強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百九十二話「知ってるけど知らない場所」

「こいつはまた……めんどくさそうな所だね」

 

 元女戦士の呟きにはまったくもって同感だった。

 

「細い通路に時折存在する小部屋、か。まぁ、この狭い通路では魔物をやり過ごすことは難しいだろうな」

 

 通路の奥へ視線をやると通路の壁に片側だけ切れ目が見える。おそらくT字路になっているんだろう。

 

(格子のように縦横に通路が走り、交わる場所にああいう風なT字路や十字路、小部屋がある感じかな)

 

 ピラミッドのミイラが活性化したことで探索を断念していなければ見える限りの通路からの推測でなく、記憶を頼りにおおよその構造がわかるのだが。

 

(いや、ミイラフィーバーしてるピラミッド内で悠長に構造を覚えてる暇なんてなかったかもな。それに――)

 

 済んだことをどうこう言っていてもなんの解決にもならない。

 

「それでも気配はわかる。出来るだけ戦闘を避けて進むしか有るまい。となると、問題は卵と生まれたばかりの幼竜達だが……」

 

 これに関しての選択肢は大きく分ければ二つ。

 

「このまま連れて行くか、行くまいかだな。連れて行かぬのなら、誰かに預けて帰らせるか、同じ魔物を見つけて側に放つか、何にせよ決めねばならん」

 

「確かにねぇ……流石に産まれたばかりじゃ足手まといだろうし、連れて帰るか仲間が居るところで放つかのどっちかじゃないかい?」

 

「そうですね。スー様も卵を抱えたままでは片手が塞がってしまうでしょうし」

 

 問題を提起すれば、パーティーメンバーの意見は概ね後者。

 

「たださ、スー様。二度あることは三度あるってあたしちゃんは思うんだけど……連れて行ってから卵を見つけるって場合はどうするかも決めておいた方がいいよ?」

 

 と助言してくれたスミレさんの意図がフラグを立てようとしたではないのだと信じたい。

 

「再度、か……まぁ、全くないとは言い切れんか」

 

 後であたふたするより予め決めておいた方が混乱がなくて済むのは事実だ。

 

「スー様の赤ちゃんだったらあたしちゃん産んであげても良いけどねー」

 

「……そう言う笑えない冗談は置いておくとして、幸いこのパーティは殆どの者がリレミトとルーラを使えるからな。その手のモノを抱えて離脱するメンバーを決めておくか」

 

 スミレさんの残念ジョークを流しつつ振り返ると一同の顔を順に眺め。

 

「トロワは側にいると言っていたから、除外するとして……」

 

 抱えて離脱するモノが多頭竜の子供となれば、ほぼ一択だった。

 

「行ってくれるか?」

 

「っ、仕方ないね……」

 

 顔を真っ直ぐ見て頼めば、元女戦士は顔を背けつつもため息を吐いた。承諾してくれたと言うことなのだろう。

 

「すまんな、ではこいつを頼む。……トロワ」

 

 頭を下げて卵を差し出すと幼竜を抱えた従者に視線を向けた。

 

「はい。……お願いします」

 

 頷きつつも差し出す様子が悲しみとか寂しさを帯びていたのは、おそらく俺の目の錯覚とかではなく。

 

(……悪いことをしてしまったな)

 

 見た目で既に心惹かれていたようなのだその上で幼竜達を預けられ、抱いていたのだから、情が湧いてしまっていたとしても不思議はない。

 

(さっさと中継点まで行って、引き返そう)

 

 今回の目的は最深部で神竜を倒すことに非ず。ダンジョン攻略などせずとも移動呪文でたどり着ける途中の場所までならそれ程時間もかからずたどり着けると思う。

 

(3フロア中2フロアが足を踏み入れたことのないダンジョンの使い回しだったし、

だったら、俺が足を踏み入れたことのないダンジョンの数は減ってるはず)

 

 足を踏み入れたことのあるダンジョンならば、階段を目指して最短距離を行けば良いだけなのだ。魔物が居たとしても、戦力的に全力で奇襲をかけたなら、瞬殺とは行かなくても長期戦にはならず倒せる程度の自信ならある。

 

「じゃ、あたいは一足先に戻ってるけど、気をつけなよ?」

 

「ああ、ではな」

 

 俺は元女戦士へ別れを告げると、とりあえず向かって右手側の通路に進み。

 

(っ、魔物が引き返してくる。って、ことは正面は行き止まりか。なら――)

 

 正面の気配を避けるように分岐を右に曲がり。

 

「今度は十字路か。後方から魔物は来てないようだな、よし」

 

 そのまま直進すると、見えてきたのは、壁。

 

「行き止まり、ですね、スー様」

 

「そのようだ。引き返して右か左に曲がるべきだが……もう一つ前の分岐の正面が行き止まりのようだったからな」

 

 十字路の左があっちの方向へ進める唯一のルートと言うことになる。

 

(道がわからないなら、下手すれば全て回ることになるんだし、だったら端の端まで行ってみるのも手か)

 

 ダメもとのつもりだった。

 

「ほう」

 

 だが、道の先にあったT字路を曲がり、更にもう一度角を曲がった先に見えてきたのは下り階段であり。

 

「これはさい先が良いな」

 

 この分なら、思ったよりも早く中継点へたどり着けそうだと思いながら降りた階段の先。

 

(え゛っ)

 

 かろうじて、声は外には漏らさなかった、だが。

 

(なに、これ?)

 

 視界に飛び込んできたのは、見慣れぬ景色。右手には右巻きに渦を描くように地下水が流れ、流れの中心にあるのは、四本の石柱が突き立つ小島。石柱の内側には明らかに人の手が加わったとおぼしき床が清らかな水を湛えた泉を囲んでいた。

 

 




降り立った先は、ノアニール西の洞窟の使い回し。

ノアニールの事件はクシナタ隊の一班が解決したので、またしても土地勘の無いフロアというオチですね。

次回、第百九十三話「泉はスルー」

まぁ、戦闘避けてるから回復の必要あんましないんですよねー、このパーティー。
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