「まさか、あなたに先を越されるとは――」
隼の剣を受け取った数日後、突然現れた弟に私は驚きを隠せなかった。
「そうは言いますが、原理の大半は姉上の転送装置を借りたモノです。少々手を加えて上手くいったことを自分の功として誇る気など有りません」
「いえ、その少々手を加えるところを私は思いつかなかったのだから、そこは誇るべき所ですよカトル」
これでマイ・ロードの所へ行ける日が一歩も二歩も近づいたのだ。他に人が居なければ手放しで褒めていたと思う。
「そうだぞ、カトル。そもそもこの発明のことだけでもない。勇者シャルロットとの戦いの時だって、見事に裏をかいて見せたじゃないか。まぁ、あの時はあちらに義母う……母君が居られた事がわかって休戦、お前の策は結果を見ずして終わったが、あれとて――」
「いや。一軒上手くいっていたように見えたが、あのまま戦いになっていれば別働隊も本隊も各個撃破されていたはずだ。俺は、勇者とその仲間達の実力を低く見積もりすぎていた。本気で勝つつもりなら数倍以上の物量で押し潰すか、補助呪文をかき消すゾーマ様のいてつくはどうの様なものの使い手を用意する必要があった。戦いは数だ。呪文を反射させるか封じられることを許さず、ひたすらに数を打ち込めるなら、初歩呪文でさえ耐性を持つもの以外なら倒せる」
「カトル……」
頭を振って弟の口にした言葉は道理ではある、芥のような小さなモノでも積み重なれば山になるのだ。だが、重要なのはそこではなく。
「その話、私は初めて聞くのですけれど……まさか、一歩間違えばママンに危害を加えるかも知れなかった、などという事では当然無かったのですよね?」
「あ」
「なっ、い、いえ姉上……その」
弟の同行者がしまったと言うような顔をしたこと、そしてカトル自身も挙動不審になったところを見ると、どうやら嫌な方がアタリらしい。
「カトル、はぐれメタル風呂と言うモノを知っていますか?」
もうすぐ家族になるであろう弟の横の人には申し訳ないが、ママンを危険に曝したとなれば私の中では明らかな有罪だった。
「あ、姉上、申し訳な」
「謝ることはありませんよ、カトル。神竜に挑むのでしょう? 少しばかりハードなトレーニングをして貰おうかなと思っただけなのですから」
せめてもの慈悲に、ホイミスライムを混ぜてやるべきかも知れない。修行は一朝一夕では終わらないだろうし、その間にアレフガルドに渡ってママン達に会ってくるのも良いか。
「マイ・ロードの元に赴いたとして、その後のことはわからないのだから――」
「あ、姉上?」
「何でもありません。では、ロゼさん。カトルは借りて行きますね?」
会いに行くなら弟の監督は修行仲間に頼もう。普通に考えるなら、イシスにあるはぐれメタル風呂を知り尽くした人物にお願いしたいところだが、かの人は複製されたマイ・ロードと結婚し、仲睦まじく暮らしていると聞いた。流石に、そんなところへ空気も読まずお伺いして愚弟のお仕置きに付き合もとい、修行のコーチをしてくれとは言い難かった。
「そもそも、多いのですよね……」
複製されたマイ・ロードを伴侶に選んだ知り合いは。神竜に挑んだ時の仲間もだが、ゾーマ様を倒した勇者の内、女性二人もそうだった。ひょっとしたら既に懐妊している者すら居るかも知れない。
「となると、消去法で頼れる相手はあの方だけですか」
名をヘイル。マイ・ロードと同じ名と顔を持つ人間。同時期にマイ・ロードが連れてこられたルシアという娘と最近は仲良くしているようだが、何か思うところあったのか、今もイシスで後輩の指導に当たっているとも聞いている。マイ・ロードとそっくり同じ顔だから頼みにくいという点を除けば、これ以上の適任は居なかった、弟と同性で間違いが起きようのないと言う意味でも。
「それはそれとして、お世話にはなった訳ですし同じイシスに居るであろう他の方にご挨拶に伺うというのも良いですね」
新婚ほやほやであろう方々の邪魔をして馬に蹴られるつもりはない。ただ挨拶と礼をして軽く近況でも聞くに止めるつもりだ。
「まずは送り届けるのが先、挨拶回りはカトルのおし……修行中でいいですね」
「あ、姉上? 何をおっしゃっ」
私に襟首を掴まれ連行されている弟が何か言っていたが、取り合わず、呪文を紡ぐ。
「ルーラ!」
完成した呪文で私達姉弟は空に。
「あっ」
舞い上がった後、説明不足のまま置いてきてしまった人のことに気づいた。
トロワ、ぶちぎれる。
短めで済みませぬ。
次回は、挨拶と称して挨拶された側からの視点でトロワ達に訪問され、そのあとコピー主人公とイチャイチャ……って話に出来たらいいなと思ってます。
しかし、完結してようやくのんびり出来ると思ったら二日続けてEX書いてる不思議。
くっ、持病の「終わったんだから遊びたい病」がっ。
ともあれ、たぶん視点変更して続くのです。