強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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エピローグ

「なん……だこれ?」

 

 気がつけば俺は見知らぬ場所にいた。

 

(いや、見知らぬ場所って言うか……)

 

 なんとなく感じるデジャヴ。中世のヨーロッパにタイムスリップでもしたのかと言わんがばかりの格好で道を往く人々と前だけでなく、右を見ても左を見ても続くファンタジックな町並み。

 

(何で? 俺は確かに神竜に願いを叶えて貰って、元の世界に帰った筈。浮遊間を感じたのも、視界が薄れたのも覚えてる……まさか、原作みたいに時間が巻き戻った?)

 

 いや、そんな事など有るはずがない。目の前に広がる町並みには見覚えがなかったし、歩いている人の話の中にとある単語があったのだ、ラダトームと。

 

(つまり、ここはアレフガルドである可能性が高い訳で……)

 

 見上げた空は明るい。となるとゾーマは間違いなく倒された後だろう。

 

「おち、落ち着け……」

 

 一瞬、シャルロットが願い事で俺を呼んだのかとも思ったが、それはない。

 

(じゃあ何だ? 願い事をする時に神竜が肉体を送る世界と精神を送る世界を間違えたとか?)

 

 まだこちらの方がありそうな気もするが、そんなミスを神竜がするだろうか。

 

「シャルロット様ぁ~、勇者シャルロット様ぁ~どちらにおわしますかぁ~」

 

「へ」

 

 疑問の答えは、大声で聞き覚えのある名前を呼び、つつキョロキョロ周囲を見回しつつ駆けてくるメイド服姿のお姉さんによってもたらされた。

 

(や、もたらされたって言うか……確定したというか)

 

 ここはやはりアレフガルドだ。しかもシャルロットが大魔王ゾーマを倒した後の。

 

「い、一体何が……」

 

 何がどうしてこんな事になったのか。訳がわからず、戸惑っていたからだろうか。

 

「……お師匠様」

 

「な」

 

 声をかけられるまで、後ろにいたその人に気づかなかった。

 

(いや、気配があることには気づいては居た。だけど……)

 

 見かけた他の人と同じでただの町の人だと思っていたんだ、こんなに都合良く逢えるなんて思わなかったから。

 

「シャル」

 

「お師匠様ぁぁぁぁぁ」

 

「ぐっ」

 

 最後まで名を口にすることさえ能わない。不覚だった。もしくは、ゾーマすら倒した勇者の実力が高いのか。振り返りきる前に身体ごとぶつかってきたその人に、俺は抱きしめられ。

 

「おし……あ、逢いたかったんでつよ……ぼぐ、ぼぐぅ……」

 

 ひしっと強く腕の中に俺を捕まえたシャルロットの声は、顔を上げる前に涙声に変わっていた。

 

「すまん」

 

 元の世界に戻ることを選んだ俺としては、まず謝るしかなく。

 

「おじじょうざまぁぁぁ」

 

「シャルロット……あ」

 

 胸の中で泣きじゃくるシャルロットの頭を撫で、顔を上げたところで立ちつくすメイドさんと目があった。もちろん、さっきシャルロットを探していた様子の人だ。

 

「……ええと、弟子を暫く借りて良いか?」

 

 言外に何か大切な用事でもあったのですかと問うたつもりでもあったが、俺の言葉で再起動したメイドさんは何度も縦に首を振ると、踵を返し、走り去ってしまった。

 

「……あれは、OKと言うことで良いのだよな?」

 

 ここは、推定ラダトームの城下町にある通りの一本だ。さっき、何人も町人を目撃しているし、まだすんすんと鼻を鳴らしている弟子(シャルロット)を抱きつかせたままなこの光景が目撃されたらめんどくさいことになる。

 

(うん、もう既にメイドさんに見られてるけどね)

 

 出来ればあれで最後にしたい。

 

「移動するぞ、シャルロット」

 

「……はい」

 

 弱々しい声だったが、返事が返ってきたのを確認すると、俺は自分に巻き付いているシャルロットの腕が解かれるのを待ち、片方の手を取る。

 

「そこの店の裏手で良いか」

 

 話をするだけなら、通りから離れて物影に行くだけで大丈夫だろう。

 

(まずは状況を把握しないとな)

 

 不可解な点が多すぎるが、だからこそ情報を集めなければどうするかが決められない。

 

「……ふむ。アレフガルドがこんなに明るいと言うことは……やはりゾーマを倒したんだな」

 

 建物の陰間で移動すると空を仰いで呟いたのは、一つ目の前提を確認する言葉。

 

「はい。ゾーマは油断ならない相手でしたけど……お父さんやもう一人の勇者……クシナタさんと協力して、なんとか。あのバラモスと同じ姿の、多分同じ種族の魔物だったのかな……殆どがバラモスよりは弱かったんですけど、十や二十じゃきかない数が襲ってきて……」

 

「ちょっ、十や二十じゃ効かない数?」

 

 とんでもないバタフライ効果が起きていたと言うべきか。おそらくはこちらが複数パーティーだったことと、ゾンビ化というか骨の魔物になったバラモスを俺が倒したことでゾーマが戦力の補強をはかったのだろうが、難易度が跳ね上がりすぎだと思う。

 

「ボク達も勝てるのかって思いもしたんですけど、クシナタさんのお仲間が、マホカンタって反射呪文を唱えて、それを見たミリーやアランさんがフバーハやスクルトで補助してくれたんです。その結果、呪文が跳ね返ってくる事を恐れて、バラモスと似た魔物は呪文を殆ど使ってこなくなりましたし、クシナタさん達はミリー達が一つの呪文を唱える間に、二度は補助呪文をかけてくれましたから」

 

 いてつくはどうを持たないバラモス一族は、最終的にシャルロットとクシナタさんの一ターン二回ギガデインを始めとした範囲攻撃呪文などで屠られ、全滅したのだとか。

 

「最初にボク達がこれは勝てないんじゃないかって顔をしたのが良かったんだと思います。補助呪文で形勢が逆転した後、ゾーマがバラモスそっくりの魔物達を加勢しようとしたんですけど、その時にはもう殆ど魔物達は倒してましたし、『ひかりのたま』を急いで使ったら、残った魔物にトドメを刺す為に唱えたギガデインにも巻き込まれていましたし……」

 

「まぁ、それだけ戦力を揃えた上でお前達の態度を見たなら……な」

 

 バラモス一族だけで何とかなると思ったのを慢心したと見なすのは俺にも無理だった。

 

(おそらく、そのバラモス一族って強くてゾーマ前哨戦で出てきたのと同じぐらいの強さだろうからなぁ)

 

 ギガデイン四発もぶちかまされれば原作なら1200近いダメージになる。

 

(そこにモシャスを組み合わせれば……うん、二回行動可能なの前提だけど、変身した後一発撃てるね)

 

 雑魚どころかゾーマの前哨戦メンバーすら耐え切れそうにない雷が敵全体を薙ぎ払うのか。

 

(おそるべし、ギガデイン……)

 

 誤算によって揃えた戦力を失ったゾーマがどうなったかなど考えるまでもない。

 

「……話はよくわかった。ではもう一つ聞くが、アンの夫は生き返ったか?」

 

「はい、お師匠様。この間、カトルくん……お子さんをつれて会いに来てくれて……」

 

「そうか」

 

 あの願いで少なくともアークマージであるおばちゃんの協力に報いることは出来たらしい。

 

「ならば、神竜に挑んだ甲斐はあったな……」

 

 ただ、シャルロットが最後の願い事の結果、何を望んだかはまだ聞けていない訳だが。

 

「お師匠様……」

 

 シャルロットが不意に俺を呼ぶ。願い事への疑問で無意識に見てしまい、気づかれたのか、それとも。

 

「駄目じゃないですか、勝手にいなくなっちゃ……」

 

 くるりとこちらに背を向け、シャルロットはまだ握ったままだった俺の手を解き、手首を捕まえると、自分のお尻に俺の手を押し当てた。

 

「な」

 

「前に、言いましたよね……『ボクのお尻も守ってくださいっ』って」

 

 突然の奇行にそれ以上言葉が出ない俺へ、手首を話さず言った、

 

「ですから、ちゃんと守ってください。お師匠様以外がこういう事を出来ない様に――」

 

「うぇ? な、ちょっと待て、シャルロット! そう言うことをするのは俺も拙いというか、その」

 

 何だ、何を言えばいい。

 

(と言うか、シャルロットがいつの間にかまたせくしーぎゃるになってるんですけどぉ?!)

 

 手首を捕まえているだけではなく、掌でぐいぐい押しつけてくるのはいろんな意味で拙く。

 

「拙くありませんよ。守ってくださる限り、お尻だけじゃなく、身体も、心も……みんな、みんな、お師匠様のモノですから」

 

「は?」

 

 なんだかとんでもないことを言われた、気がした。気がしたが、脳が言語を理解出来ず。

 

「え? わかりませんか? だったら、言い換えます」

 

 言い換える前にこの強制痴漢状態を何とかしてくださいと言うより早く。

 

「ぼ、ボクをお師匠様の……お、お嫁さんにしてください!」

 

「な、な……えっ、え?」

 

 き が ついたら、おれ は ぷろぽーず されていた。

 

(って、呆けてる場合か、俺! 幾らプロポーズされたって――)

 

 応えられる訳がない。

 

「わかった、結婚しよう」

 

 そう思った矢先、聞こえてきた声が一つ、それは紛れもなく俺の声で。

 

「ご主人様ぁぁぁっ」

 

「ちょ、お」

 

 振り返った先、感極まった様子の元バニーさんに押し倒されるのは、明らかに俺。と言うか、俺の姿をした俺以外の誰か。

 

「あ、ミリー」

 

「しゃ、シャル」

 

 ワンテンポ遅れて女の子二人もシャルロット、元バニーさんの順で互いに気づいたようだが、俺からすれば更に意味が不明であり。

 

「「これはいったい……」」

 

 俺と俺の声が重なったのは、無理からぬ事。

 

「「シャルロット?」」

 

「ご、ごめんなさい、お師匠様。実は……」

 

 二人分の視線を受けたシャルロットは、申し訳なさそうに顔を曇らせつつ話し始めた。曰く、俺が神竜にシャルロットの望みを叶えて欲しいと言ったことで、神竜はシャルロットへテレパシーのようなモノで連絡を取り、幾つかの事情を説明し、俺を呼ぶことは出来ないがそれ以外なら願いを叶えるが、何か叶えて欲しい願い事はないかと尋ねたらしい。

 

「それで、ボク……ミリーとかトロワさんとかみんなの望みが叶ったらいいってお願いしたんです」

 

 だが、神竜はその願いは叶えられないと言った。

 

「ボクが心から願ってる願い事じゃないし、願い事を複数に増やすようなモノだから無理だって……」

 

 そうして、願い事を拒絶した神竜は、シャルロットと声を使わない会話を続けつつ、ちょっぴりシャルロットの心も読んで、とある提案をしたのだとか。

 

「「『俺を複製し、異性として慕う者達の元に送る』ぅぅぅ?!」」

 

 なんぞ、それ。

 

「「と言うことは、俺は……複製体なのか?」」

 

「はい……『身体も借り物ではなく私が作ったもの。これなら、お師匠様側にあるそなた達と一緒になれない理由も消滅する』って言われて、ボクが答えに迷ってる内に……」

 

「「願い事を叶えられ、こうなった……というわけか」」

 

 これ、ひょっとするとトロワの所にも複製の俺がお届けされてるんだろうか。

 

「「お の れ し ん りゅ う!」」

 

 声がハモったのは、多分同一存在のコピーだからじゃ無いと思う。

 

(純真なシャルロットを誘導して望んだ訳でもない願い事を実現させるとか)

 

 シャルロットが俺を望んでくれたことは驚きではあるモノの嬉しいが、複雑だ。

 

「シャルロットは良いのか、複製である俺で? 自分のオリジナルだからわかる。責任とれないとかそんな理由から誤魔化そうとしていたモノの、あいつはシャルロットに好意を抱いていた。複製を作り出してしまった責任を感じてとかそう言う理由でのプロポーズだったなら――」

 

 さっきのはなかったことにしても良いと俺は言い。

 

「いえ、良いんです。元の世界に戻ることを選んだお師匠様の重荷にボクはなりたくありませんし……」

 

「そうか」

 

 意見を取り下げないシャルロットにいくらかの諦念を含んだ声で俺はポツリと漏らし。

 

「スー様、新婚旅行はマイラ温泉がいいな」

 

「温泉か、そうだな」

 

「スー様、今日は宿も一杯のようでありまするな」

 

「まぁ、あれだけ俺が増殖すればな……」

 

 二組の男女がやって来たのは、その直後。

 

「「え゛」」

 

 新たに現れたお仲間二人とクシナタさん、それにクシナタ隊のお姉さんを見た俺は、元バニーさんと仲良くしていた複製Bと一緒にその場で固まったのだった。

 

 

 -完-




と言う訳で、ハーレムエンドならぬ、まさかの分配エンド。

主人公を慕う女の子全員とくっつきながらハーレムでないという結末となります。

シャルロットと結ばれるルートがお好みの場合は、複製分配の部分がないバージョンを想像して頂ければいいかな。

いや~、「お尻を守って」発言の伏線、ようやく回収出来ました。

ちなみに、この主人公を増やしてヒロインがあぶれないようにする結末は書き始めた頃から考えてたものでした。

誰か一人とくっつけると他のカップリング支持者から非難がでる可能性がありますが、これなら大丈夫ですよね?

ちなみに、コピーさんたちの自分が一番好きな相手部分は作られた時に配布される相手が好きであるように調整されております。(未出の設定)

また、トロワが配布を断り、独力で主人公の居る世界へ行き結ばれるトロワエンドも構想はしておりました。(書くかは未定、書かなければオリジナルの主人公は結局独り身)



と、色々書きましたが……ここまでお付き合い頂きました皆様、どうもありがとうございました。

また、何か機会がありましたら別の作品でお会いいたしましょう。

本当にありがとうございました~。





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