強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第二百五話「盗賊で、良かった」

「さて……」

 

 梯子を登り切ると壁面の左右に見えたのは、内部への入り口。おそらくはどちらかが正解ルートなのだろう。

 

「気配は……ない、か」

 

「スー様?」

 

 後ろから聞こえた訝しげな声をスルーし、ちらりと見たのは腕を通したロープの束。

 

(飛行モンスターに見つかったら拙いと思っていたが、この分ならいけるな)

 

 ロープの先についたフックを弄びつつ足場のギリギリ外側まで寄って空を仰ぐと、天井が遮る形にはなっているものの、あくまで真上までだ。

 

「誰か二人程、補助を頼む」

 

「補助? マイ・ロード、補助と言いますと?」

 

「この位置からだと上が見えないのでな。外側に飛んで、そこからこのフック付きロープを投げる。上手くやれば、フックが引っかかったロープを頼りに上に登れるが、そのままだとしくじれば下に真っ逆さまだ」

 

 念のため、命綱の保持役を任せたいと俺が言うと、立候補したのは、ほぼ全員。

 

「すまんが、頼む」

 

「あいよ」

 

「スー様も気をつけて」

 

 その中から俺が選んだのは元女戦士とカナメさんの二人。

 

(まぁ、クシナタ隊は元を含めて魔法使いとか僧侶が多いもんな)

 

 力を選考基準にした段階で結果は見えていた。

 

「いくぞっ」

 

 何もない足場の向こうに飛び。

 

「っ、でやあっ」

 

 空中で身体を捻って向きを変えるとフックの付いたロープの先端を投げる。俺の身体はすぐに重力に引かれ始めるが、命綱がある以上、気にすべきは投じたフックであり。

 

「……っ、よし」

 

 二階程上の外周部に置かれた宝箱にフックが引っかかるのを見て、手にしたロープに体重をかけた俺は快哉を叫んだ。

 

(フックが外れるとか、あれがミミックで引っ張られて落ちてくることも考えたけど……一人分の体重がかかっても何ともないようだし、とりあえずは成功、かな)

 

 後はこのまま上に登り、もっときちんとした場所にロープを結わえ、他の皆にのぼってきて貰えばいい。

 

「ショートカットを……狙う、なら、これと……飛べるモンスターに、変身して、飛んで行く……ぐらいしか、なかった、もんな」

 

 後者は命綱が要らないが、変身が切れるまで弱体化すると言う欠点をもち、前者は上にのぼるのに、失敗のリスクと転落の危険がつきまとう。

 

(まぁ、一択でなく選ぶことが出来たのは、俺が盗賊だから、か)

 

 盗賊で良かったと思いつつロープを辿ってのぼれば、やがて宝箱の所へ辿り着き。

 

「中身の確認は後で良いな」

 

 宝箱事態はスルーし、フックを外すと足場を遮る形に突き出た近くの壁にロープを回し、しっかり結んでから足場の縁へ行き下を覗き込む。

 

「いいぞ、のぼってこい」

 

 合図を出せば、のぼってくる面々の安全を確保するのが俺の仕事だ。気配を探り、魔物が寄ってくるようなら即座に屠れるよう身構える。

 

(……とりあえず、目視出来る位置にはいない、か)

 

 こちらとしては都合が良いが、油断は出来ない。尚も警戒は解かず、仲間全員が登り切るのを俺は待ち。

 

「ねー、スー様。そこの宝箱、こんなの入ってたよー?」

 

「あ」

 

 かけられた声で宝箱の中身確認を先にされたことに気づく。

 

「そうか、『はかいのてっきゅう』はここにあったのか」

 

 神竜との戦いが間近である事を鑑みるとこのタイミングでの武器の持ち替えは好ましくないが、最高クラスの攻撃力を誇る武器を死蔵させておくのは惜しい。

 

「へぇ、そんなに凄い武器なのかい」

 

「ああ、一度に複数の敵を攻撃出来る上、最強と言っても過言でない程の威力を持っている筈だ。だが、扱い方を練習しているような猶予がな……」

 

 それに、使うなら誰が装備するかも問題になる。盗賊が持てば、装備出来る者の少ないまじゅうのつめが余ることになるし、賢者でも装備は出来るが多彩な呪文を扱える賢者を物理攻撃的なアタッカーにしてしまっては、長所を殺してしまいかねない。

 

「はん、おもしろいじゃないのさ。だったら、こいつ、あたいにつかわせておくれよ?」

 

 そう、元女戦士で力もあるこの人を除いては。と言うか、最初から他に選択肢なんてあって無きが如しだったのかも知れない。

 

「いいだろう。ただし、味方に当てるなよ?」

 

「当然さね。戦士だった頃に仕込まれた数多の武器の扱い方、忘れた訳じゃないって所を見せてやろうじゃないのさ」

 

「ふ、期待してるぞ」

 

 口の端をつり上げ、それだけ言うと、俺は歩き出す。武器を譲渡している間に最後の一人までもがのぼってきたのだ。

 

(ロープを投げる時に見た限りじゃ、半分は超えてる)

 

 少なくとも壁の側面に入り口のようなモノはこれ以上上の方にはなかったし、この塔を登り切った先に目当ての神竜はいるはずだった。

 

「って……塔の中に塔、か」

 

 壁面にあった入り口をくぐると、まるで入れ子構造であるかのように存在した一回り小さな塔。左手前方は行き止まりで、進めるのは右手前方と真右のみ。

 

「こっちか?」

 

 二者の内で言うなら左、つまり右手前方を選んだのは勘が半分、残り半分はこっちの方だった気がするという頼りない記憶だ。

 

「登り階段……そうか、こっちで良かったのか」

 

 確証はなかった、だがどうやら賭には勝ったようだった。

 

 




次回、第二百六話「挑戦の時」
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