「さてと」
あれから数日が過ぎた。
(――なんて、過ぎ去ってしまえば一行のナレーションで済んでしまうけど、半分はトロワが訓練してる近くで考え事してるだけだったからなぁ)
残りの半分はルーラの呪文で空を旅した時間だ。強いて言うならこれにダーマでトロワが転職した時間とかが加わる。
「今日も格闘場へ向かうとするか?」
「はい、マイ・ロード」
賢者に転職したトロワが頷き、女賢者としては短すぎる髪が揺れた。
「どうされました、マイ・ロード?」
「いや、たいしたことじゃない」
つい最近までアークマージだったトロワにとって長い髪は許されなかった、覆面から零れてしまうから。
(髪の毛が一週間未満の期間で伸びる筈もないし、おかしな所は何もない……何もないんだ)
だと言うのに違和感を感じてしまったのは、俺が原作にひっぱられすぎたのだろう。
(クシナタ隊の魔法使いから僧侶に転職したお姉さんの中にはボブカットに短く切りそろえた髪のまま僧侶の帽子をかぶってるお姉さんも居たしなぁ)
どちらかと言えば、それが当たり前なのだ。お姉さんの中には転職の時に切った髪をカツラにしてそれで誤魔化してる人もいたけれど。
(いけないな。時間が経てば空腹も覚えるし、ブレスを吐かれれば冷たかったり熱かったりする。ちゃんとリアルだって言うのに、まだ意識の何処かでこの世界をゲームとして捉えている自分が居るなんて)
何故、そんな意識が残っているかはわかっている。きっと逃避だ。
(シャルロット達もトロワもゲームのキャラじゃない。血肉を持った個人だけど……)
神竜に勝ち元の世界に戻る時になって、後ろ髪を引かれないようにするために、目を背けるためにこの世界はただのゲームだとしたいんだ、俺は。
(度し難いな、結局の所俺はまだ逃亡者だったって事じゃないか……)
清算はすべきだと思うし、考えてもいる。だけど、納得して貰えるような言葉が見つからなくて、無意識に探していた逃げ道がそれなのだ。
「シャルロット……」
俺を師と慕うあの子に、別れを告げることが出来るのか。イシスの町中をモンスター格闘場に向かって歩く道、ポツリと呟いて空を見上げれば、ふと目に留まったのは小さな小さな黒い点。
「あれは……まさか」
方角は、太陽の位置からすると南南東。アレフガルドへと続くギアガの大穴が有る方角だが、地図上を延長すればその先にはランシールがある。たった今、名を口にした相手とは断言出来ない。出来ない筈なのに。
「マイ・ロード?」
「すまん、トロワ。寄り道をする」
気づけば足は城下町の入り口へ向いていた。
「お師匠様ぁぁぁっ!」
予感は、的中した。入り口を目視出来る程度の場所までたどり着いたところで声をかけられ、マントの前を閉じたままこちらに駆けてくるのは勇者シャルロット以外の何者でもない。あれはとか勇者様だとか居合わせた町人の声がした気もする。
(と言うか、マントの前を閉じてるってことはやっぱり下はビキニなんだろうか)
だとしても、流石に人の目があるこんな所で肌を晒す様な真似をするとは思えない。日に焼けてしまうし、このイシスはシャルロットにとってトラウマの地でもある。
「良く来たな、シャルロット」
「はいっ! ご注文の品、お届けに上がりました」
念のため、互いの距離がゼロになる前に声をかければ、シャルロットも笑顔で足を止め、体積と重量を無視して入るチート袋を握った手をマントから出す。
「すまん、手に入れるのに、骨が折れただろう?」
「いいえ。お師匠様から頂いたパスも有りましたし……あ、ミリー凄いんですよ。何度もお金が貰えるマスに止まった上に――」
原作でよろず屋のマスに止まるのに苦労したことを思い出しつつ尋ねた俺へ、頭を振ったシャルロットは元バニーさんの活躍を話し始め。
(自分の手柄とせず友達を立てる、かぁ。やっぱり良い子だなぁ、シャルロットは)
どことなく、ほんわかしつつも俺は口を開く。
「立ち話も何だからな。とりあえず、モンスター格闘場にでも行くとしよう」
あそこはここから近く、トロワを連れて向かう場所でもあった。
「格闘場にですか?」
「ああ。あそこには訓練施設もあるが着替えのための部屋もある。ローブならここに居るトロワも着られるからな。宿に戻って試着するよりずっと早い」
「あー、そう言えば、そうでしたね」
説明すればシャルロットも納得したようで、ポンと手を打ち。
「え」
直後にトロワの方を見て動きを止めた。
「どうした、シャルロット?」
「えっ、えっと……トロワさんって」
「そうか、最後に会った時はあ……転職する前だったからな。まぁ、転職したのはつい昨日のことなのだが……」
一瞬、固まった理由がわからなかったが、再会したら賢者になっていたのでは驚いても仕方ない。危うくアークマージと言いかけたのを誤魔化しつつトロワが賢者になったことを伝え、続いて修行のためにモンスター格闘場へ向かう途中だったことも明かした。
「お前さえよければ、一緒に修行して行くか? どれだけ腕を上げたかも気になる」
単純な好奇心からではない。ゾーマを倒す時期を予想するという意味でもシャルロットの実力を確認しておくのは良い機会だったから俺は誘い。
「はい」
シャルロットもこれに応じた。
主人公「宿に戻って試着するよりずっと早い。サラマンダーよりも」
うん、無理にトラウマにするのはやめようか?
次回、第百七十八話「たいした奴だ」
あの短期間で修行した訳でもなくこれ程までに実力を上げるとは、やはり天才か。
シャルロットェ