「……ああ、ここか」
サマンオサの牢獄を彷彿とさせる控え室が並ぶ廊下を歩いていた俺は、鉄格子の向こうに白骨を見つけて足を止める。
「アバカム」
扉自体は、解錠呪文が有れば開けるのは造作もない。
(そして、二人と一匹の身柄も預かった。
先にここまで来た理由は幾つかある。まず、観客席にいたトロワ達は一部の賭け札を買ったお姉さん達には換金する時間が必要だったこと。
(次が、これ……だな)
二つめの理由は、控え室と言うよりは牢屋と行った方が正しそうな部屋の中に入り、視線を落とした先にあった。
「身体ごと燃やされでもしたか……それとも――」
白骨死体は何も身につけていなかったのだ。この状態で蘇生した場合、初期クシナタ隊のお姉さん達同様、すっぽんぽんで生き返る可能性が高い。
「それを流石に異性へ見せる訳にはな……」
「ピキー?」
「と、お前も雌だったな。暫くこれを被っておけ」
さも当たり前のように後ろで鳴いた
「ザオリク」
動機にちょっぴり不純なモノが混じりはしたが、呪文自体にはなんら影響しなかったらしい。まぁ、雑念が入ったり真摯でないと呪文が回復系の呪文は成功しないとしたら、何処かの腐った僧侶少女が役立たず確定な気もするので逆説的に不安はあまり感じていなかった。
「姉貴っ」
「っ」
いや、感じていたとしても直後に吹っ飛んでいただろう。蘇生された直後で目がよく見えていなかったのか、全裸で生き返った尖り耳の男が抱きついてきたのだ。
「ピ」
「うおっ?!」
思わず後ずさろうとしたが、これも悪手。踵が何かを踏んづけて滑りバランスを崩したところで、直前の鳴き声から鳴き声に布を被せたせいでこっちの事が見えなかったあの
「わぁっ」
「ぬわぁっ」
仰向けに倒れ込む俺、降ってくる全裸の男こと、ヌイットさん。姉同様に美形ではあったが、相手が男では何の救いにもならず。
「うぐっ」
「ぐおっ」
重なり合って倒れ込んだ。後頭部が痛い、おそらく床に打ちつけたのだろう。下から悲鳴が漏れなかった事からすると、
「あ、あぁ……」
逆さになった世界、鉄格子の向こうで半ば呆然としつつ立つ人影が一つ。
「なんてこった、ヌイットさがホモになっちまっただーっ!」
「ちょ」
響き渡るユイットさんの絶叫に俺の顔は完全にひきつっていた。
「おかしいと思っただ。オラだけならともかく、ヌイットさも欲しいって言うなんて……けど、違っただな? オラの事はよその目を欺くためで、本当はヌイットさの身体が目当てだったなんて……」
「ちょっと待て、誤解だ!」
流石に黙っていられず、俺も叫んだ。
「何が誤解だべ! ゴザの上に寝ころんで抱き合ってるでねぇか!」
「っ、いや、これは遺体を寝かせる為に敷いてあったものだ! そも……っ」
ユイットさんの指摘に第三者から見ればアウトな状況を否応なく再認識しつつも弁解を始めた俺は、複数の近づいてくる気配に気づいて固まった。
「俺がホモ……」
「くっ、退けっ」
姉に誤解されたのがショックだったのか、真っ白に燃え尽きた全裸の男を上から慌ててはね除け。
「おっ父、おっ母、申し訳ねぇ……オラが居たって言うのにヌイットさを――」
「お前も話を聞けぇぇぇぇ!」
起きあがるなり掴みかかる勢いで全力誤解中のユイットさんへ迫った。
「ピギュ」
「うおたっ」
そして、滑る足下。
(ああ、なにごと も あせっちゃ だめ だなぁ)
スローモーションになる世界の中で、俺は気づく。あの進行役のことを真に受けたのか、ユイットさんの身につけていたのが、戦っていた時着ていたローブではなく同じ色合いのマントのようなモノであったのだ。転びかけの俺が支えを求めて無意識に掴んでしまったことで、留め金が外れ、ずり落ちるマントの下、視界一杯に迫ってくるのは肌色一色。
「ひっ」
「すまぶっ」
謝る暇などない。俺の顔は柔らかな二つの膨らみに挟まれる様に埋もれ、結果的に俺は膨らみの持ち主を押し倒したのだから。
「す、スー様?」
「マイ……ロード?」
ちなみに、ユイットさんが立っていたのは部屋の外。だから押し倒せば廊下に居たトロワやクシナタ隊のお姉さん達は丸見えである。
「スー様、事情は伺いましたが、あれはちょっと……」
なので、合流早々クシナタ隊のお姉さん達によるお説教を受けるハメになったのは、言うまでもない。
「蘇生も私達がこちらに着てから、『ヌイットさんが何も着てないから一度席を外してくれ』とおっしゃれば済むことでしたのに……」
「そうだな、すまん」
「まーまー、スー様はあたしちゃん達に気を遣ってくれようとしてこうなった訳だし、そろそろ許してあげてもいいと思うよ? 面白いものも見られたから」
謝るしかない俺とフォローしつつも最後で台無しにするスミレさん。
「そうですね」
「スー様も反省されてるようですし」
尚も続くかと思われたお説教がそんなスミレさんのフォローで切り上げられることに心がちょっとモヤッとしたが、俺もここで蒸し返すような愚をおかすつもりはない。
「じゃあ、そろそろ出発ね。あっちも感動の再会が終わったみたいだし」
ただ口は開かずカナメさんの示す方を見やれば、そこには涙のあとを残したまま頷き合う姉弟の姿があり。
「さっきは、その失礼しましただ。ヌイットさ共々、どうぞ宜しくお願いしますだよ」
こちらの視線に気づいたユイットさんは顔を赤くしたままぺこりと頭を下げるのだった。
せかいのあくい「久々に良い仕事した気がする」
おのれ、せかい の あくいめ。しろ に たどりつけなかった じゃないか。
次回、第百九十九話「神竜に一番近い城」
ちなみに「もう嫁さいけねぇだ、責任とってくんろ」と姉の方が主人公に詰め寄る展開も考えてましたが、没にしました。
少々そっち系ばっかりかなぁって思いまして。
あ、だからって、次回王様に主人公が迫られるとかそう言う展開はないのでご安心下さい。