「まずはおなじみ、我が格闘場期待の星、連勝記録を更新中のバラモスエビル、リチャードぉー」
進行役の声に応えるようにケケケと笑いつつ飛び出してきたいかにも翼のある紫の悪魔っぽい外のそれは、着地するとバラモスを色違いにしたようなモノに姿を変えた。
「っ……マホカンタ」
危うく背中の翼はどうしたとツッコミかけたが、かろうじて堪え、小声で呪文を唱える。
「続いては、今日も何とか生き延びた。負けたら蟹鍋の過酷な運命に逆らう隻鋏のキラークラブ、シザーヴっ!」
続いて出てきたのは、残る左鋏を振り上げながら横歩きで現れた巨大な蟹。うん、蟹鍋とか隻鋏とかツッコミどころが多すぎる。
「……スカラ」
そんなもはや精神攻撃何じゃと思える紹介の合間に俺はこっそり強化呪文を唱えて行く。せこいと言うなかれ、多対一な上、相手はおそらくこのダンジョンの凶悪な魔物で構成されているのだ、これぐらいはしておかないと後れをとる可能性は充分にある。
「続いての登場は、サラマンダーよりずっと早い、だが腕力はちょっと弱い、突然変異のサラマンダー、疾風のビュウ」
「……バイキルト」
二体目と比べると紹介はマシな筈なのだが、この流れだと他の魔物にも謎の紹介文句が付いてるのだろうか。微妙な気持ちになりつつ、たいまつの明かりに照らされたアリーナの奥を見れば、軽く地面が揺れ始め。
「どんどん行くぞぉ! お次は、我が格闘場に入り浸り、天界の門番を首になったてんのもんばん、今は無職。お前それで本当に良いのか、グレゴリックぅぅぅぅ!」
「ちょっ」
なに、これ。どこからツッこめばいいのですか。
「そして、いよいよラストぉ、虐殺を生き延びた薄幸の少女。ま、性別雌だし、間違っちゃいないはず、はぐれメタルのはぐリィナぁぁぁぁ」
「おい! 最後待て!」
気が付けば俺は叫んでいた。
「おやぁ? 挑戦者から物言いだぁ」
「物言いって……まぁ、いい。他の魔物はわかる……が、最後に何ではぐれメタルなんだ!」
他はわかる。だが、このメンバーにはぐれメタルを入れることに何の意味があるというのか。俺が追求すると進行役は答えた。
「決まってるでしょう、マスコットです」
と。
「は?」
「見くびって貰っては困ります。この戦いは、あなたとあちらの魔物による、戦い。つまりあなたは六体の魔物を相手にしなければならないのですよ? 言うなれば、演出であり、あなたへのサービスです」
「あー」
なるほど、そういうことか。
「つまり、六体全部が本気構成では俺が勝てないから一体分遊びを入れた、と?」
「そうとって頂いても構いません。ユイットちゃんにお子様にはとても聞かせられないような破廉恥なことをやらせるんじゃないかとワクワクしてるから手心を加えたとか、そんなことはありませんからね?」
「あ、はい」
何というか全力で語るに落ちていた。
(いや、それでもてんのもんば……むしょくとか押し込んで来る辺り、勝たせないつもりもあるのか)
金色に輝く巨体が階段を上ってきた時には、正直、驚いた。
「まあいい、そちらがそれで良いというなら――」
俺は全力でやらせて貰うだけだ。
「マイ・ロード、ご武運を」
「スー様ぁ、勝ってくださいねー」
「スー様、あたしちゃん、スー様の賭け札買ってきましたー」
観客席から聞こえる声援に無言で頷くと、俺は一歩前に。どうやって観客席に行ったのかとか、なに人に賭けてるのとかそういうツッコミはぐっと堪えた。今は戦いに集中すべき時だ。
「それでは、試合開――」
「でやぁっ」
開始の合図に合わせ、地を蹴った。狙う相手はただ一体。
「ぐおおおぉっ?!」
「なっ」
「え」
驚きの声を上げたのは、喋れる二体の魔物。
「ぐ、グレゴリック? し、信じられません、あのグレゴリックがたった一撃で倒され――」
早すぎて進行役には一撃にしか見えていなかったらしい。が、どうでもいいこと。
「バシルーラッ!」
「うおっ、わ、うわぁぁぁぁぁ」
盾を装備した手を突き出して呪文を唱えれば、愕然としていた魔物の内、バラモスの色違いだった方が場外まで吹っ飛んでいった。
「えっ、あ……す、す、ごい、凄いぞ挑戦者! たった一つ、たった一つの呪文でリチャードを吹き飛ばしたぁぁ! えー、尚、場外のため、バラモスエビルは敗北判定となります。生き残ったとは見なされませんので、生き残り札を買われたお客様は、どうぞご理解下さい」
「ん、生き残り札?」
「今回は変則マッチだから、スー様か運営側の勝利以外に、どの魔物が生き残るかに賭けられたっぽい。あたしちゃんは、スー様が全滅させると思ったから買わなかったけど」
聞き慣れない単語に首を傾げると、スミレさんが解説してくれた。
(成る程な)
ちらりと観客席の方を見れば、バラモスエビルは堅いと思っていたのか、結構な人が掛札を買っていたようで、慟哭を上げる客が居るかと思えば、頭を抱えて席で蹲ってる客も居た。
「まぁ、普通に考えればこの編成の魔物に一人で勝つとかあり得ないしな」
二回行動と強化呪文の事前かけがなければ、結果は変わっていたかも知れない。ともあれ、しみじみ考えている時間は、対戦相手にとって隙に見えたらしい。
「イオナズン」
呪文を唱えたのは、おそらくデビルウィザードのユイットさん。
「すまんな」
だが、俺は既に
「きゃあああっ」
跳ね返ってきた爆発に飲まれたユイットさんが悲鳴をあげ。
「フシュオオオッ」
「くっ」
吹き付けられたはげしい炎に呑まれた俺も顔を歪めた。
流石に勝てなくなるかと思って、「痛いのも痛くするのも大好き、生前の死因はもろはのつるぎによる自滅、デモンズソード、ヴェイドス」をはぐれメタルに入れ替えたら、死闘が死闘じゃなくなってしまった件について。
てんのもんばんを入れたりと最初はガチで死闘の演出するつもりだったんですよと言い訳をしてみる。
次回、第百九十六話「死闘?」
あと、サラマンダーについてはスルーしちゃって下さい、出来心です。(てへぺろ)