強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百九十一話「主人公もとうとう父親になるんですね。いやぁ、本当にここまで長かった」

「相手が悪かったな」

 

 とか言いつつ、溶岩に沈んで行く多頭竜(キングヒドラ)の死体を見て格好を付けて居られたらどれだけ良かったか。

 

「待たせたね」

 

「後はお任せ下さい、マイ・ロード」

 

「っ、ああ」

 

 すぐさま駆けつけてきた二人に返事をすると、とりあえず転がり出たソレの側へと足を進めた。

 

「ここでは戦闘に巻き込まれるな」

 

 甘いとは思う。だが、溶岩に投げ込む気にもそのまま放置する気にもなれず、握り拳より一回りか二回り以上大きな卵を俺は拾い上げた。

 

「次は、あれか」

 

 純粋な戦闘力でも元女戦士やトロワは申し分ないが、キングヒドラが倒された今、クシナタ隊の姉さん達の参戦を阻むモノはない。

 

「マイ・ロード申し訳ありません、はぐれメタルを二匹程逃してしまいました」

 

「大口叩いといて恥ずかしい限りさ」

 

「いや、助かった」

 

 卵拾いを続けていればかけられた声に、俺は頭を振って見せ。それよりもと続けると、抱えた卵を持ち上げた。

 

「こいつらをどうするか、だな」

 

「あー、そういやさっき拾ってたね」

 

「マイ・ロード、もしやそれはキングヒドラの卵、ですか?」

 

「ああ」

 

 どうやら卵拾いの一部を見られていたらしく、隠す必要もなかった俺はそのまま首肯する。

 

「あのままだと戦いに巻き込まれそうだったしな。母親を殺しておいて何をと笑われても仕方ないが、見殺しにする気にはなれな……ん?」

 

 なれなかったと言おうとした俺は腕の中の異変に気づいた。抱えたモノの一つが、動き始めたのだ。

 

「マイ・ロード?」

 

「……端的に言おう、産まれるかもしれん」

 

「なっ」

 

 多分、その時俺の目は据わっていたんじゃないかと思う。

 

「へー、スー様出産するんだ。あたしちゃんびっくり」

 

「すっ、スー様が出産?! そんな、まだ心の準備が……」

 

「……この二人は放っておくとして、どうするの?」

 

 スミレさんとその言葉に動揺してパニックになった隊のお姉さんを冷たい目で見たカナメさんは、視線をこちらにやって尋ねてきて、ただ質問はされても俺の中で答えはまだ出ていなかった。

 

「突然だったからな、まだ決まっていない」

 

 混じりっけなしの事実だ。

 

(そもそも、卵を産み落とすとは思わなかったし)

 

 その卵がいきなり動き出すとも思わなかった。

 

「ただ、ここにとどまるのが得策でないことぐらいはわかってるつもりだ」

 

 流れる溶岩のせいでやたら暑いし、カナメさん達にとっては暑さ以外の理由でも長居などしたくない場所だろう。

 

「次の階までこのまま進もう。魔物が避けて通れん状況になった時は、出来るだけ早く俺が片付ける。もっとも、その間、誰かにこの卵を……いや、トロワ、卵を預かっていて貰えるか?」

 

「マイ・ロード? わかりました、お任せ下さい」

 

 トロワは快諾してくれたが、正直、危ないところだったと思う。産まれてくるのは、おろちと似た形状の竜だ。

 

(クシナタ隊のお姉さん達に預ける訳にはいかないじゃないか。気が動転してたとは言え、またやらかすとこだった……)

 

 カナメさん達は自分達を蘇生させた相手であるからか、恩返しだと言って色々助けてくれる。だが、あそこで選択を誤れば、好意を仇で返すことになりかねない。

 

(道はわかる、避けられなかった魔物の群れは、今倒した……なら、次の階ぐらいまでは大丈夫な筈)

 

 フラグになりそうな気もしたが、大丈夫だと自分に言い聞かせ歩き出す。

 

「とりあえず、進行方向に敵はなし、か」

 

 道のりは順調だった、腕の中で動く卵が二つに増えていることを除けば。

 

(確か、階段ももうすぐだったはず……どうか次のフロアも記憶にある地形でありますように)

 

 流石にこのダンジョンの使い回しマップの順番なんて覚えていない俺は卵を抱えたまま祈る。地形と気配の双方がわかれば、比較的安全そうな場所で卵を確認する時間くらい出来るだろう。

 

(もう少し、もう少しだ)

 

 道を塞ぐような位置に魔物の気配は、ない。行ける。

 

(なんだか胸元から「ふしゅー」だとか「しゅおー」だとか幻聴は聞こえるし、二の腕や手を摘まれるような感触がするような気はするけど、きっと気のせいだから問題ないよね、うん)

 

 あははははははは、あはははははは。

 

(孵ってるじゃないですかー! やだーっ!)

 

 やっぱフラグだった、この上なくフラグだった。どうしよう、どうする。パニックに陥った俺は、落ち着くために深呼吸をという脳内の冷静な部分の声に大きく息を吸い。

 

「ひっひっふー、ひっひっふー……って、お産の呼吸法してどうする俺ぇ?!」

 

 盛大にボケて、自分自身にツッコんだ。

 

「お、お産?」

 

「ま、まさか」

 

「あ」

 

 後ろのざわめきに一人ノリツッコミを声に出してやってしまった事に気づいた俺は、思わず振り返り。

 

「……産まれた」

 

 痛すぎる沈黙の中事態を告げた。

 

「ふしゃー」

 

 空気を読まず腕の中のプチキングヒドラも鳴いた。

 

「……あー、その、何さね、あんたが取り乱したとこ初めて見た様な気がするよ……まぁ、無理はないけどさ」

 

「っ、か、可愛い……」

 

 視線を逸らし、どことなく気遣わしげな態度の元女戦士と、腕の中をガン見するトロワの二人に何とも言えない気持ちになった俺がしたことは、ただ一つ。

 

「トロワ、ならばこいつらは頼む」

 

 二匹のキングヒドラの赤ん坊を差し出すことだけだった。

 

「よ、宜しいのですか? 承知しました。マイ・ロードより預かったこの子達は、私が立派なキングヒドラに育ててきゃあ、ちょ、ちょっ、ど、どこを噛ん――」

 

「あー、そうなるか」

 

 俺も散々甘噛みされたのだ。抱いた相手が俺でなくてもやることは変わらなかったのだろう。

 

(というか、その いいかた は やめてください とろわさん、おれ が ちちおや みたい です)

 

 旧トロワだったらもっと際どい発言をしただろうから、そちらと比べるとマシなのだろうが、あまり気休めにはならない。

 

「と、とにかく次のフロアへ進むぞ」

 

 ひとまずトロワに頼んだものの、このダンジョンは子連れで攻略できるほど甘いものではない。

 

(誰かに預けてリレミトの呪文で離脱して貰うとしても、ジパングの洞窟そっくりのここに多頭竜の組み合わせは拙い)

 

 それでは、頼める相手が元女戦士だけになってしまう。

 

(トロワは俺の側に居るって制約があるしなぁ)

 

 ついでに言うなら、俺の胸元にはまだ孵ってない卵が幾つかある。

 

「下だ。下階に降りれば、きっと状況はマシになる」

 

 少なくともこのフロアより暑いことはあるまい、そう思いつつ階段を降り。

 

「な」

 

 正面の壁と左右に伸びる通路。見覚えはないけど予想は出来そうな地形に絶句する。ピラミッドだ、これ。

 

 




うまれちゃった。(てへぺろ)

え、色々噛まれているトロワを描写したサービスシーン?

闇谷は清純派ですので、そういうのはちょっと……。

次回、第百九十二話「知ってるけど知らない場所」
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