「馬鹿にするんじゃないよ。あんたの体術が凄いってのはあたいにだってわかるんだ」
欲望に負けてそんな凄い技術を会得出来るチャンスをフイにする訳無いじゃないのさと元女戦士は激怒したが、俺が悪かったのか。
「とは言われてもな……お前、日頃周囲にどんな目で見られてるのか知ってるのか?
「うっ」
「それに、あれから暫く経つが変わってしまった性格はまだ腕輪で上書きしているだけなんだろうに。石の効果が切れて着替える時、何らかのはずみで腕輪が外れても平然としていられるのか?」
それが、俺にとっては一番の疑問だった。
「以前のお前ならそれでも実力の方で絶対的な開きがあった。だが、あの風呂という名の変態的拷問は常識外れな、それこそ真面目に修練へ励むのが馬鹿馬鹿しくなる程急速に実力を向上させる。身体能力、会得した呪文の数、この二つにおいて世界でお前を凌駕する実力者は、数える程しか居まい。能力だけなら、誘わない理由はなかった。それでも今日まで話を持ちかけなかった理由、賢者なら察して欲しいというのは俺の贅沢か?」
「ぐっ」
正論だからこそぐうの音も出ないのだとは思うが、こちらにも言い分はあった。
「そもそも、俺達が向かおうとしてる先に居る者は、お前が変わってしまった原因と無縁ではないかも知れない、ともなればな」
「なっ」
まだ責める目で見た俺の言葉へ、滅多なことでは驚かない性格になった元女戦士も流石に驚愕し。
「どういう事だい?」
「あの本の所持者、と言うことだ」
すぐに食いついてきたところで問いかける目に動じず、俺は告げた。
(とりあえずはそれがギリギリだしなぁ)
単独では元バニー様のおじさま印のビキニ以外の強力な装備を入手することは不可能だろうが、
(神竜が勝てば願いを叶えてくれる存在だとまで知ればどうなることか)
欲望全開でとんでもない願い事をして、しかも叶えて貰ってしまう可能性だって充分ありうる。
(俺のパーティーメンバーに組み込んで、願い事をされる前にこちらが願いを叶えきってしまえば防げはするし)
詳細を明かす前に約束をしておくという手もある。
(あとはこの
交易網を使っての読んだ人物の性格を変える本の捜索は続けているし、エルフの里へ赴いて貰ったムール君にも有れば複数購入してきて欲しいとは言ってある。
(困らないからなぁ、複数あっても)
ごーいんぐまいうぇーさんとかスミレさんとか、腐った僧侶少女とか、使いたい知り合いや仲間は他にもいるのだから。
「まあいい、そいつはとんでもなく辿り着くのが難しいところに住んでいてな。会うにもまず恐ろしい魔物が棲息する長い洞窟を抜ける必要がある」
「恐ろしいだって?」
「バラモスに似た外見をしていてな。劣化番の魔王が大家族仲良く暮らしていると言えば、いいか?」
「何だいそりゃ……」
俺の投げた爆弾発言に元女戦士は呆然とするが、そこで言葉を止める気はない。
「そもそもあの魔王バラモスとて何もない場所から湧いて出たと思うか? ああ言う外見の種族が何処かにひっそり隠れ住んでいて、折り合いがつかなくなったか力故に恐れられ追放されたか、もしくは自分の野望から仲間達の元を離れ、大魔王を名乗り始めたと考えた方が辻褄は合う」
ゾーマの事を知ってるトロワからすれば、何言ってるんだこの人はと言った目で見られても仕方のない大嘘だが、あのダンジョンにバラモスの色違いなモンスターが存在する理由を知らないのだから仕方ない。
(まぁ、格闘場もどきなフロアで勝負を挑んできた時、こっちが話かけるまで戦闘にはならなかった気もするし)
バラモスエビルという名ほど邪悪な性格をしていたかなと首を傾げざるをえない。戦闘力は高く面倒な相手ではあるものの、高確率でバシルーラの呪文が効いたと思うし。
「あのバラモスと同じ種族、ねぇ。あんた、そんなのがウヨウヨ居る所に行こうとしてたのかい」
「まあな。だからこそ、強い装備を集め、戦力を集めていた。まぁ近くの町や村が滅んだという噂も聞かないし、その存在に関しては目撃例が全くないからな。世界征服とかを企むはぐれと比べれば、優先度は低いが、住処から出てこないか、性質はどのようなものかぐらいは探っておく必要がある。ああ、何故そんなことを知っているのかという質問は無しで頼む。この話とて漏れ出せばせっかく平和になった世界を混乱の坩堝に落とし込むに足る。恐慌をきたした何処かの国の王が兵を差し向け、下手に刺激したことでその魔物達が人間達に敵意を抱くなどと言ったことになれば目も当てられん。知っている者は少ない方が良いのだからな」
我ながら上手い言い訳だと思った。これなら目の前の元女戦士は、神竜会いに行くために通る洞窟のことについては、他言しないだろうから。
「今日はもう部屋に戻って休むがいい。出発までもう一週間もない。まぁ、ついて来ないなら話はべ」
「っ、ついて行くに決まってるだろ! 全てじゃないけどね、話してくれたことにも感謝するよ。じゃあね」
そして言い終えた元女戦士は部屋を去っていった。
「何だかんだで、あいつも同行者か」
腕輪を着けていれば、外すまでは問題にならないとも思う。ただ、判断を間違っていないと言い切ることも俺には出来なかった。
次回、第百八十八話「謎の洞窟」