強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第十九話「ぱんぱかぱーん」

 

「ムール、どうした?」

 

 箱を覗き込んだ人間のリアクションを見て、知りたくもないはずなのに尋ねてしまったのは、人の性か。

 

(まぁ、どっちにしてもあの反応じゃロクなモノではないよね)

 

 諦めに極めて近い達観から心に鎧を着せつつ、俺はムール少年の復活を待ち。

 

「はっ、あー、えーっと、ゴメン、モノがモノだったから……ちょっと」

 

「な」

 

 我に返っても引きつったまま、箱に手を突っ込んで取り出してムール君が見せてくれたモノを見た俺の顔も強ばった。

 

(うん、えっちな本とかがーたーべるとあたりかなぁとか思って身構えてたんだけどさぁ)

 

 予想は外れた、だが箱の中身は安心出来るような品でもなかった。見覚えがあるのだ、黄金の輝きを持って少年の手から零れ、ユラユラ揺れているそれは。 

 

「……きんのネックレス、だな」

 

「うん。……オイラ、盗賊だからこういった品の事は行商のおじさん程じゃないけど知っててさ」

 

 ならば、効果も知っていたと言う訳か。男性専用の装飾品であり、付けた者の性格をむっつりスケベに強制してしまう品であると言うことも。

 

(甘かったーっ! 俺の予想が甘かったーっ!)

 

 単品でもかけられたらやう゛ぁい品な上に、この場にはアイテムの話を聞いただけで不完全ながらそれを再現してしまった変態天才天災マザコン娘TOROWAがいらっしゃいますのだ。

 

(やばいアイテムとアイテム作りにかけては天才な俺の貞操を狙う痴女とか最悪のコンビネーションじゃないですか、やだー)

 

 トロワのことだ、もしネックレスの効果を知っていたなら、身につけた者の性格をがっつりスケベにしてしまうぎんぎんのネックレスとかに改造して俺の首にかけようと企んでも不思議はない。

 

(どうする? 捨てちゃうか? いや、廃棄したらそれこそ回収される危険性がある。そもそも捨てるならどうして捨てたのかと質問されかねないし)

 

 トロワがネックレスの効果を知らなかった場合、下手な処分は藪蛇だ。

 

(ここは、とりあえず保留がベストか。下手に反応しすぎてトロワが興味を持ったらかえって拙いし)

 

 後ろから水が迫っているかも知れない今、これ以上ネックレスのことに構うのは不自然すぎる。

 

「まあいい、見つけた以上それはお前が管理しておけ」

 

「えっ、あ、うん」

 

 表面上は冷静さを取り戻して命じれば、まだ完全に立ち直れていないのかぼーっとネックレスを見ていたムール少年は反射的に頷き。

 

「さて、先を急ぐぞ」

 

 何事もなかったという態で俺は再び歩き出す。

 

(これでいい、これで良いんだ)

 

 下手に反応しなければ、きっとこの件はこれで終わる。

 

(そんな事より今はこのダンジョンの攻略が優先だ)

 

 ゆくて を ふさぐもの は はいじょする けど、みず に おわれてる から しかたない よね。

 

(決して八つ当たりとかそんなモノじゃない)

 

 だから、恨むなら世界の悪意とか金のネックレスを恨んで下さいお願いします。

 

「……と、考えた所でか」

 

 進んだことで知覚できるようになった先に何かの気配が、複数。

 

「マイ・ロード?」

 

「前方に魔物だ、しかも団体のな。ムールの話にあった二つめの開けた場所と位置が一致する」

 

 俺はまじゅうのつめを右腕から外すと、オレンジのブーメランに持ち替え、左手にも分銅つきの鎖、つまりチェーンクロスを装備する。

 

「先行して蹂躙する。トロワ、ついてくるのは勝手だが、巻き込まれるなよ?」

 

「はい」

 

 止めても無駄だろうからと振り返らずに言えば、変態娘はあっさり答え。

 

「……これは」

 

 気配の方に進むに連れ漂ってきたにおいがある。

 

「獲ってきたものを捌いて焼いているのでしょう」

 

「そうだろうな。しかし、火を使っているならもっと煙が流れてくるかとも思ったが……」

 

 排煙用の穴でもあるのか、俺達が燻されることはなく、奥から聞こえてくるのは下品な笑い声やら会話の断片と思われるモノのみ。内容の方も、狩りの獲物はどっちが大きかっただの狩りの最中に誰それがした空振りが間抜けだっただのと特に耳を傾ける必要のあるモノでもない、ともあれ。

 

(こっちに気づいてないのはありがたいな)

 

 原作ならまさに先制攻撃が出来るパターンだ。

 

「バイキルト……ゆくぞ」

 

 トロワにも聞こえない声で呪文を唱えてから、ただ短く背後に告げると、俺は駆け、飛び出した。

 

「うけけけけ、がっ」

 

「ばっ」

 

「ぐびゃっ」

 

 骨の付いた肉を片手に馬鹿笑いしていた褐色巨人が横に振るった鎖分銅になぎ倒され、一体屠った分銅は更に隣にいたトロール達をもなぎ倒す。

 

「な゛っ、あ゛」

 

 突然の襲撃に驚き振り向こうとした一体の上半身が、下半身の動きに従わず、斜めにずり落ちた。

 

「ぎゃあっ」

 

「うべっ」

 

 一体目を両断したオレンジのブーメランはトロルの巣と化した中を飛び回り更に死者を増やしつつ戻ってくる。

 

「な、な゛んだ?」

 

「う゛ぉえ? な゛がまだちがっ死ん……だ?」

 

 突然の乱入者によって一瞬の内に何体もの仲間が屠られた褐色巨人達はまだ理解が追いついて居ないようだったが、遠慮してやる理由はない。

 

「俺の行く手に立ち塞がった不幸を呪え、でやあっ」

 

「ばっ」

 

「ぎゃっ」

 

「ぞっ」

 

 受け止めるなり再び投げはなったブーメランが死の先触れと化して再び飛翔し、通り過ぎた先に終わりをばらまいて行く。

 

「ちっ、数だけは多いな、せやあっ」

 

 一投で屠りきれなかったという事実に舌打ちしつつ、オレンジ色の死神が戻ってくるのを待ち受けながら更に左腕を振るう。

 

「ぎっ」

 

「ぎゃあ」

 

「い゛ぇあ゛ぁっ」

 

 薙ぎ払われ、岩壁に叩き付けられたトロル達が赤い奇妙な壁画を複数制作し。

 

「トロワ、討ち漏らしの奇襲に気をつけろ」

 

 振り返らず、声だけかけて更に前へと進む。一方的な掃討の形であれ、ここはもう戦場だった。

 




まさかの逆アプローチ。

とりあえずムール預かりとなったきんのネックレス。

果たしてこのまま何事もなく終わるのか?

そして、トロル達に合掌。

次回、第二十話「世界の悪意が悪いんだと容疑者は意味不明の供述を続けており――」

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