強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百九十六話「死闘?」

 

「……流石にフバーハまで手は回らなかったからな、っと……さて」

 

 突き込まれる鋏をかわし、ギラの呪文による熱が光の壁に跳ね返るのを視界に入れつつ身構える。

 

「行くぞっ」

 

 呪文はマホカンタで跳ね返せる以上、次に狙うのは空を泳ぐようにたゆたうドラゴン。だが、視線は隻鋏の巨大蟹にやり、そちらへ駆ける。

 

「はっ」

 

 地を蹴り飛んだ先は、蟹の上。何故なら、標的は高い場所にいるのだ。

 

「ここだぁっ! っ、よし」

 

 踏みつけた蟹を足場にもう一度飛ぶと、俺の手はサラマンダーの尻尾を捕まえた。同族と比べて早いという話だったが、こちらも素早さなら人間の限界に達(カンスト)しているのだ。

 

「炎の礼、させて貰うぞ」

 

「シュギャアアッ」

 

 尻尾を掴んだまままじゅうのつめを振るえば、血の雨が降り、断末魔と共に掴んでいた魔物の身体から浮力が消えた。

 

「っ、こっ」

 

 すかさず手を放し、叫びつつ落下する死体を蹴ることで距離を開け、下敷きになることを防ぎながら着地、と言うか地面に落ちて土の上を転がる。

 

(まぁ、そうだよなぁ、うん)

 

 これで三匹と格好を付けたかったのだが、そもサラマンダーの浮いていた位置が蟹を足場にするだけで届く高さだったのだ。言い切る前に地面に落ちるのは当然のこと。

 

(で、後は蟹と発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)と――)

 

 トロワ上位種のユイットさんかと、顔を上げた瞬間だった。

 

「うっ」

 

 怯えつつもこっちを睨んでくる尖り耳な美人のお姉さんが一人。

 

(あー、うん)

 

 煤まみれだし、あちこち破れたローブを着てるので、きっとイオナズンをはじき返されたユイットさんなのだろう。

 

(何というか……こうなるんじゃないかなぁ、とか少しは思ったけどさ)

 

 まず間違いなく誤解されている。

 

「おおっと! 挑戦者、ユイットちゃんを見ております! ローブが破れた姿に嗜虐心をくすぐられたのでしょうか。はたまた、戦いに勝って無理矢理にあーんなことやこーんなことをぐへへ……おっと、失礼しました」

 

 主にこの進行役が原因で。

 

「……イオナズンであの妄言黙らせられたらいいんだが」

 

 だから、ボソッと本音が漏れても仕方ない。

 

(ただ、うっかりアナウンス席を爆破しても誤解は解けないだろうし……)

 

 現実的に誤解を解く事を考えるなら、さっさと戦いに勝利して、弟さんを呪文で生き返らせるべきなんだろう。

 

(直接話しかけて説得は進行役が居る限り厳しいし)

 

 雑音をシャットアウトするため、零距離まで接近して耳元で囁く事も考えたが、それこそ妙な誤解を招きそうな気がする。

 

「……と言う訳で、悪いが鍋になって貰うっ、メラゾーマっ!」

 

 蟹にすれば、不意打ちだったかも知れない。さっき踏み台にされたものの、サラマンダーの死体から離れ転がったから距離もあった。だが、攻撃呪文であれば開いた距離も関係ない。直撃した巨大な火球が爆ぜて、バラバラになった蟹の死体が周囲に飛び散った。

 

「あ」

 

 鍋だって言ったのに四散させちゃった。

 

「な、な、な、なんと言うことでしょう! シザーヴがバラバラに、これでは蟹鍋は厳しいぃぃ! 一応死体回収班はスタンバイしていますが、果たして鍋に出来る程蟹の身が残っているのかぁぁぁぁ」

 

 って、それでも こころみよう とは するんかい。

 

「シザーヴ・ファンクラブ最後の晩餐が決行可能か怪しくなってきたところではありますが、それはそれ! 挑戦者、強い! 攻撃を諦め、シザーヴがスカラの呪文で身を固めたと見るや、嘲笑うかのように攻撃呪文で爆砕っ! 本当に容赦ありませんっ、私、何だかこの後の展開が個人的に楽しみになって参りました」

 

 相変わらずクズな本音が駄々漏れの進行役には攻撃呪文をぶつけたい気持ちで一杯だが。

 

(成る程、二度目の鋏攻撃が来ないと言うか近寄ってこなかったと思ったら、自己強化していたのか)

 

 そこまで観察してる余裕はなかった。うん、もちろんユイットさんに見とれていた訳ではない。サラマンダーに飛びついたり地面を転がったりとあの蟹への視線を外していたタイミングが何度かあったのだ。

 

「おお、なんと言うことでしょう。等格闘場の腕自慢達はほぼ全滅、残るはユイットちゃんとはぐれメタルのはぐリィナのみ。だと言うのに、挑戦者、先程からの応酬を見ますに、呪文を反射するマホカンタの呪文を使用している模様。これはえげつない!」

 

「やかましい! 呪文の使い手が複数居る時点で――」

 

 マホカンタは当然だろうと叫ぼうとした時だった。

 

「ザオリクっ」

 

「な」

 

 進行役に気をとられていた俺が聞いたのは、蘇生呪文を唱えた女性の声。

 

「お、おおおっ! ここに来て立った、グレゴリックが起きあがったぁぁぁ」

 

「ザオリク……だと?」

 

 いや、トロワ達アークマージの上位種族なのだ。蘇生呪文が使えてもおかしくはない、おかしくはないのだが。

 

「なら、何故弟を生き返らせない?」

 

 最初は蘇生費用を稼ぐために勝たなくてはいけないとかそう言うことだと思っていた。

 

「だが、自前で蘇生呪文が使えるなら――」

 

「あ、会わせて貰えないからだべっ!」

 

 何故勝利が必要か、そんな俺の疑問に答えたのは、つい今し方蘇生呪文を唱えたユイットさんだった。

 

(と言うか、「だべ」って……)

 

 俺が戸惑う間も、ユイットさんは語り続けた。運営はオラ達が不正さするかも知れねぇって身内同士での治療は許してくれねぇだ、とか。

 

「何連勝かすれば会う機会はくれるだ、でもよ。オラはヌイットさとまた姉弟仲良く暮らしてぇ。だで、負ける訳にはいかねぇだよ!」

 

「……なるほどな。ようやく得心はいった、が」

 

 何というか、まるっきり俺が悪役ポジションなんですが。

 

「『が』何だべさ?」

 

「それはこっちの話だ。そもそも今は試合中、だからな」

 

 一人生き返ったところで敵の数は減っているものの、蘇生された相手が拙い。

 

(見た目動く石像系のモンスターってことは、防御力無視な痛恨の一撃を繰り出してくることもあり得る……しかもこいつって二回行動してこなかったっけ?)

 

 先程は攻撃を貰う前に倒してしまったからわからないままなのだが、俺の嫌な予感が当たって二回連続痛恨の一撃とか出されたら、下手するとこっちが死ぬ。

 

(少し、わからなくなったか……だが)

 

 俺は金色無職を横目でちらりと見ると、自身との距離を測った。

 




デビルヴィザード=MP無限+ザオリク唱えられる

うん、弟さんも参戦してたら、主人公詰んでたかも知れませんね。

次回、第百九十七話「大番狂わせ」
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