強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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最終話「ありがとう、そしてさようなら」

「では、その者達の故郷に行ってみるがいい」

 

 複数を生き返らせてくれと願ったからか、神竜の言い回しは違っていたが、それでいくらかは肩の荷が下りた気がした。

 

「故郷、か」

 

 こんな所で神竜が嘘をつくはずもない。それに、こちらの世界は良いにしても、アレフガルドで生き返ったであろうトロワの父親について確認する術は俺にない。

 

「少し、良いか?」

 

 だから、神竜が別れの言葉を口にするより早く投げたのは、別の問い。つまり、連戦することで二個目三個目の願いを叶えて貰うことは可能かというモノだったが、神竜の答えは否だった。

 

「……まぁ、ここまで来た褒美とも言っていたからな」

 

 そのまま連続挑戦が不可能だったのは別に驚くことでも何でもない。

 

「皆、出直すぞ?」

 

 振り返りカナメさん達へ声をかけ、戻る先は遙か南南東。

 

「向かう先は、アリアハンだ」

 

 たぶん、願い方も拙かった。

 

(「勇者とその仲間達の身内で他者によって命を奪われた人達を生き返らせて欲しい」って、これじゃ、シャルロットの親父さんが生き返ったかどうかもわかんないじゃん、俺の馬鹿ぁ)

 

 神竜は確かに願いを叶えて条件に見合った人を生き返らせてくれたとは思う。

 

(だけど、原作知識を授けたもう一人の勇者であるクシナタさんを始めとする二つ目のパーティーの活躍や、凄まじい早さで進んだ攻略によって、もしシャルロットの親父さんこと勇者オルテガが戦死していなかったら?)

 

 親父さんは娘であるシャルロットと一緒にいる可能性が高い。原作通りなら記憶喪失のままで、シャルロットのお袋さんは夫の父親と二人残されたままになる。

 

(勇者オルテガが戻ってこないから、シャルロットのお袋さんはアレフガルドのことを何も知らず――)

 

 娘や夫と永遠に会えなくなっていることさえきづいていないかもしれない。

 

「……となればな。どうしても確認しておかねばならんし、アレフガルドのことは話しておく必要がある」

 

 アリアハンへ向かう中、俺はパーティーメンバーにそう説明し。

 

「そう言うことなら仕方ないね。けど、勇者一行……ねぇ」

 

「どうかしたのか?」

 

「いや、話を聞く限り、生き返らせて貰う相手の条件、けっこう緩くしてたじゃないのさ。大きな騒ぎになってないといいんだけどねぇ」

 

「あ」

 

 言われてみればもっともな話に俺の顔は引きつる。

 

(とりあえず、アリアハンで俺が把握してるのは、元バニーさんの親父さんぐらいだけど)

 

 人が産まれるには、当然両親が居る。魔法使いのお姉さんに元僧侶のオッサン、二軍以降もOKならば、腐った僧侶少女の他に開拓者の町に送ろうとした商人のオッサンなんかもアリアハン出身の勇者一行に含まれると思う。

 

(そしてそして、アリアハン出身と拘らなければ、勇者サイモンやシャルロットのもう一人の師匠、クシナタ隊のお姉さん達とムール君、エリザやシャルロットが仲良くなったモンスター、俺が部下にした元バラモス親衛隊にトロワやアンも勇者の仲間達扱いにされるよな)

 

 アレフガルドとこの世界で、あわせて何名が生き返ったのだろう。

 

(はは、ははは……どうかとんでもない騒ぎになっていませんように)

 

 油断すると引きつった笑顔にしかならない顔を必死に取り繕いつつ、ルーラの呪文による空の旅の間、俺は密かに祈った。

 

「奇跡だ! 奇跡が起こった……う、うううっ……」

 

 そんな俺を嘲笑うかのように。アリアハンで最初に出会った町人は泣き笑いの表情で一人のどことなく見覚えのある顔をした女性の腰にしがみついていた。

 

「あぁ、そう言えばあの子のお袋さんも魔物の犠牲になったんだったね」

 

「あの子?」

 

「ホラ、イシスに居た僧侶の子だよ。エミィって言ったかねぇ」

 

「な」

 

 言われてもう一度抱きつかれてる女性を見ると、顔立ちはあの腐った僧侶少女に生き写しだった。あの少女から変態性を引き抜いた上髪の色を淡くし、十数年年をとらせたらまさにそっくりになると思う、もっとも。

 

「決めた! もう決めたぞ! あの金ぴかの大きな魔物も来ないし、私は作家を止める!」

 

 直後に抱きついていた町人の口にした宣言で、全てぶっ飛んでしまったのだが。

 

「はい?」

 

 思わず聞き返してしまったが、答えてくれる人は居なかった。

 

「エミリア。君を失った悲しみを紛らわせるように羊皮紙に当たり続け、気が付けば引く手あまたの作家になっていた私だが、いくら『えっちなほん』を書こうとも、君の居ない世界は色あぜあっいだだ、ちょ、エミリア何を? ま、待て、話し合おうちょっ、ぎゃぁぁぁ」

 

 ただ、目の前で起きた出来事は、良い笑顔の奥さんに間接をとられて悲鳴をあげる腐れ少女の父親があの本散布事件に一枚噛んでいたと知るには充分で。

 

「お前も行ってくると良い、用事を済ませたら城下町の入り口で落ち合おう」

 

「悪いね」

 

 今にも参戦したそうな元女戦士とそこで別れ、俺が向かった先は、シャルロットの家。

 

「シャルロッ――」

 

「っ……すまん」

 

 戸口をノックしたのが自分の娘だと思ったのか、ノックから間をおかず開けられた扉の向こう、若干やつれたシャルロットのお袋さんの顔を見た俺は、気づくと謝っていた。

 

「そのシャルロットと、あなたの夫のことで話がある」

 

「シャルロットの、シャルロッ……夫?」

 

「ああ。とりあえず、最後まで聞いてくれ」

 

 今にも食いつかんばかりだったお袋さんが、夫という単語に動きを止めたのをこれ幸いと俺は説明を始める。勇者オルテガが記憶を失いつつも生きていたこと。だが、そのオルテガは記憶を失いつつも僕である魔王バラモスを差し向けた大魔王ゾーマに挑もうとしていたこと。

 

「そのゾーマをシャルロットはあなたの娘は倒した。俺は大魔王との戦いで命を落とす者が出るのではないかと思い、もし、死者が出た場合、特殊なツテを使って犠牲者を生き返らせる為に動いていた。外で以前亡くなった者が何人か生き返ったと騒ぎになっているようだが、それこそ俺が犠牲者を生き返らせようとした結果だ。勇者一行とその身内で他者に命を奪われた者を生き返らせたのでな。シャルロットの仲間の家族で魔物に殺されていた者が生き返ったという訳だ。もし、あなたの夫、旦那さんが戦いで命を落としていたなら、同様に蘇っていた」

 

「そこまで言われれば、わかります。夫は、命を落とさなかったのですね?」

 

「おそらくは」

 

 ここまではいい。だが、問題はここからだ。俺は残酷な事実を告げなくてはならない。

 

「そして、大魔王は倒された。侵略の為、こちらの世界へ開けた穴も維持する力の持ち主を失ったことで塞がれた」

 

 ああ、何故俺は告げなくてはいけないのだろう。シャルロット達とは二度と会えなくなったのだと。

 

「マイ・ロード……」

 

「トロワ……すまんな、気を遣わせてしまったか?」

 

 シャルロットの家を出る俺の気分は最悪だった。

 

「いえ、ですが宜しいのですか? 神竜に叶えて貰える願いはまだ残されていますし、時間さえ頂ければアレフガルドとこちらを」

 

「繋ぐ道具を作る、か」

 

 イシスで修行してトロワは色々出来ることも増えたし力も付けた。自らの才能を活かし作り上げる道具があれば、ひょっとしてひょっとするかも知れないとは、思う。

 

「言わんとしたいことはわかる、だが願い事が残っていることもあるが……」

 

 原作では意地でもアレフガルドに勇者を止めようとしたルビスがどう出るか。

 

「いや、やはり不確定要素が入り込んでくるかもしれん現状で話してしまうのは危険だ。申し訳なくは思うが、優先すべきは神竜への挑戦だ」

 

 勝ち、願いを叶えて貰うこと。それ自体は一度目の勝利を考えれば難しくはない。

 

「壁に結んだロープはあの時のままか」

 

 だから、二度目の挑戦は半ば前回の繰り返しのようでもあった。大釜の部屋を出て梯子を登った先、未回収だったロープがそのまま垂れ下がっていたという差異はあったが、通ったルートは概ね前回同様。女戦士のみがはかいのてっきゅうを用いて肉弾戦を行った神竜との戦いも、数人がかりのメラゾーマのごり押しで勝ち。

 

「みごとだっ! これほどあっさりこの私を倒してみせるとは。いいだろう。そなたの願いを」

 

「その願いなんだが、叶えるのはもう一度出直し、再び挑戦して勝ってからで良いか?」

 

 願い事を言えと言うであろう神竜の言葉を遮って俺は尋ねた。

 

「なんと! 出直すと言うことは叶えて欲しい願いは一つでないと……これは今更だったな。思い返せばそなたは連続で挑戦出来ぬかと前のおりに問うてきた」

 

「ああ。こんな事を言い出したのにも理由はある。実は――」

 

 頷いた俺は神竜に歩み寄ると声を潜め、理由を話した。

 

「ほほう、成る程。そう言うことなら、そなたの申し出もわかる。良かろう、では次に勝った時……ただし、願いを叶える条件は厳しくさせて貰うぞ?」

 

 納得はして貰えたらしい。

 

「ああ。勿論だ」

 

 申し出を通して貰って、否やあろう筈もない。そして、最後の挑戦。

 

「皆、すまん。いや、ありがとうか……とうとうここまで来ることが出来た」

 

 浮かぶ神竜を前に、デジャヴさえ感じる景色の中、振り返らず感謝の言葉を口にし、身構える。

 

「メラゾーマっ!」

 

 前二度の様に撃ち出す火球。願いは迷いながらももう既に決めていた。

 

「「メラゾーマ!」」

 

「ぐわあっ」

 

 その葛藤と比べれば、始まった戦いの激しさなどどうと言うことはなかった。

 

「みごとだっ! 二度ならず三度までしてやられるとはな。して、二つ目の願いは『そなたの精神と肉体を元居た場所へと帰す』で良かったな?」

 

「マイ・ロード?!」

 

「ええっ?!」

 

 神竜の確認に驚きの声を上げたのは、トロワと元女戦士のみ。

 

「ああ」

 

「スー様……」

 

「スー様……行ってしまわれるのですね」

 

 肯定する俺を見るクシナタ隊の皆は、色々話したから察していたのだろう。

 

「そして、三つ目の願いも変わりはない。『二つ目の願いの意味を損ねぬ範囲内で、勇者シャルロットの望みを叶えてやって欲しい』」

 

 本当は、元バニーさんや他の俺を助けてくれた皆の願いも叶えて欲しいとは思った。だが、そんな一つの願い事を幾つにも増やすような願いを神竜が認めるとは思えなかったのだ。

 

「シャルロットが何を望むかはわからない。だが……」

 

 過酷な旅をし、役目を果たした末が家族とは二度と会えず、故郷にも戻れず異境の地で一生を過ごすなどあんまりだと俺は思った。

 

「なら、せめて望みの一つだけでも叶えてやりたかった……」

 

 シャルロットに付いて行ったなら、俺は元の世界にも戻れないし、側に居てやることぐらいしかできない。だが、こうして神竜に願えば、原作のエンディングをぶち壊すことぐらいは出来る。

 

(ルビスが、あの世界にシャルロットを縛るなら、家族を呼び寄せるとか……あちらの世界とテレパシーのようなモノで交信出来るようにするとか)

 

 シャルロットなら、きっと有効に使ってくれると思う。神竜への願い事を。

 

「……まったく、ロクでもない師匠だったな」

 

 あれほど慕ってくれて、返せるのがたったこれだけ。しかも、元バニーさんを始めとした他の人達には何も返せていない。

 

「えこひいきが過ぎるというか……すまんな、皆。結局俺は、ただ我が儘を押し通しただけだった」

 

 いちばん すきなひと の ねがい だけしか かなえず、ほか の みんな には てつだわせた だけ。

 

「……何、言ってんだい?」

 

「え?」

 

「他はどうだか知らないけどね、元々あんたにゃ借りがあったんだ。あたいに不満なんてないよ!」

 

「そうそう、スー様。私達だって、ようやくスー様への恩返しが出来たと思ってるんです」

 

「みんな……」

 

 みんな、とんだお人好しだ。

 

「マイ・ロード……」

 

「トロワ」

 

「すぐは無理そうなので、少々時間を下さい。私の技術を尽くして、必ずマイ・ロードのお側に参りますから――」

 

 いや、トロワが本気を出したら冗談抜きで元の世界まで追いかけて来かねないと言うか。

 

「……そうか」

 

 顔がひきつらないよう必死にポーカーフェイスを作り、それだけ言うと、俺はトロワ以外の皆を見る。

 

「これで、お別れだな……ありがとう、そしてさようなら」

 

 元の世界に戻れるというのに、何処か気持ちは晴れない。

 

「別れは済んだな? では、ゆくぞ!」

 

 最後に知覚したのは神竜の声。

 

「わぁっ」

 

 ルーラに似た浮遊間を感じたのは、一瞬のこと。同時に視界が薄れ。

 

「っ……あ、ここは……」

 

 気づけば見慣れた自分の部屋、だった。

 




いやー、かなり端折ったって言うのに二話分以上のボリュームになるとか。

ともあれ、神竜への願いで主人公は無事、元の世界に戻ったのでした。

二つの願い事を同時に叶えて貰ったのは、ぶっちゃけシャルロット対策。

「みんなと会いたい」とかそんな願い事で主人公がアレフガルドに連れてこられたら、三度目の挑戦が出来なくて詰みますので。

先に元の世界に戻ったあと、シャルロットの願いでアレフガルドに呼び戻されるパターンでも詰みますね。

だから、仕方がなかったのです。

ですが、神竜に願ったことはもう一つ残されていました。

最後の願い事を託された主人公の愛弟子、勇者シャルロット。

譲られた望みを叶えて貰える権利をどう使うのか。

次回、エピローグ。

いよいよ、物語の幕は閉じる――。

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