 

(けどなぁ……)

 

 トロワは選択した、なら俺はどうするというのか。

 

(神竜に叶えて貰う願いで元の世界に帰れるとしたら、トロワを連れて行く?)

 

 そんなことが可能だろうか。

 

(俺は意識だけだし、そもそも別の世界の住人だからこそ、元の世界に戻してくれと願える)

 

 だが、トロワは俺と違い、肉体はこちらにしかない。

 

(元の世界とこちらを移動出来るのが意識だけだったら、あちらでのトロワの身体がどうなるかわからないし)

 

 肉体ごと移動出来たとしても、リアルというのは厳しい。

 

(パスポートがなければ不法滞在者、逃げ隠れして過ごさなきゃいけないとかなぁ)

 

 怪我や病気をしても病院で診て貰うことも出来なければ、真っ当な仕事に就くのも難しい。

 

(小説とかだとご都合主義で何とかなる事も有るんだけど、こっちの世界だって変なところでリアル指向になってるし)

 

 原作と比べて広く、人口も多い国や町。移動に時間を要する移動呪文。現実にすりあわせてみましたとで、も言ってるかのような仕様は俺に楽観的な考えを放棄させるには充分すぎ。

 

「私達の寿命は人間のそれよりは長いですから……」

 

「っ」

 

 ポツリと漏らしたトロワの言葉に俺は選ばれた理由を察した。

 

(そうか、俺の一生に付き合ってもトロワにとっては――)

 

 一生分の時間では無いと言うことなのだろう。もっとも、それは俺の問いがアレフガルドとこの世界が隔てられた場合という前提でのモノでもあるようだったが。

 

(アイテム作りの天才でもあるトロワなら、この身体の残り寿命ぐらいの時間があれば、この世界とアレフガルドを行き来するアイテムぐらい作ってしまっても、トロワだしなぁで俺も納得しそうだし)

 

 割とデタラメなトロワの才能なら、充分やってのけそうだった。だが。それもあくまでこっちの世界の話。

 

「スー様、ただいまー」

 

 ただ、それ以上トロワが世界を渡ろうとした場合のことを考える事は出来なかった。

 

「っ、スミレか」

 

 気配は感じていた、だがこの格闘場にクシナタ隊のお姉さんは幾人もいる。

 

(俺もまだまだ、だなぁ)

 

 修行用の部屋から生理現象で抜けてきたとか、俺に用事でも出来た他のお姉さんとスミレさんを間違えるとは。

 

「鍵は?」

 

「確保済み~。スー様に渡しておけばいいよね? はい」

 

 差し出された鍵を受け取り、更に話すと鍵の入手についてはほぼ原作通りだったらしい。

 

「がいこつに、な」

 

「そう。スー様に話は聞いてたからあたしちゃん達は驚かなかったけど」

 

「ふむ」

 

 イシスのお城の地下で会った幽霊が俺にしか見えていなかった事を考えると、あちらもスミレさん達には見えないのではないかと思ったが、そんなことはなかったようで。

 

(謎が増えてしまったなぁ。後同じタイプの幽霊はカザーブに居る武道家くらいだけど……)

 

 わざわざ検証しに行く意味があるとも思えない。

 

「まあいい。ご苦労だった。鍵はシャルロットかミリーが来たら勇者一行へ渡すとしよう」

 

「どーいたしましてー、と言ってみたり」

 

 俺の言に応じたスミレさんはそのまま身体を前に傾け、頭を低くし。

 

「ご褒美はあたまなでなでで結構」

 

「……いや、まぁ任務は果たしてくれたからな」

 

 謎の要求に何とも言えない気持ちになったが、助かったのは事実だったから俺はスミレさんの頭を撫で。

 

「確かに受け取りました。他のみんなは宿にいるからトロワさんの修行が終わったらみんなの方もよろしくー」

 

「……あ、あぁ」

 

 確かにスミレさん一人だけというのは不公平だし、きっと仕方ないのだろう。

 

「それじゃ、あたしちゃんはこれで」

 

 勢いで約束させられた俺を残し、そのままスミレさんは去って行き。

 

「……とりあえず、修行、だな」

 

「はい」

 

 ポツリと漏らした言葉に相づちを打たれ、振り返るとそこには頷くトロワが居り。

 

「遊び人になって、スミレさんの気持ちが少しわかるような気になりましたから……」

 

「むぅ」

 

 一応この身体の持ち主も遊び人だったことは有るはずなのだが、借り物で遊び人時代を経験していないからかそれとも男性と女性で感じることが違うのか。

 

「俺には、よくわからんな。……悪いが」

 

 モシャスでクシナタ隊のお姉さん達には変身したことだってあったが、わからないものはわからない。

 

「ただ……遊び人になってもお前がお前のままで居てくれたことには、ほっとしたけどな」

 

「マイ・ロード……」

 

「掛け値無しの事実だ」

 

 あのカナメさんでさえ、転職した後は遊び人としての意味不明口調を使い出した。皆が皆変わってしまったとしたら、ツッコミが追いついたかどうか。

 

「私はマイ・ロードの、従者ですから」

 

「……なるほど、な」

 

 根底が有るからこそ、変わらずにいてくれたと言うことなのだろう。

 

「そ、その……お望みでしたら、遊び人らしいことも出来ますが……」

 

「いや、大丈夫だ」

 

 続いた言葉は若干余計だったが。

 




次回、第百七十六話「明日のために」
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