「あー」
扉を開けた先の景色には見覚えがあった。
(サマンオサの地下牢か……)
忍び込んでみたらまともな精神状態でない人が居たり、既に息を引き取った人がいて、落ち込んだ場所だ。
(それでも原作よりは人を救えたと思うけど……ん?)
微妙な気持ちで先に進むと、ふいに目に飛び込んできたのは、むしろかゴザらしきモノの上に横たわる白骨死体。
(あー、そう言えば居たなぁ。けど、名前がわからないと蘇生のしようがないし……あ)
手がかりを探して周囲を見回すと、反対側の牢に入っていた水色生き物と目があった。
「ダメもとで聞いてみるか」
「マイ・ロード?」
「あ、スー様、ひょっとして――」
クシナタ隊のお姉さんには俺が何を考えたか察した人がいたようだったが、俺は敢えて否定も肯定もせず、水色生き物の入ってる檻の扉を開けた。
「ねえ、キミたちも試合にでるの?」
「いや」
先に尋ねてきたのは、水色生き物。だが、これに首を横に振り。
「それより聞きたいことがあるのだが、良いか?」
「えっ」
こちらに興味を失う前に尋ねれば、水色生き物はきょとんとする。
「見たところ、試合の出番待ちだろう? なら、時間つぶしに話し相手になって貰っても構うまい? 実はな、この牢の反対側に横たわっている亡骸が少し気になってな。あれが誰なのか知って居ないか?」
人間とは限らない。と言うか、むしろ魔物の可能性の方が高い気もする。ここと次のフロアのことは覚えていた。確か、モンスター格闘場とそのモンスター達が入れられてる檻という設定と思わしき2フロアは原作でも印象に残っていた。
(ベビーサタンか何かかと思えば、色違いバラモスもどきと戦うハメになったし)
あれは、スルーせず好奇心から話しかけてみたのが失敗だった。
「あー、それならデビルウィザードのヌイットさんだと思うよ。あと一回勝てばお姉さんのユイットさんと一緒に自由の身になれるって言ってたけど、相手がバラモスエビルのアンドリューくんだったみたいだし、あれは仕方なかったんじゃないかなぁ」
「ふむ」
バラモスエビル、ってことは原作でうっかり話しかけて戦闘になってしまったあのバラモスもどきがそのアンドリューくんとやらだったのだろうか。
「だけどね、お姉さんのユイットさんが次の試合で勝てば、ヌイットさんを生き返らせてくれるって約束みたいで……」
「ちょっと、待て……何だか嫌な予感がするんだが。まさか……」
「うん、ユイットさんの試合がそろそろなんだ。だからキミ達がユイットさんのお相手なのかなぁって思ったんだけど」
やっぱり そういうこと ですか、どちくしょう。
(と言うか、何で原作と対戦相手が違ってるの?)
いや、原作知識に頼りすぎれば足を掬われかねない、こういう展開も予想していなければ行けなかったのかも知れないけど。
「弟を救うために命懸けで戦おうとする姉と戦うとか、完全にこっちが悪者だな」
なんと言うかやりづらいことこの上ない。
(って、いや、待てよ……原作だと牢の屍はそのままだった……ってことはユイットさんは、試合で負けている?)
勝って弟を蘇生して貰ったものの、その弟がまた負けたというパターンもあるが敢えてそっちのケースは除外する。
(うーん、どうしたものか。このまま階段を上るとそのユイットさんと戦う事になるのは間違いないよなぁ)
原作の様に戦わず素通りしたら、こっちの不戦勝でヌイットさんとやらは生き返らせて貰えるのか。
(蘇生するなら強引にでもあの弟さんを俺達の仲間にしないといけないけど、現状で所属は魔物使いか格闘場のオーナーとかだろうし)
今の状態で蘇生呪文をかけても聞くかどうかは微妙だ。
(やっぱり、上に登ってユイットさんに話しかけるしかない、かな)
弟さんと違って生きている姉の方なら交渉は出来る。
(勝ち抜けで自由の身になれるようだし、だったら勝者の権利で二人の身柄を要求すれば……)
受けて貰えるかという問題点も残るが、完全無欠の名案などそうそう思いつくものでもない。
「おおっと、これは驚きだ! 次の試合の挑戦者はどう見ても人間です! いったいどういう事でしょう?」
「何、ただの飛び入り参加だ。少々興味深いことを聞いてな」
階段を上った俺は、口笛の音や歓声に混じって聞こえてきた戸惑い混じりのアナウンスにのっかり真紅の覆面ローブに身を包み群青の帯をしめた魔物の女性を指さす。
「生憎俺の所有物にデビルウィザードは居なくてな。この格闘場では、自由をかけて戦う魔物が居るらしい。つまり、そう言った魔物は誰かの所有物なのだろう? 交渉しようかとも思ったが俺はめんどくさいのは嫌いなタチだ」
言いつつ前に進み出ると言葉を続ける。
「金なら有るが、買うってのもつまらん。勝負だ。対戦相手はコイツだけでなくていい。出てきた相手全てを倒したら、コイツとその弟を貰う」
ちょっと傲慢で実力過信な魔物コレクターを演じた訳だ。
「……な、なんと。皆様お聞きしましたか? この挑戦者、目的はどうやら対戦相手の身体のようです」
「え゛っ」
だが進行役はそうとってくれなかったらしい。
「しかも、弟の身柄までちゃかり要求していることに、この私、戦慄を隠せません。きっと、『弟の身柄が大切なら』とか脅迫して、対戦相手のユイットちゃんにお子様にはとても聞かせられないような破廉恥なことをやらせるつもりなのです! いいぞ、もっとやれ!」
「ちょ、ちょっ」
「私、個人的にはそう言う場面も見たいなと思いますが、同時に憤りも覚えております。この格闘場のモンスターはそんじょそこらでは見られない強敵揃い! 井の中の蛙には懲罰が必要でしょう! ちなみに、先程の『いいぞもっとやれ』の下りでオーナーからの許可は出ました。追加で五体程モンスターを増やしますが、挑戦者、文句はありませんね?」
「いや、魔物の数は構わんがな? とりあえず」
破廉恥な真似がどうのは訂正させて欲しかった。
「では、話が格闘場が誇る、モンスター達よ、出でよ!」
だが、聞いちゃいねぇ。こっちの話を無視し、進行役は仲間を呼んだのだ。
見ず知らずの姉弟を救おうとした結果がこれだよ。
次回、第百九十五話「誤解と死闘」
果たして主人公はユイットちゃんにお子様にはとても聞かせられないような破廉恥なことをやらせられるのか?