強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百七十六話「明日のために」

 

「まぁ、わかっていたことではあるが……な」

 

 部屋に着き、トロワが他の修行メンバーと合流し修行を始めてしまえば、やるべき事は殆どなかった。模擬戦には既に慣れ始めていたし、傷を癒そうと回復呪文を使うことも憚られたのだ。

 

(パーティー判定されて経験値目減りさせちゃったら申し訳ないしなぁ。まぁ、そこまで原作仕様になってるかは定かじゃないんだけど)

 

 可能性があるなら、避けるべきだ。

 

(遊び人って職業にトロワが変な影響を受けたら嫌だし、一日は厳しいかも知れないとして二日で転職可能な所まで行ってくれたなら――)

 

 ダーマに移動呪文(ルーラ)で飛んで、賢者に転職。シャルロット達が首尾良く装備を手に入れてきてくれたなら、後は賢者として腕を上げればいい。

 

(ドラゴンローブは確か、温泉の村マイラの井戸の中にあるすごろく場のよろず屋で売ってた筈)

 

 シャルロットにはおばちゃん経由ですごろくが遊びたい放題のパスを渡してある。

 

「前にもすごろく場で色々手に入れてくれたシャルロットだからな……」

 

 他力本願だし、人にやらせておいて自分は何もやることがないというのは後ろめたいモノもあるが、俺がアレフガルドに行ってはトロワがついてきてしまう。

 

(そこがネックなんだよなぁ。もう一人の俺に身代わり頼んでこっそり抜け出すってのも、トロワがもう一人の俺の存在を既に知っちゃってるから無理があるし)

 

 変身呪文(モシャス)を使えるクシナタ隊のお姉さんに協力を仰ぐって手も考えたが、持続時間の短い呪文での影武者など無理が有りすぎる。

 

(それならまだアレフガルドに連れてって、口笛吹き鳴らしまくって出てきた魔物を片っ端から倒しつつマイラを目指す武者修行ツアーの方が無難だわ)

 

 まぁ、敢行しても手元にパスがないので机上の空論なのだけれど。

 

「アレフガルド、か」

 

 行ってみたくないと言ったら嘘になる。続編の舞台でもあったし、知識は原作のみのまだ見ぬ地でもあるのだ。

 

(贅沢な望みだってのはわかってるんだけどな……)

 

 興味本位で足を運んで、あちらに渡ってる時にゾーマが倒され戻れなくなってしまったら目も当てられない。

 

「直接は無理でも、現地の話を聞くだけなら此所でも出来るからな」

 

 ちらりと戦っているトロワへ視線をやる。丁度発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)に棍棒を振り上げ、殴りかかって行くところだった。

 

「やあっ」

 

「ぴいっ」

 

 叩き付けられた棍棒は、発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)ではなく床に命中し、ひらりと身をかわしたそれはトロワの脇を抜けてゆく。

 

「ふむ」

 

 本来ならそのまま逃走したりするところなのだろうが、この部屋には逃げ場がない。

 

「隙ありっ!」

 

 じっと発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)を目で追っていたと思われるクシナタ隊のお姉さんの一人が結果的に近くへやって来た標的にひのきのぼうを手にして襲いかかる。

 

「ぴきいっ」

 

 ダメージが蓄積していたのか、直撃をくらった発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)は吹っ飛ばされるとそのまま気絶し。

 

「ふぅ、お疲れさまー」

 

「お疲れさまでした」

 

「おつかれ。なんかさっきのすっごく綺麗に決まったねー?」

 

 武器を降ろしたお姉さん達が互いを労いあう。

 

「ひのきぼうですからね。クリーンヒットでもしないと、殆ど効きませんし」

 

「わかるわかる。僧侶に転職したから今は棍棒だけど、あたしも魔法使いの時はきつかったモン」

 

「とは言え、本気の装備だと殺してしまいかねませんものね。難しいモノですよね」

 

 そのまま苦労話に突入されると、何もやっていない身としてはやっぱり後ろ暗いが、だからといってまともな武器の使用許可は出せる筈もなく。

 

「マイ・ロード?」

 

「トロワか。……どうだ遊び人は」

 

 声をかけられ、口をついてでてしまった問いに、まだまだの様ですとトロワは応じ。

 

「ただ、人間の事が前よりも色々とわかるようになった気はします……これは遊び人だから、と言うよりも他の方と一緒に模擬戦に取り組ませて頂いているから、のようですが」

 

「そうか」

 

 思えばトロワは従者として俺の側にばかり居た。そのせいで、俺以外の異種族である人間と一緒に何かに取り組むという機会が少なかったのだろう。

 

(だが、この地で修行をするようになってクシナタ隊のお姉さんとは言え、人間とふれあう機会が増えた、と)

 

 この後、ゾーマが倒され世界が平和になることを考えれば、良い傾向だと思う。

 

(まぁ、平和になったからって「人と魔物が仲良く暮らせるようになりましたとさ」みたいな話にすぐなるとは思えないけど)

 

 思い起こすのはレーベの村の宿屋、あそこには原作で魔物に両親を殺され魔物を恨む少年が居た。

 

(殺し合いがあって、被害者が居る。すぐに仲良く出来るなんて脳内花畑なつもりもないし)

 

 おそらくゾーマが倒された後、生き残った魔物達は魔物達だけで集まって暮らすことになると俺は予想する。

 

(例外はシャルロットのペットというかお友達の一部と、既に共生しちゃってるジパングぐらいだろうな)

 

 この内ジパングに関しては、国主の正体が強力な魔物であり、その女王が魔物達を調伏したというでっち上げが可能だったからこそ成立したケースだ。

 

(ジパングのモンスターの一部は最初からおろちの部下だったんだから、そりゃ言うこと聞くのは当然だもんなぁ)

 

 だが、自国の女王の正体を知らぬジパングの人達からすれば、女王の命に魔物達が従っているように見えた。結果として、魔物さえ調伏してみせた女王としてヒミコことおろちの株は暴騰、魔物達は人間を襲うどころか農作業を手伝い、荷を運び、兵の変わりに国を守ることで完全に市民権の様なモノを得てしまった。

 

(他国から来た人は驚くらしいけど、まぁそれは……うん)

 

 仕方ない。幸いにも入国時に説明が為されるそうなので、来訪者が魔物に斬りかかるなんて事件は起きてないらしいが。

 

(俺のせい、なんだよな、多分?)

 

 ジパングを原作とかけ離れすぎた国にしてしまったのは。

 

「なんだ、考えることはあったじゃないか」

 

 トロワ達が明日のために来たる日のためにと修行を続ける中、天井を見つめ、俺はポツリと呟いた。

 




次回、第百七十七話「勇者の宅配便」

サブタイがネタばれてるけど気にしない。
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