強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百九十話「知っているのか、トロワ?」

「ようやく階段か」

 

 歩いた記憶のない構造だったからか、幾度か行き止まりにぶつかりつつ、ようやく次のフロアへと進めそうだと思うまでに魔物とのニアミスは両手の指の数を軽く超えた。

 

(直接戦闘になった回数が少なかったのは、きっとトロワのお陰だろうけど)

 

 遭遇した魔物の中にゾーマの城でも遭遇する種類の魔物が居たのだ。

 

(トロワ自身も気づいたみたいだったから、俺が話を振って……)

 

 トロワの解説にあった魔物の習性を利用して戦闘を逃れたりもした。

 

「しかし、逆に謎が深まる訳だが……何故ここにトロワがよく知る魔物が居るのだろうな」

 

 ここは一応空の上。竜の女王の城の住民の話からすれば、天界と呼ばれる場所の筈なのだ。

 

(既に出遭った魔物を混ぜることで、プレイヤーに出現するモンスターの強さを認識して貰おうとかそんないとだったかもしれないけど……そんな理屈が通用するのは、原作だけだもんなぁ)

 

 天界にゾーマ城や城の周辺をうろつく魔物が出現するって状況は、トロワからすればきっと理解不能だろう。

 

「確かに。今度遭遇した時、聞き出しましょうか?」

 

「いや、いい」

 

 トロワも腑に落ちないのか、提案してくれたが、俺は敢えて首を横に振った。

 

「最初に出くわした暗緑色のトロルの様に最終的に戦うしかない状況になっては面倒だからな。戦ってる内に他の魔物と遭遇すると言うこともあり得る」

 

 ついでに言うならそうやって出遭う魔物が女の子ってオチもじゅうぶんあり得るのだ。

 

「暗緑色のトロルを倒した時にも言ったが、今は先を進むことを優先しよう。深部にヒントになりそうなモノがあるやもしれんしな」

 

 原作では存在しなかったことを知っているが、強敵がウヨウヨするダンジョン内で興味を理由に危険を冒すなんてあり得なかった。

 

「下へ降りる。油断はするなよ」

 

 警告は後方と同時に自分へ向けたもの。前方の気配を探りつつ、俺は階段を下り。

 

「っ」

 

 徐々に感じ始めた熱気と不自然な程の明るさに顔をしかめる。少し先に見えた赤い靄の様なモノにも見覚えがあったのだ。そう、そこはスレッジに扮し竜化の呪文(ドラゴラム)で暴れ回った場所。同時にクシナタ隊のお姉さん達にとってはおそらく一番見たくない場所。

 

「気をつけろ、溶岩洞窟だ」

 

 ワンクッション置いて精神的に身構える事が出来ればと声を発してから階段を下りきる。

 

「「っ」」

 

 後続のお姉さん達は俺の言で察したらしい。

 

「あぁ、何だか急に暑くなったかと思ったら、そういうことかい」

 

 ただ、事情を知らない元女戦士だけは他と反応に温度差があったが、これは仕方ない。

 

「長居したい環境ではないだろうからな。一気に駆け抜けるぞ。いけるか?」

 

 ここであれば道はわかる。故に俺はクシナタ隊のお姉さん達に問うた。

 

「ごめんなさい、気を遣って貰って」

 

「あたしちゃん達なら、たぶん、大丈夫」

 

「そうか。なら、急ぐぞ」

 

 どこか声が強ばっていたり震えている気がしたが、敢えて気づかなかったことにしてポツリと呟くと、歩く速さを少し早めた。

 

(ここにはあれも居るからな)

 

 見かけたのは上の階、先程まで居たフロアだが、ずんぐりとした身体と生える複数の首は見間違いようもない。

 

(キングヒドラ……やまたのおろちじゃないけど色以外の見た目が同じモンスターとか……)

 

 構造がこのフロアと全く同じなジパングの洞窟でおろちに殺されたことのあるスミレさんやカナメさん達にとって、悪意しか感じない組み合わせだ。

 

(出来れば出遭わずに済ませたい。見てしまうお姉さんが出たとしても、せめて戦闘にはならずに次のフロアへ行きたいところだけど……)

 

 早足で進みながら感じる魔物の気配は全てを避けて進める程まばらではなく。

 

(あやしいかげに化けてた時もそこそこしぶとかった気がするんだよなぁ、あいつ)

 

 おそらく、防御を捨てて攻撃に徹すれば、反撃される前に倒しきることは可能だ。だが、瞬殺しても死体は残る。

 

(カナメさん達があの姿を見るってのが問題なんだから、死体なら大丈夫なんて言い切れないし)

 

 おろちのように人に変身出来るなら、暴力に訴えてでも他の姿をとらせてやるというのに。

 

(人語を口にした記憶もないからなぁ、交渉が出来るかどうか)

 

 結局の所、出来るだけ避けて行くしかないのだろう。

 

「……そう思った矢先だったな」

 

 足を止め、俺はポツリと呟く。

 

「スー様?」

 

「マイ・ロード、ひょっとして――」

 

「ああ」

 

 後ろから聞こえた声に、敵だと告げる。

 

「相手は五本首の竜と、はぐれメタルが数匹、それに硬くて大きな蟹が一匹だ」

 

 経験値狙いなら、発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)をいかにして逃げずに狩るか。突破するつもりなら、発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)は無視してまず蟹を、ついでキングヒドラを仕留めるのが正解なのだろう。蟹の魔物と言うと呪文で守備力を上げ守りを固めて長期戦を強いてきたイメージがあるので。

 

(ま、カナメさん達が居る以上、どっちもないけど)

 

 ちらりと視線をやった先は、魔物達の向こうを流れる溶岩。

 

「先に出てデカブツを仕留める。お前達は蟹とはぐれメタルを頼む」

 

 連撃の一つを蹴りにして、カナメさん達が来る前にキングヒドラの死体を溶岩へ蹴り込む。

 

(バシルーラは効かないだろうしな)

 

 やるしかなかった。

 

「あいよ」

 

「マイ・ロード、すぐに援護します」

 

 心強い仲間達の声を背に、俺は飛び出し。

 

「でやあああっ」

 

「フシュギャアアッ」

 

 腕を振るえば首が飛び。

 

「はっ!」

 

「グシュオォ」

 

 反動で回転させるように薙いだ一撃でまた一つ首が飛ぶ。

 

「これでっ、うおおおっ!」

 

「フシュグォォォ」

 

 更に連撃。五つあった首は二つ減り、続いて繰り出した二撃で更に二つ減る。

 

「ラストだっ」

 

 最後の首を斬り飛ばされたキングヒドラはもはや悲鳴すら上げられず。

 

「ぶっ飛べ……シュゥゥゥゥゥッ! って、え゛?」

 

 渾身の蹴りを叩き込まれた首のない胴体は、白く丸いモノをぽろぽろ零しながら流れる溶岩の川へとぶち込まれて飛沫を上げた。

 

「えーと……」

 

 視界の中に残されたのは、発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)と蟹と卵形をした白い何か。

 

「たまご?」

 

 何というか、これは想定外だった。

 




まさか の さんらん。

次回、第百九十一話「主人公もとうとう父親になるんですね。いやぁ、本当にここまで長かった」

相変わらず斜め上展開ですよね……どうして こうなった?
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