「はぁ……」
休日が終わり、またいつもの日々が始まる。当たり前の事の筈なのに今の俺にはとても懐かしく、ようやく戻ってきた平穏な日々は喜ばしいことなのだろうが、手放しで喜べない自分が居た。
「こっちの方が良いはず何だけどなぁ」
死が身近にあり、山野を魔物が闊歩していた世界に比べればショートカットの為に抜ける小さな林は実に平和で、たまに野生で小型のほ乳類やら野鳥が出るくらいなのだ。
「……こういうところに来ると警戒しちゃうのは、やっぱあっちの影響かな」
身体が元に戻った今、木々に潜む動物の気配を感じ取ることなんて俺には出来ない。
「イオナズン! ……やっぱりな」
遊び人よろしく凶悪な爆発を巻き起こす呪文を唱えてみても、何も起き居らない。
「今なら、ベビーサタンの気持ちも少しは理解出来る……のかなぁ?」
それ以前にこんな所を誰かに目撃されていたら、爆発するのは他者から見た俺の評価だろうけれど。
「新しいあだ名はベビーサタン、もしくは遊び人、だな」
クラスメートからベビーサタン呼ばわりされる様を一瞬想像したら口元が引きつった。こっちの世界ではごく普通のモブの筈なので、そう言った面白属性なんて俺は求めていない。
「いや、むしろあっちで色々翻弄されすぎたというか……おのれ、世界の悪意め」
ちょっぴり美味しい思いもした事は認めよう。だが、それ以上にあの世界では散々振り回された。
「……筈なのに、こっちではまるで時間が経過してなかったとかなぁ」
一応、数時間ぐらいは経過していたようだが、あちらで滞在した時間と比べるべくもない。
「ちょっとしたゲームをやったとか映画を見たと思えば、休日を無駄にしたなんて感想にはならないけど……」
一番の問題はきっとこの胸のモヤモヤだろう。
「……シャルロット」
借り物の身体だったし、仕方ないとは思う。だが、本当にあれで良かったのかとも思ってしまう。
「まぁ、帰ってきてから言っても馬鹿な話なんだけどさ……それに、責任も取れないのに気持ちを打ち明けるなんて真似、出来るはずがなかったんだから……」
これで良い、これで良いのだ。原作通りなら、シャルロットも素敵な男性と結ばれて子孫を残し、竜王はおろち達が後見についてるからナンバリングで言うところの「ドラゴンクエストⅠ」が始まるかは判らないが、アレフガルドとそこを含む世界を災厄からは守ってくれるだろう。
「クシナタさんとかには原作知識教えてあるし、ハーゴン、事を起こす前に討伐されたりして……」
盛大に何も始まらず、未来のお話が消滅するかも知れないというのは、ちょっとだけいいのかなぁと思わないでもないが、シャルロットの子孫が殺され、居城が落ちる事に比べれば遙かにマシな未来だ。
「今となっては知る術だってないもんな。良い未来になってると信じることしか俺には出来ないし」
何より、あっちの事ばかり考えていては、こうして近道まで使っているというのに、学校に遅刻しかねない。
「次点で、林を抜けたら異世か……止そう、昨日の今日だ。世界の悪意が健在なら今度こそこの身で異世界トリップとかさせられかねない」
フラグなんて立てるものじゃない。やっと返ってきた平和で平穏な日常なのだ。
「って、こんな風に考えるって事は、俺も大概あっちに毒されたってことだな。学校では前みたいにやれると良いけど」
たった休日一日で同級生のキャラが激変していれば、何事ぞと思う。俺だって思う。だが、理由を聞かれても話せるような内容でないことも確かであり。
「……今日一日は苦労するかも」
本日の憂鬱が予想された朝の登校時間。
「ふぅ……速くもなく、遅くもなく、かぁ」
近道したこともあって、俺は遅刻することなく教室の戸口をくぐり、壁に掛けられた時計を見てほぅと息を漏らす。
「ん?」
その直後、ふと今日のことを思い問題が発覚した訳だが。
(ええと、提出しないと行けないモノってあったっけ? だあああっ、体感的には久々の学校だから思い出せないっ)
つーか、そもそも学校の授業内容とか、覚えていただろうか、俺。
(うわぁ……これが夏休みに宿題の存在する理由か……)
人間は悲しいまでに忘れて行く生き物と言ったのは、誰だったか。出典まで思い出せないが、うん。
「えー、皆に今日は新しいクラスメートを紹介する」
「へ?」
悶々割いている間にいつの間にか教師がやって来てホームルームが始まっていたらしい、しかも先程言ったことが確かなら、転校生が来たということになるが。
「女の子がいいなぁ」
ボソッと願望を口に出したのは、前の席の人。気持ちはわかる。
(こう、凄い可愛い子が転校してきて、何故か自分と仲良くなる何て漫画みたいな展開は絶対ないだろうけど、それでも同性より異性って思っちゃうよなぁ)
きっと、彼も俺もモてない星の元に産まれているからなのだろうが、とても共感出来た。
「では、入ってくれ」
「はい」
「おっっしゃぁぁぁ」
「ん?」
ドアの外から聞こえた声が女の子のものだったことで、起きるざわめきの中、前の席の人がいきなり立ち上がりガッツポーズをとる。だが、俺が気になったのは、そこではない。聞こえてきた声に、何処か聞き覚えがある気がして。
「失礼しま……あ、まい……ろーど」
「「まいろーど?」」
クラスメイト達が異口同音にオウム返しするが、ちょっと待とうか。
「と、とっ」
なんで とろわ が てんこうしてくるんですかねぇ。
(というか、中の人だから顔だって違うんですよ?!)
脳内で高速ツッコミをしてみるが、身体が追いついてこない。
「マイ・ロードぉぉぉっ」
惜しげもなく胸の凶悪質量兵器を揺らしながら一直線にこっちへ向かって駆けてくる、トロワ。
「トロんぶっ」
「マイロード、お待たせ致しました」
質量兵器に顔を埋められた俺は、答えなど返せるはずもなく。
「な」
「ど、ど、ど、ど、どういうことだ、これ」
おそらく突き刺さって居るであろう複数の視線と、視線の持ち主であろうクラスメート達の声。卒業までの俺のあだ名がこの日からマイ・ロードとなったのはきっと言うまでもなかった。
とろわ、やらかす。
と言う訳で、以上をもちましてトロワルート終了でございます。
ちなみに転校手続きは神竜が一晩でやってくれた模様。
トロワの名前はそのまんま、ヨーロッパ生まれの外国人と言う設定の模様です。当然ながらボロがでないよう、出身国設定の言語や文化、社会情勢、風習などを神竜にたたき込まれてからこっちにきたそうです。
また、尖り耳は姿を変えるアイテムで誤魔化してる風味。ただ、それならなぜきょうぶそうこうもちょうせいしなかったし。
ちなみに、このルートでは完璧超人で美人で胸部がおばけなトロワがずっとくっついてくるので主人公に女の子と恋愛的な出会いの機会などやって来るはずもなく、最終的にトロワと結婚するのではないかと思われます。
尚、主人公の歳、名前、学年が出てこないのは、某RPGを見て「主人公の名前はあなたの名前を入れて下さいね」とか最後にやらかそうと思っていたからだったり。
時々サラマンダーよりずっと早いしてたのは、逆説的にその伏線だったりします。
ともあれ、これでEXを含むメインストーリーはようやく完結ということになりました。
感慨もひとしお、とかそーゆーのは本編完結でやった気がしますので、闇谷からは一つ。
また、どこかでお会いしましょう、と。
では、ご愛読ありがとうございました~。