強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百八十五話「そして夜は明けて」

「シャルロット、少しいいか?」

 

 夜は明け、目の下に隈を作った俺は、朝食をとるシャルロットへ、出発の前に少し付き合って欲しいと告げた。

 

「え、ええ。構いませんけど……」

 

 応じたシャルロットは若干困惑していたが、無理もない。昨晩の内に、シャルロットは俺の技を見事に盗んで見せたのだ。同じ事はクシナタ隊のお姉さん達もやってのけたが、だからといってシャルロットが凄くないという理由にはならない。才能有る人材が周囲に居過ぎたと言うだけのことだろう。

 

「すまんな、大して時間はとらせん……いや、とらせることにはならんだろう」

 

 必要なことは、食堂に来るまでに殆ど済ませてある。下半身がちょっとスースーするがやむを得ない。

 

「ご馳走様。……では、宿の外に一足早く行っているぞ」

 

 食べ終えて手を合わせ、席を立つ前に弟子に告げると、俺は宣言通り宿の外へ向かい。

 

「トロワ、すまんがあの石はまだ残っていたな?」

 

 幾つか渡してくれとついてきたトロワに頼んだ。そう、トロワが作ったという話に整合性をもたせるため、モシャスの効果があると騙った石の表面にあった文字はトロワの字。管理もトロワに頼んでいたのだ。

 

「マイ・ロード、どうぞ。あの、その石をお求めになると言うことは……」

 

「ああ。師としての餞だ」

 

 シャルロットに俺抜きでの旅を納得させるご機嫌取りに考え出したモノではあったが、死蔵させるには惜しい。

 

「お師匠様、お待たせしました」

 

「来たか……では、行くぞ」

 

 石を受け取った後にやって来たシャルロットにそれだけ言うと、俺は歩き出す。行き先は、町の外だ。

 

「お師匠様、いったいどこまで……」

 

「ここだ。……シャルロット、袋に銅の剣があれば、貸して貰えるか?」

 

 訝しみ声をかけてきたシャルロットの前で立ち止まると、片手を差し出す。

 

「え? 良いですけど……」

 

 即座に渡さなかったのは、盗賊の扱えない武器だったからだろう。だが、俺からすればそれが良かった。

 

「なに、昔を思い出してな。お前が俺と出会った時に装備していた武器だろう? 久しぶりに見たくなった」

 

 それは方便だ。

 

「あぁ、そう言えば……ちょっと待って下さいね」

 

 だが、シャルロットからすれば、納得に足る理由となってくれたらしい。背後でごそごそと何かを漁る音がし出し。

 

「ええと、あった。はい、お師匠様」

 

「すまんな」

 

 苦笑して受け取ったそれを片手にもう一方の手の指を唇に当てる。

 

「シャルロット、今のお前なら扱えると見越して、餞に託す」

 

「え?」

 

 背後で声が上がったが、振り向くことなく、俺は口笛を吹いた。

 

「キシャァァァ」

 

「フシャァァァッ」

 

「ゴオオオオッ」

 

 口笛に誘われて現れたのは、近辺を彷徨っていた魔物(モンスター)達。

 

「魔」

 

「モシャス」

 

 魔物と口にしようとしたであろうシャルロットが言い切るより早く。俺はトロワから渡された石を取り出し、砕く。

 

「お師、匠さま?」

 

「シャルロット」

 

 若干低くなった視点を気にせず、後輩にいる少女の声で当人の名を呼ぶ。

 

「よく見ておけ、これがお前に捧ぐ奥義っ」

 

 唱える呪文はライデイン。放つ手を前に突き出すとその手の親指と人差し指の間を貫くように銅の剣を構える。呪文の発動は、小声。

 

雷光貫穿撃(ライトニング・ペネレイト)

 

 そして、それをかき消す程の大声で叫びつつ、放たれた雷を追うようにして突きを繰り出した。

 

「フ」

 

「ギッ」

 

「ゴッ」

 

 こちらへ襲いかかろうとした魔物達は前を行く雷撃呪文に焼けこげ、消し炭になった骸へ銅の剣をもつ持つ手の二の腕までが呑み込まれた。

 

「上手くいったな……先に放った雷撃呪文を盾に肉迫し、渾身の突きを繰り出すことで敵を穿つ。これが奥義『雷光貫穿撃(ライトニング・ペネレイト)』だ」

 

 何処かで見たことのあるような刺突技に見えるかも知れないが、呪文を放つ事と刺突を繰り出すことを同時に行おうと考えると、自然とこの形になってしまったのだ、他意はない。

 

「らいとにんぐ・ぺねれいと……」

 

「今のようにギガディンを使えば、盾に使う呪文の方で雑魚を纏めて一掃することも出来る。また、余力があるなら突き刺した時、武器に捻りを加えても良い」

 

 技の名を反芻するシャルロットの前で苦笑しつつ補足し。

 

「返すぞ」

 

 持っていた銅の剣を逆手に持ち替え、柄をシャルロットへ向けて差し出す。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ふ、礼を言うのはこちらの方だ。剣を借りたのだからな。ともあれ、あの技は電撃呪文が使えなければどうにもならん、故に俺には扱えん。つまり、お前の為の技だ」

 

 一応他の勇者、既に二回行動をマスターしてるクシナタさんなら会得出来そうだが、空気を読んで敢えてそこは伏せておく。

 

「さて、石の効果が切れるまで俺はここにいるが、シャルロット、お前はどうする?」

 

 実演をもっと見たいというならするつもりで、俺はシャルロットへ問い。

 

「でしたら、もう少しここにいても良いですか、お師匠様?」

 

 返ってきたのは予想外の言葉だった。

 

 




雷光貫穿撃:繰り出すフォームはまんま「るろうに剣心」に登場した「牙突」。呪文放つ体勢に突きの構えを加えようと試行錯誤したものの、他の体勢だと突きが出しづらく断念。結果的にまんまのポーズで妥協。尚、後日王者の剣を手に入れたシャルロットは、敵の身体に突き刺した状態で王者の剣を使い追加ダメージを与える進化版を開眼、「雷光貫穿撃・斬風」と名付ける。

次回、第百八十六話「挑戦の始まり」

しかし、格好いい必殺技ってなかなか難しいですね。ネーミングとか、色々。
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