トロワルート、はっじまっるよー?
「はぁ……これも駄目ですね」
私は嘆息と共に元の形がわからない程潰れて何かの塊となったそれを脇に避けた。
「世界を繋げる……ゾーマ様の御業ですし、それ程簡単なモノではないと覚悟はしていましたが」
嘆息する私の前にあるのは、がらくたの山。全てが世界を繋ぐもしくは世界を渡る事を目的とした道具や補助具の失敗作だ。
「光の中に魔物を消し去るニフラムの呪文、相手を何処かに飛ばすバシルーラ、そして空を飛び目的地へ移動するルーラ……参考になりそうな呪文はあらかた試しましたけれど」
結果はわざわざ口にするまでもない。
「すぐは無理そうなので、少々時間を下さい。私の技術を尽くして、必ずマイ・ロードのお側に参りますから――」
あの日、マイ・ロードへ私が告げた後、かのお方は自分の世界へと還られた。
「すぐには無理、マイ・ロードにはそう申し上げましたが……」
あまりお待たせしたくはないというのに、結果は芳しくなかった。
「となると、ここは神竜の元に向かうべきかも知れませんね」
もちろん、それは勇者シャルロットの望みだという触れ込みで神竜が持ちかけてきた話のことではない。あの話は即座に断った。マイロードを複製などというのがまず不遜だが、私はマイ・ロードを自分の者にしたいのではなく、あの方にお仕えしたいのだ。
(幾らマイ・ロードの写し身であろうと、その方は私が忠誠を誓った方ではないのだから)
方針に変更はない。
「マイ・ロードのいらっしゃる世界がどこにあるかを知るのは、今となっては神竜のみ。この髪の毛もマイロードではなく、マイ・ロードが借りられていた身体の持ち主のものだそうですし……」
いくら私でも、どこにあるかも分からない目的の世界を特定し、ゾーマ様の術を再現し「そこ」と「こちら」を繋ぐのは無理があった。
「それに、首尾良くマイ・ロードの世界に渡れたとしても、私にはあちらの知識がまるでない。アレフガルドとこの世界でさえ文化的にも色々と差異がありますし……」
そもそも私は人間ではなく、人間から見ればモンスターなのだ。もし、あちらが少し前のこの世界のように人と魔の争う世界なら、人間の敵として攻撃されることだって考えられるのだ。
「そもそも、世界は広いもの。『渡ったは良いものの、マイ・ロードのいらっしゃる国とは別の国だった』と言うことだってあるかも知れません」
マイ・ロードの元へ行けるなら労苦は惜しまないつもりではあるものの、何の手だてもせずにただ世界を渡ることだけを考える訳にもいかない。
「問題は、マイ・ロードと共に神竜に挑んだ私には願い事を叶えて貰う権利がもう存在しないことですが……」
その一点で迷っていることがある。
「カトル……」
呟いたのは、今のところ唯一の成功例である世界間物品転送装置で届いた手紙の主、弟の名。お守りにしていたママンの体毛を媒介にすることで転送先を特定個人とし、もう一組の送受信機を転送したところ、ママンからの手紙と一緒に弟の手紙も届いたのだ。弟は今、ママンと一緒に暮らしているらしい。羨ましい。
「って、そうじゃありません……あの子、人が移動出来る装置を作って、こっちに来て神竜に挑むだなんて……」
弟は私の為に神竜へ挑み、願い事の権利を私に譲渡するつもりらしい。
(マイ・ロードのなされたことに触発されたのかは定かで……いや、多分そうでしょうね。プライドは高い子でしたし)
やると言い出したからにはきっとやるのだろう。そして、その時私に出来るのは、修行の為の施設を案内することやルーラで中継点まで送ることぐらい。
「それから、場合によってはパーティーメンバーや装備の手配もしないといけないかもしれませんね」
まぁ、装備についてはマイ・ロードが神竜に挑んだ時のメンバーから借りるぐらいしかできないけれど。
(むしろ装備だけならアレフガルドの方が充実してるはずですし……そうだ、あちらの装備を取り寄せて貰って改造すれば、今より高品質の防具が出来るのでは――)
血を分けた弟の着るものだ。私のお下がりでも良い気はするが、願いを譲ると言うところでマイ・ロードに張り合おうとした弟のこと。最終的にマイ・ロードと同じ盗賊になることも充分考えられる。
「マイ・ロードが、やみのころもを残していってくださって良かった……」
あれと私の着ていたドラゴンローブがあれば、きっと何とかなると思う。
(世界を渡る道具の開発ばかりでは肩がこりますし、たまには気分転換も必要ですよね)
まずは、広がって伸びてしまったドラゴンローブの胸回りを何とかしよう。
「それから、武器は隼の剣が良いとマイ・ロードは言っておられましたね……」
モシャスの呪文で最も破壊力の高い攻撃を繰り出せる者の攻撃力を写し取り、隼の剣の力を借りることで手数を倍に増やす。マイ・ロードの様に人より早く動ければ、尚効果は増すのだろうが。
「興味深い武器ですし、送ってくれるよう伝えておきましょうか」
ポツリと呟くと、私は手紙を書く為にペンを取ったのだった。
なんだかんだで、非生物をアレフガルドとやりとりするだけの装置はさくっと作ってたという変態的天才っぷり。
ですが、流石に主人公の世界に行く手段確保は厳しかったようで、試行錯誤中の様子。
ちなみに、シャルロットルートは、シャルロットがコピーを貰わず、カトルと一緒に神竜へ挑み、願い事を叶えてもらって主人公の世界へと言う感じのお話になります。(構想はしてるけど、書けるかは未定。ので確約はしませぬ)
元バニーさんやクシナタさんはシャルロットと同じパターンで主人公の世界に行くのと、妥協して複製主人公とくっつくパターンが考えられますが、書くかどうかが未定なのはこっちも同じ。
と言う訳で、「番外編T2」に続くかも知れませぬ。