強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百八十一話「まぁ、そうなるな」

「実現はおそらく可能かと。……素材と込める呪文によっては、少々お時間を頂きたいですが」

 

 やっぱりこの人(トロワ)はチートだったと言うべきか。

 

(モシャスの呪文を「お前が作ったアイテムの効果にしておいて欲しい」って言っただけなのになぁ)

 

 じっさい に やって のけられるか まで こたえてくれましたよ、このひと。

 

(まぁ、トロワならやってのけるんだろうけど)

 

 賢者になり、使える呪文も増えつつある昨今。このまま行くと込める呪文もだいたい自前で用意出来るっていう現状に輪をかけて反則的な存在になりかねないのだが、これを純粋に喜んで良いものか。

 

「まあいい。再現出来るなら、問題ない。シャルロットへの方便として使わせて貰っても問題ないと言うことだしな」

 

「はい。ところで、もし同じモノの作成を依頼された場合はいかが致しましょうか?」

 

「っ、作成か」

 

 内心を隠しつつこれで問題は片づいたことにしようとした俺は、トロワの意見へ微かに顔をしかめた。

 

(使えない呪文が道具を使うことで使用可能になるというのは、大きなアドバンテージになるしなぁ)

 

 充分あり得る事だし、求められたのが変身呪文(モシャス)の効果があるアイテムなら、パーティーのもとに戻ったシャルロットが使用し、俺が伝授したモノを他の仲間達へ伝授してくれれば、恥ずかしい下着姿での実演会というぢごくを俺がやらずに済むというメリットもある。

 

(それは同時にシャルロットがアレをやるって事になる訳だからなぁ)

 

 まぁ、いくらシャルロットが良い子だからって仲間のためにそこまで身を挺すことはないだろう。

 

「……すぐにと言う訳でなければ受けても構わない。手元に材料がないとでも言えば実現するまでの時間ぐらいは稼げるだろう?」

 

「そうですね、了解致しました」

 

 恭しく頭を下げたトロワはくるりと背を向け、机に向かう。ペンを走らせる音がするから、何かを書いているのだと思う。

 

「明日も修行は続く、根を詰めて疲れを残し倒れんようにな」

 

「お気遣いありがとうございます。ですが、明日、渡さないといけないモノですから」

 

「明日? と言うことは……」

 

 そこまで言われれば、俺にもわかる。

 

「アンへの手紙か」

 

「はい」

 

 なるほど、綺麗になってもマザコンはこじらせたままのトロワらしい。

 

(頼んでた荷物は受け取って今晩伝授が終われば、シャルロットがイシスにとどまる理由はなくなる)

 

 勇者シャルロット一行と行動を共にしている母親への手紙を託すなら、朝がタイムリミットだ。模擬戦で疲れた身体を押してでもトロワはペンを取らざるを得ない。

 

「ならば、奥義の披露と例の技の伝授はシャルロットの部屋で行った方が良いか」

 

 今書いているのも、おそらくは俺の実演が始まったら、手紙を書くどころではなくなるからだ。

 

「無論、手紙を書いて居る間は俺の側にいなくても良い」

 

「ですが、マイ・ロード……それでは防音効果のある部屋を借りた利点が」

 

「その点はわかっている、だが――」

 

 世話になっているばかりのトロワには何かの形で報いたかった。

 

「むっ」

 

 だからこそ翻意させたかったのだが、こういう時に限って邪魔は入るもので。

 

「失礼します、お食事の準備が出来ましたので、食堂へお越し下さい」

 

 もう、というべきか。それともようやくと言うべきか。

 

「トロワ?」

 

「大丈夫です」

 

 訪れた従業員の言葉に振り返れば、トロワは頷いた。

 

「そうか」

 

「はい、戻ってきてすぐにと言う訳では無いのであれば……」

 

 何とか書き上げられる、と言うことか。

 

「ならば、行くとしよう。シャルロットにもこの後のことを伝えねばならんからな」

 

 部屋の入り口に向かう途中顎をしゃくってトロワを促した俺は、部屋を後にし。

 

「シャルロット……先に来ていたようだな」

 

 たどり着いた食堂の入り口、周囲の宿泊客の視線と微かに見えた特徴有るツンツン頭に食堂の中にいるシャルロットの位置を知った俺は、まだこちらに気づかぬ弟子のもとへと歩き出す。

 

「シャルロット」

 

「ふぇっ?! あ、お、お師匠様……え、ええと、こ、今晩のこと、です……けど」

 

「いや、落ち着け」

 

 ただ、声をかけてみての反応は予想外だった。挙動不審、と言うか何というか。

 

(緊張、してるのかなぁ)

 

 奥義の伝授というとある意味一大イベントだ。シャルロットの態度も無理はない、無理はないけれど。

 

「シャルロット……とりあえず飯にしよう。話はその後でも良かろう?」

 

 と言うか、今話してもちゃんと聞いて理解してくれる気がしない。

 

「そ、そうですね……ご飯を食べてからお師匠様をいただき――」

 

「しゃ、シャルロット?」

 

「「ぶふぅっ」」

 

 訂正する、理解してくれないどころか既に少し錯乱しているようだ。と言うか、隣の席で何かを盛大に吹いたような音が重なった。

 

「うく、げほげほっ」

 

「ぐふっ、げほげほ」

 

「って、お前達は……」

 

 顔を伏せつつも年頃の女性にあるまじき咳き込み方をしたのは見覚え有る黒髪の女性達であり、うん、そんな遠回しな言い方を取っ払って言うならクシナタ隊のお姉さん達だった。

 

(なに、これ。この くうき、おれ、どうすれば いいんですか?)

 

 聞かれたのが身内だけだったのは不幸中の幸いなのだろうか。もっとも、今置かれた状況からすれば気休め程度にしかならなかったのだが。

 

 




脱走出来るモンならしたい状況でトゥ、へアーッ!

次回、第百八十二話「雷鳴のや……じゃなかった。第百八十二話「シャルロットは既に少し錯乱している」



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