強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第百九十七話「大番狂わせ」

 

「いくぞ」

 

 再び地面を蹴り、俺は駆け出す。敵を一体蘇生された訳だが、攻撃される前に倒せればどうと言うことはない。

 

(ただ、倒してももう一度蘇生させられる可能性はあるんだよなぁ)

 

 デビルヴィザードであるユイットさんの精神力がどれ程のモノなのかを俺は知らない、覚えていない。もし、無限だったりした場合、倒す蘇生倒す蘇生のループを半永久的に繰り返すことにもなりかねない。

 

(あの金色を倒した余力を発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)に向けていた場合は、だけど)

 

 ここか最短で勝利するなら、ユイットさんか金色無職のどちらかを倒し、返す刃で残った方も倒すのが正解だと思う。

 

「せいっ」

 

「ぐおおおおっ」

 

 だから、俺は金色の方を斬り捨てた。

 

「うおおおおっ、またしてもグレゴリックが一撃だぁぁぁ!」

 

「これで――」

 

 そして騒ぐ外野を無視して方向転換。

 

「次は、お前だ!」

 

「ひっ、んぐっ」

 

 完全蘇生呪文(ザオリク)を使わせる訳にはいかない。怯え、硬直してしまったユイットさんに肉迫すると俺はその口へと突っ込んだ、自分の片手を。

 

「ん、ん゛おぉぉんーッ!」

 

「な、な、な、なんと言うことでしょう! 挑戦者、ユイットちゃんの口に手を突っ込んで呪文の詠唱を強引に止めたぁぁぁぁ!」

 

 最初は掌で押さえ込もうかと思ったんだ。だけど、それじゃ、引っぺがされたり指の隙間から呪文を唱えられる可能性があった。

 

(倒すつもりが勢い余って殺してしまった場合、怯えられるのは間違いないし……)

 

 呪文を封じた上で、交渉。ギブアップさせて、最後に発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)を倒して終了と言うのが戦闘中に俺の考えた筋書きだった。

 

「ん゛、ん、んーッ」

 

 ちょっと奥まで指が入りすぎたか、ユイットさんは涙目だし、手袋越しとはいえ歯を立てられた左手はちょっと痛いけどしかたない。

 

「おぼっ」

 

「……そう思っていた時期が、俺にもあった」

 

 鼻孔をくすぐる酸っぱいにおいと、びちゃびちゃという何かが地面へ落ちる水音に思わず目が遠くなる。

 

「あああああっ! リバースっ、リバースだぁぁぁぁ! 奥まで手を突っ込まれてしまったユイットちゃん、えづいたのか戻してしまったぁぁぁ!」

 

 何が起きたかをわざわざ観客に知らせる進行役。

 

「あー、なんだ、その、すまん……」

 

 エピちゃん(おもらしす)るに続く悲劇の単語、ユイットさん(おうとす)るはこうして産まれた。

 

「だが、俺も流石にこれ以上はさせたくない。ギブアップ、して貰えないか?」

 

 と言うか、公衆の面前でリバースさせた女の人へ物理的に追い打ちをかけるとか、やれる外道には流石になれない。

 

「その、服の着替えとかもあるだろうし、な? な?」

 

「んん、んぅ」

 

 旅に出てから五指に入る程下手に出たこの交渉の結果、俺はユイットさんへ首を縦に振って貰うことに成功し。

 

「ああーっと、ユイットちゃんがここでギブアップぅ! いやー、もっとけしからん光景が見られると思っていたのですが、少々残念です」

 

 進行役の戯言を完全スルーしつつ、残った一匹に歩み寄る。

 

「ピィッ」

 

「悪いな。今、俺は少々苛立っている。手加減は出来そうにないぞ?」

 

 逃げ出すに逃げ出せず、格闘場の壁際まで追いつめられた発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)がどうなったか何て言うまでもないだろう。

 

「ピ……」

 

「おおっと、はぐリィナが起きあがって仲間にして欲しそうに挑戦者を見ているぅぅぅ!」

 

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 魔物使いの心得があるのはシャルロットだろうに。

 

(なに が どうして こうなった?)

 

 いや、前に俺もばくだんいわから懐かれた覚えとかはあるけどさ。

 

「おや、おわかりでない? では、ご説明しましょう。はぐリィナによると、挑戦者のあなたからは仲間のにおいがするということです」

 

「におい……あ」

 

 イシスの格闘場で発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)相手の模擬戦をするトロワ達と同じ部屋にいたことを思い出し、疑問は氷解した。

 

「しかし、割と容赦なくボコボコにしたのだが……」

 

「それでも仲間が恋しいのでしょう。いやー、私、そんな過酷な運命を辿った一匹のはぐれメタルに涙が止まりません」

 

 ひょっとして殴られるのが好きな変態さんなのではと邪推し駆けたが、進行役以下に堕ちるのは流石に嫌だったので、別の言葉を口にする。

 

「それはそれとして、こいつはここの魔物なのだろう? 連れ出すにはまた戦って勝ったりしなければ行けないんじゃないのか?」

 

「あー、懸念はごもっともですが、そもそも今回の試合、挑戦者側が勝利するという大番狂わせが起きました。正直に申し上げますと、当格闘場にはあの布陣を突破する挑戦者に出せる魔物が現在存在しておりません」

 

「成る程、な」

 

 蟹は蟹鍋確定。バラモスもどきは何処かに飛んで行ってしまっているし、ユイットさんとこの発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)は立場が変わった関係で出場させられないのだろう。

 

「ですが、約束は守ります。ユイットちゃんは今シャワーを浴びているはずですが、戻ってきたならお好きなように。弟の亡骸を含め、三体のモンスターの所有者は挑戦者のあなたです」

 

「ふむ……」

 

 たぶん、これで一応の目的は果たしたと見て良いだろう。

 

(後は、二人と一匹を連れて中継点まで行ってから、帰還、と)

 

 うっすら残ってる原作知識だと、この闘技場から中継点まではすぐだった気もする。

 

「なら、俺は選手控え室の方に戻らせて貰おう。流石にこの手袋は、な」

 

 交換ついでとなると失礼だが、弟さんの方も呪文で蘇生させなくてはいけない。

 

「お前達も換金を済ませたら控え室の方に、な?」

 

 観客席のトロワやスミレさん達にそう告げると俺は踵を返したのだった。

 




まぁ、見た目マージ系なのでエピちゃんのお仲間入りは仕方ないね?


次回、第百九十八話「神竜に一番近い城」
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