「シャルロット」
とりあえず、名を呼んだ。だが、次の言葉が出てこない。俺も混乱しているのだろう。
(どうする? とりあえず夕食の続きを……って、出来るかぁぁぁぁ!)
無理だ。平然と晩ご飯を食べるような面の皮の厚さは持ち合わせていないし、そもそもシャルロットを放っておいたらどうなるかが分からない。
「済まんが、夕飯はもう少し後で食べに来る。宿の者が来たらそう伝えておいてくれ」
居合わせたのがクシナタ隊だったのは、やっぱり幸いだ。
「お、お師匠様、違い、さ、さっきのは」
「いい、話は部屋で聞く」
こうなれば自棄でもあった。回りを咽せさせたことで自分のやらかした事に気づいたらしくパニックに陥っていたシャルロットへ一方的に告げると、そのまま腕を回す。
「ふぇ? お、おし」
「悪いが後を頼むぞ」
もう後ろに目をやる余裕などない。小脇に抱えられ、上擦った声を上げるシャルロットの方は見ないようにしつつ来た道を引き返す。
(そもそも他に人の居る場所で何か話そうと思ったのが間違いだったんだ。部屋なら後ろからついてきてるトロワぐらいしか居ないし、仕切り直してきっちり説明してしまえば一件落着の筈)
それもこれも俺がシャルロットの父親代わりであり、同時に俺とシャルロットが師匠と弟子の関係に有ることが大きい。
(そうでもなきゃ、女の子を自室にお持ち帰りしてる図と見られたって仕方ないもんなぁ)
まぁ、運ばれてるシャルロットが嫌がって暴れてれば話は別だったかも知れないが、暴れるそぶりなんて欠片もない。
(って、だったらここで複数下着を持って俺の部屋に来るよう伝えてから、部屋に帰してもいいかな?)
幸いにも時間が時間だ。客も従業員も食堂の方へ行ったのか、歩く廊下に人影も気配もない。
「ふむ……」
「どうなされました、マイ・ロード?」
「いや、強引に連れてきてしまったが、少々軽率だったかと思ってな」
尋ねてきたトロワに答えてから、俺はシャルロットの方へと視線をやった。
「シャルロット、ここから自分の部屋には戻れるか?」
「ひゃ、ひゃい! ふぇ?」
「これは……」
とても問いかけを聞いていたように見えないが、無理もない。
「はぁ……もう一度言う。ここから自分の部屋に戻れるか? 強引に連れてきてしまったからな」
まかり間違ってシャルロットが
「下着の替えを二、三組用意して俺の部屋に来てくれ」
「おっ、お師匠様? 替えって、それ……」
「無いと拙いことになる。それから、俺達は食堂へいったん戻る。戻ってくるのは早くても食事を終えた後だ。部屋の鍵もかかっているだろうから、尋ねてくる時は、その辺りを考えた時間帯で頼む」
少々色々補足を付けすぎた気もするが、予備の下着を持ったシャルロットを部屋の前に立たせ待ちぼうけさせるのは、拙すぎる。
「さて、食堂に戻るか、トロワ」
伝えるべき事は、伝えた。そして、トロワには母親への手紙を書き終えていない。無駄に出来る時間のない俺達は、再び食堂に向かうことにし。
「「スー様!」」
食堂にたどり着くなり、ガタッと椅子を揺らして立ち上がったお姉さん達が数名。
(うん、まぁ……こうなるよな)
説明もほぼせず、事後処理だけ任せて立ち去ったのだ。そのままツカツカ足早に歩み寄ってきて問い詰められたって無理もないことだった。
「すまんな、世話をかけた。シャルロットは……おそらく緊張していたのだろう。無理もない」
だから、先んじて頭を下げ、説明する。伝授にはクシナタ隊のお姉さん達の理解も不可欠だ。
(モシャスしての実演中に尋ねてこられたりしたら拙いし、そう言う意味でごーいんぐまいうぇーさんやスミレさんみたいな要注意人物も抑えておいて貰わないと……)
シャルロットにとっても今は大事な時期なのだ。
(悪戯に心を乱すような真似は――うん、できればしたくない、かなぁ?)
食堂での錯乱っぷりを思い出すとお前が言うなと脳内で総ツッコミくらった気がして、胸中の呟きは一気に勢いを失うが、その辺は出来れば何処かで挽回したい。
「……まぁ、あれの再現だな」
詳しいことを他者の居る食堂で話すことは出来ないが、トラウマなイシスの夜を知るお姉さん達だからこそ一から十まで言わなくても理解出来る伝え方はある。
「邪魔はされたくない、先程尻ぬぐいをさせた上で厚かましいことは承知で言う。協力して貰えるか?」
この伝授が成功すれば、シャルロットも俺も後は目的に向かって動き出すだけだ。
「もちろんです」
「受けた恩に少しでも報いられるなら」
「そうか……すまん、ありがとう」
真剣さが伝わったのだろう。快諾してくれたお姉さん達に頭を下げた俺は、その後食事を済ませ。
「トロワ、シャルロットが来たら始めることになるが……」
「大丈夫です。入れ違いに食堂へ来られてましたから、食べ終わって支度をしてこちらに来るまでの時間で、手紙は書き上げますから――」
部屋へ戻る廊下で、トロワは俺を安心させるよう頷いて見せた。
教えられることを全て教え、二人は――。
次回、第百八十三話「師としての責務」