強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百八十三話「師としての責務・前編」

「さて」

 

 部屋に戻っていくらかしたところでトロワは手紙を書き終えた。俺もクローゼットの扉を開きそこに布をかけて簡易更衣室を作り終え、ベッドに腰掛け部屋の扉を見ている。

 

「防音仕様だと外の気配も些少読みづらいな」

 

 もっとも、後はただ待つだけの状況で待ち人の接近がわかることのメリットと言えば、やって来る直前の心の準備が出来るか出来ないかぐらいでしかない。

 

「だが、もう来ても良い頃だ」

 

 上は黒のインナーのみ。下はちゃんとズボンを穿いているが、手袋は脱いでいるし、ブーツも脱いだ。

 

(モシャスすれば足のサイズも変わるからなぁ)

 

 裸足はやむを得ない。代わりに床に布を引いて足の裏は保護するつもりで居る。

 

「全裸待機では変質者だし、これぐらいが妥当だろう」

 

 そもそも俺の全裸を見て得しそうなのはきれいになる前のトロワぐらいだし、見られて喜ぶ趣味の持ち合わせもない。

 

「む」

 

 そうして割とどうでも良いことに思考を割いていた時だった。

 

「マイ・ロード? もしや」

 

「ああ」

 

 シャルロットが近づいてくるのを察知し、ベッドサイドに置いた鞄へ近寄ると、中から必要なモノを取り出して行く。

 

「石と敷く布と……汗を拭く布も居るか。転んで怪我でもした時のためについでに薬草も……っと、来たな」

 

「マイ・ロード、何でしたら私が」

 

「いや、いい。俺が開けてくる」

 

 呼びつけておいて他者に応対させるなんて礼を失する。

 

「お、お師匠様」

 

「良く来たな。入れ」

 

 ドアを開け、シャルロットを招き入れると、半身になって道を空け、シャルロットが通り過ぎた所でしまったドアに近づき鍵をかけた。

 

「これでよ」

 

「っ」

 

 これで良し、と思っちゃ直後に背後で息を呑む音がした。

 

「と、トロワ……さん?」

 

 驚愕を張り付け、立ちつくすシャルロット。抱えていた、おそらくは下着だろう包みが床に落ち。

 

「ああ、アンへの手紙を書き上げたそうでな。お前に届けて欲しいとのことだ」

 

「あー、わかりました。必ず……って、そうじゃなくて! ど、どういう……」

 

 はたと膝を打ってからのノリツッコミに繋げつつ混乱するシャルロットに俺は歩み寄り。

 

「下着、もってきてくれたのだな」

 

 落ちていた下着を拾い上げる。

 

「えっ、あ」

 

「いや、礼には及ばん。頼んだのは俺だからな。では、一揃い借りるぞ?」

 

「な、あ、いえ、お師匠様にだったらボク、全然構いませ……えっ、え?」

 

 シャルロットはまだ混乱しているようだったが、少しだけ安堵する。この下着を借りるところがある意味一番の関門だった。混乱につけ込む形だったのは最低かも知れないけれど、良心の痛みを堪えトロワのもとへ。

 

「トロワ。これだが……」

 

「はい、大丈夫です。このサイズであれば、これとこれなら手直しなしで大丈夫かと」

 

「そうか、すまんな」

 

 渡したシャルロットの下着の代わりに差し出されたトロワお手製の女性下着を俺は受け取り。

 

「シャルロット」

 

 呼びかけながら上のインナーを脱ぐ。

 

「お、お師匠さ」

 

 シャルロットが上擦った声を上げるが、構わなかった。そろそろ本題へはいるべきだ。

 

「ここにトロワに作ってもらった特殊な石がある。この石は、使うことで一度だけ変身呪文と同じ効果がある。この意味がわかるか?」

 

「いし? もしゃ……あ」

 

「ほう、説明が居るかと思ったが、わかるか。流石だな」

 

 混乱したり呆然としていたのに、ヒントと言っても良いかわからない情報だけで答えに行き着くとは、シャルロットもトロワとは方向性が違うが違うが、天才なのだろう。

 

(褒められたから顔が真っ赤だけど、あれだけのヒントでわかったんだからもっと手放しで褒めても良いぐらいだし)

 

 もっとも、褒めるだけでは話が進まない。

 

「説明を続けよう。この石を使って俺は変身する。そして、その為に服を脱いでいる。ここまではいいな?」

 

「は、はい」

 

「ただし、石の効果時間は実際の呪文と変わらない」

 

 時間を無駄にしないためにも説明はこのまま続けると言いながら俺はクローゼットで作った簡易更衣室へと入る。

 

「まぁ、焦ることはない。効果が切れても石は複数有る。流石に朝まで続けるのは体力的にも体調的にも拙かろうが」

 

「だ、大丈夫です。こ、心の準備は出来てますし……お師匠様に満足して貰えるように頑張りますから」

 

「そ、そうか」

 

 満足のいく結果が出るまで付き合うとは相変わらずシャルロットは良い子だと思う。

 

(と言うか、良い子過ぎて心が痛い)

 

 こんな俺もシャルロットも恥ずかしくなるだろう実演なんてさっさと終わらせてしまわねば。決意を固めつつ、俺は最後の一枚を脱ぎ捨てた。

 

「さて」

 

 大丈夫だ。女性用の下着は何度か着たし、着せられた。付ける手順は覚えてる。

 

(時間の消費は最低限に。時間切れになって脱ぐ時のことも考えておかないとな)

 

 サイズの小さな女性下着を食い込ませるハメになるのも拙いが、すっぽんぽんで変身呪文(モシャス)が解けるのも拙い。例え、裸は既に一度見られているとしても。

 




番外編の伏線回収。

お師匠様の意図を読み違えたことで、お互いの誤解が解けないまま話は進んでしまう。

いや、まぁ流石にこのまま勘違いしっぱなしってことは無いでしょうけどね?

次回、第百八十四話「師としての責務・後編」
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