強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百九十三話「泉はスルー」

「マイ・ロード?」

 

 足を止めたからだろう。すぐ後ろから聞こえた声で我に返った俺は、すまんと言ってから歩き出す。

 

「右手正面の小島が見えるか? あれに一瞬目を奪われていた」

 

「あー、あの石柱の立った」

 

 示した先を見たのか、上がる感嘆の声にああと短く応じ。

 

「俺は噂に聞く回復の泉ではないかと思ったのだが……それ程消耗している訳でもないしな。無視して先に進もうと思う」

 

 理由を付け加えて方針を語れば、反対する者はおらず。

 

(気配は右手と右手奥、それに正面に散らばってるな)

 

 地下水の流れる部屋を出て、新たな通路の入り口を燭台が挟む小部屋に辿り着いた俺は考える。

 

(通路の入り口が右手にあると言うことは、壁の向こうに回り込む形の通路が何処かにあるんだろうな)

 

 見回しても右手の入り口以外に奥へ進める道がない以上、確定だろう。

 

(迷った時は確か左に曲がればいいとか聞いた気もするし、左に行ける道があるなら曲がってみるのも良いかも……なんて考えると左側には曲がれなかったりするものだけどね、うん)

 

 それならそれで、左手の壁に手をついたまま進むとかやってみればいい。

 

(無限ループとかじゃなきゃ、それで行けるはずだ……し?)

 

 考えながら進んだ先には左手と正面に通路の入り口が空いたやや開けた空間があり。

 

「……とりあえず、こっちでいいか」

 

 俺は当然左折した。

 

「さて、問題はこの後だな」

 

 奥へ進む通路はさして長くなく、岩壁らしきモノで止まっていた。もちろん、行き止まりではなく壁の左手から微かに光が漏れているようなのでただの曲がり角なのだろう。これもいい。

 

「足音からすると、人型、だな」

 

 そう、曲がった先に気配があるのだ。

 

「トロワ、バイキルトを。曲がり角の先に敵だ」

 

「はい、マイ・ロード」

 

「他の皆も援護を頼む」

 

 返事を返したトロワがすぐさま唱え始めた呪文の完成を待ちつつ、残る面々に声をかけ、足音を殺してゆっくりと前に進む。

 

「バイキルトッ」

 

 後背でトロワの唱え終わった呪文が合図だった。飛び出した先で驚き戸惑うは、金に近い鮮やかなオレンジの肩当て、手袋、ブーツを身につけた多腕の骨剣士。

 

「でやぁっ」

 

 切れ味を増したまじゅうのつめは手にした剣や身につけた肩当てごと骨剣士の身体を両断し。

 

「せぇいっ」

 

 振るった一撃の勢いを活かし、回転しつつ隣にいた骨剣士も薙ぎ払う。

 

「人骨の? なら――ニフラムっ!」

 

 後に続いたクシナタ隊のお姉さんは、敵の姿に若干驚きはしたようだったが、判断は的確だった。残った骨剣士は光の中に消え去り、俺達は骨剣士の群れをやっつけたのだから。

 

「まぁ、こいつは少々扱いに困りそうだがな」

 

 ぼそりとこぼして視線を落とす先は、斬りつけたどさくさに奪い取った宝箱。空いた箱の中から刀身を覗かせたそれは、中央部分に持ち手を持つS字をした両刃の刃に反った別の刀身がくっつくという奇妙な形をしていた。

 

「と言うかこの形状、どう使えと言うのか」

 

「マイ・ロード、お気を付け下さい」

 

 何とも形容しがたい表情で強奪品を見ているとトロワが声を上げ。

 

「私の記憶が確かなら、それはもろはのつるぎ。振るえば己も傷つけてしまう危険な武器です」

 

「ああ、これがあの」

 

 名前を聞いてしまえば、ツッコミどころしかない形状も納得だが、なら尚のこと触る気にはなれない。

 

「ならば、これの処遇はお前に任せよう。捨てるなり、研究材料にするなり好きにすると良い」

 

 副作用無しの武器に改造出来るなら儲けモノだし、改造は不可能だったとしても俺がもってるよりトロワに持たせておく方が何倍も安心出来る。

 

「しかし、あの多腕でこんな武器を持っているとなると、こいつはとんだ自殺志願者だな」

 

 足下に散らばる骨に目をやって肩をすくめつつ、トロワが自傷武器をしまうのを見届ければ、あとは前に進むのみ。

 

「ほう、ここで下り階段とはな……」

 

 燭台に照らされた部屋の中、下へと続く階段を見つけてポツリと呟きつつも、俺は足を止めず階段をおり出す。

 

「さて、と……」

 

 もうこの時点で俺は諦めていた。どうせ次も見覚えのないフロアなのだろうと。

 

「……何というか、案の定、だな」

 

 階段を下りた先は、小部屋。そこはいい。前方に通路が延び、更に先には通路とか回廊と言っても良いのではないかと思える細長い部屋があったのだ。

 

「あれは、鎧か……それとも戦士の立像か」

 

 どちらにしても魔物でないことは気配でわかる。剣と盾手にしたそれらは二列を作り、燭台の火に照らされ、佇んでいた。

 

「見たところ、一本道……宝のにおいも無し、か」

 

 ただ駆け抜けるだけの場所に足を止める必要もない。俺達は甲冑が作る列の間を通り抜けるとフロア間を移動するのと比べれば傾斜の緩い階段を登る。

 

「っ」

 

 登り切った先にあったのは、傾斜も角度も違う階段。

 

(ここから次のフロアかぁ)

 

 下りが登りに転じたと言うことは、折り返し地点は過ぎたと言うことだろうか。

 

「まぁ、進むしか有るまい。皆、ついてきてるな?」

 

「はい」

 

「と言うか、殆ど出番さえない感じです」

 

 振り返って点呼すると、スミレさんあたりが若干退屈そうだったが、それはそれ。

 

(まぁ、やることなかったってのは事実だからなぁ)

 

 胸中で苦笑しつつ進むと、次のフロアは細長い通路から始まった。

 

「ここは……ん?」

 

 立ち止まれば、後ろが詰まる。足を進めると、見えてきたのは鉄格子の扉。

 

「まぁ、いい。鍵はなくとも呪文はあるからな……アバカムっ」

 

 解錠呪文を唱えると、手で押すだけで鉄格子の扉は軋んだ音を立てつつ動き出した。

 




何だか一気にフロアを駆け抜けた気がする。

次回、第百九十四話「ころしあむへよーこそ」

そう言えば、あの格闘場、ジパング人まで観客席に居たけど、何処に存在する格闘場なのかしら?

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