「待ちこがれた時程来るまでが長く感じるとは思っていましたが……まさかこれ程までとは」
日数にすればおそらく二週間もかかっていないはずなのだが、この日が来るまでを私はとても長く感じた。
(一緒に行動しては弟の願いを叶えて貰える権利が消失する事も考えられると一度天界の城に送った後、ずっと連絡を待っていましたが……)
手持ちぶさたの間に作った品が私の目の前には山となっていた。
「連絡、ご苦労様でした」
私の礼の言葉に頭を振るよう円を描き転がったのは、一体のばくだんいわ。城から先に進むと梯子を昇らねばならない場所があるからと同行を諦めルーラの呪文で私に連絡するという役目を果たしてくれている訳だが、彼女が弟に協力している理由はただ一つ。
「俺は今のままでも構わないと言ったんだがな」
目の前のばくだんいわを待って、私と一緒に居られるマイ・ロードの複製こそがそれだ。
「お言葉ですが、今のままではあなたの為に料理を作ったり服を洗うこともこの方にはままならないのですよ? そして、何より……ここまで種族が違っては子供もおそらく望めません」
このばくだんいわは、神竜の提案に承諾したことをすぐに後悔したのだと出会った時に語ってくれた。マイ・ロードと別れ、ずっと逢えなかったからこそ思いが募り、殆ど何も考えず申し出を受けてしまったものの、一緒に暮らすようになり、自分と人間に出来ることの差を思い知らされたと。
「このままではあなたの人生を無駄に使わせてしまう」
と一時は思い、自分から姿を消す事も考えたが出来なかったともばくだんいわは言った。当然だ、複製とは言えマイ・ロードなのだ。身体能力は高く、知覚力に優れ、多彩な呪文を使う。目を離した隙に逃れようにも気配を読まれたら一瞬で所在を知られてしまうし、転職して覚えたルーラの呪文以外何より転がるという移動手段しか持たない彼女では転がった跡をたどられてすぐ確保されてしまうだろう。なら、ルーラの呪文はどうかと言えば、これも駄目だ。ばくだんいわが町の入り口に飛んでくるようなことがあれば騒ぎになる。そして、このばくだんいわが一度でも行ったことのある場所はダーマとイシス、そして竜の女王の城とあの天界の城だけなのだ。
「そもそも、今更そのことを口にしても始まりませんよ。私の見立てでは、弟達は神竜に願いを叶えて貰える強さを既に持っていますから」
だから、愛しい人の為、人間になりたいと願い、弟のパーティーに入る事を希望した魔物達はきっと人間になれる。
「ただ、私の願い事を一番最初にして頂いていると言うところは、申し訳なく感じます……行きと帰りと行きで次の願い事が叶えられるのは、最低でも三日後になってしまいますし」
世話になったのだ、このばくだんいわがどんな人間の少女になるのか見てみたい気もする、そしてせめておめでとうと祝福してやるべきなのではないだろうか。
(神竜にマイ・ロードのいらっしゃる世界の位置を聞き出したとして、基点が判るなら転移装置の調整に二日もかからないはず)
もちろん、旅立ちを遅らせればいいだけの話ではある。だが、それを私は我慢出来るだろうか。
「大切な方の為願いを叶えて欲しいと言うだけなら、私達に違いはないはず」
良いのですかともう一度問うと、ばくだんいわは頷くように前へ傾いだ。
「わかりました。ならば、私から言うことはありません。『ありがとう』と『行って参ります』以外の言葉は」
この日を待ち望んだ私にぬかりはない。準備は既に出来ている。弟の作った転移装置を元に、小型化させ携帯可能にしたモノが一つ。変身呪文と変化の杖というアイテムの効果を参考に作った姿を変えることの出来る耳飾り、気配を希薄にし魔物に気づかれにくくするブローチ。売れば当面の路銀になりそうな装飾品、宝石が幾つかとアイテム作成の為の道具及び材料。
「そして、忘れてはいけないのがママンとマイ・ロードから頂いたもの」
現地でそのままマイ・ロードの世界へ行くことはないだろうが、願いごとが叶えられず、かわりにマイ・ロードの複製が配布されることになった勇者シャルロットと願い事の一件が既にある。何らかの事情で急遽あちらに行かねばならないとなった時、路頭に迷うような目には遭いたくない。
「ふぅ、問題なさそうですね」
「俺としては最後の部分でツッコミをいれたくなったが、まぁ、お前はトロワだからな……」
「ええ、私は私ですから」
二人に微笑み、呪文を唱え始めた呪文は移動呪文。
「ルーラ!」
完成すれば私の身体は空高く舞い上がり、天界の城へと飛んで行く。
「塔の構造は覚えてますし、戦いはブローチで避けていけば――」
単独での制覇も可能だろう。弟には願いを叶える前に私も神竜に話したいことがある旨を伝えてある、城の方で二日宿泊し、私を持ってくれている筈。
(カトルのパーティーが先行すれば魔物の注意も分散されるでしょうし)
マイ・ロードの使った近道の事も話してある。弟のパーティーには空を泳ぐことの出来るスノードラゴンが居たので、塔を守る魔物があのロープを処分していたとしても再びロープを設置することは可能だろう。
「カトル? ああ、そう名乗っていた方なら少し前に出発していかれましたよ」
そして天界の城にたどり着いた私が階段の側の兵士に聞けば返ってきたのは想定内の答え。
「そうですか、ありがとうございます」
礼を言って階段を下りると、煮えたぎる釜とその前にいる老人の脇を素通りして部屋の外に出る。
「……これは」
視界に飛び込んできたのは風に揺れるロープと先端に結ばれた羊皮紙らしきモノ。
「カトル……」
引き抜き解けば、弟の名と短い文、それはロープを登ればあの日と同じ所に所にたどり着けると言う意味合いの内容だった
と言う訳で、今回はばくだんいわ(♀)さんの登場。
尚、同じように人型以外の魔物で主人公のコピーを貰った者は他にも居る模様。