「この娘は?」
思わず質問していた俺に返ってきたのはミリー様、つまり母の親友のお嬢さんであるという返答だった。
「やっぱり……どことなく面影有るもんね。髪の色はミリー譲りだし」
「確かにな。それで、この絵と俺達に協力して欲しいという話の関係は?」
顔をほころばせ頷く母の横で発した父の問いは俺も尋ねたかったことでもある。
「そうですね、俺の顔も見ていらしたようですが?」
「はい、失礼しました。実は、このお嬢さん、ミルザさんと仰るのですが、ミルザさんに望まぬ結婚の話が持ち上がっておりまして……」
「「結婚?」」
「はい」
トロワさんは現状を打開出来るのが、母さんの息子しか居ないのだと続けて言う。
「それで俺に……」
「申し訳ありません。マイ・ロードのお子様であられるのに急いてしまい」
「いえ、それよりももう少し詳しくお話して貰えますか? 母の息子で無ければ駄目という辺りとかも」
頭を下げるトロワさんだったが、ぶっちゃけ俺はそんなこと気にならなかった。と言うか、もっとこのミルザさんのことを早く詳しく知りたかったというのもある。
「わかりました……実は、ミルザさんの結婚相手とされているのが、ラダトームの王族でして」
「お、王族?」
「はい。相手が王族の結婚話だからこそ、無かった事にするには別の結婚相手、それも王族に匹敵する格のお相手が必要なのです」
「そっか、だからアルに」
「ご明察、恐れ入ります」
ちらりと俺を見た母さんにトロワさんは頷き。
「まぁ、望まぬ結婚を破棄させるのにシャルの子というネームバリューが必要なのはわからないでもない。他ならぬミリーの娘の話なら俺達も協力したいとは思うが……」
「うん、ボクも力は貸したいし、ミリーの娘さんとボク達の子供が一緒になるって言うのはとっても素敵なことだけど……」
顔を見合わせた父と母は、二人揃って言葉を続ける。幾つか問題があると。
「一応、こいつは俺達の息子だが、勇者の息子としての修行だとかそう言うことは一切させてない。勇者の子である事を証明しろとか言いがかりを付けられて模擬戦だとか決闘だとかそう言う話になったら、まず勝てる見込みは無いぞ、
「ちょっ、父さん、何その不穏なコース?! って、決闘かぁ」
いきなりダメ出しと同時に不安しか感じない謎の単語が飛び出してきて声を上げたが、言われてみると前提条件になってる話は十分ありそうだと俺も思った。ライトノベルとかによくあるお約束要素だし、剣と魔法の世界なら、そういう事があってもおかしくないと思ってるからこそそっちの経験者である父も言い出したのだろう。
「実はな、お前達がもしアレフガルドに行くつもりなら、戦いの手ほどきをするつもりはあった」
「こっちは魔物も居ないし、義父さんとか義母さんの前で荒っぽいことをするのはちょっと気が引けたから、アレフガルドのことを話して、あっちに行きたいって言い出してからで良いかなとも思ってたんだけど……ごめんね、アル。こういう事になるなら、こう、ギガデインぐらいは両手で同時に放てるぐ」
「ちょっ、母さん?!」
りょうて で ぎがでいん って げんさく の ゆうしゃ より あきらか に つよい じゃないですか、やだー。
「まぁ、一ターン二回行動の伝授はモシャスを使えないと厳しいからな。それこそ、ここにいるトロワの協力を仰がないと机上の空論だったろうが……」
顔をひきつらせる俺を置き去りにして父まで何だかすっごい発言し始めたんですが、何ですかね、これ、本当に。
「あっ、そっか。けど、アル大丈夫かなぁ? これぐらいの年頃の男の子って、トロワさんみたいな年上の女性に自分そっくりになられても大丈夫なのかな?」
「はい?」
「技術の伝授は、見取り稽古だからな。まず、モシャスで伝授対象者に変身し、その身体で一ターン二回行動を行う所を何度も見せ、これを見よう見まねで繰り返させることで習得させるというのが伝授の内容だ。俺にとっては黒歴史以外のなにものでもなかったがな……」
「裸とか下着姿でお手本だったもんね、ボクは教えて貰ったのがお師匠様だから問題なかったけど」
何処か遠い目をした父と苦笑する母。
「ごめんなさい、猛烈に嫌な予感しかしないんですけど?」
「簡単に言うと、だ、この技術を確立した俺は仲間達に教えるため何十人もの女性に変身し、裸や下着姿で演武させられた」
「うわぁ」
「女性下着の着方も覚えてしまったが、覚えなければ着せ替え人形にされ続けたからな……あのイシスの夜を夢に見て魘されることはなくなって久しいが……」
「ごめん、父さん」
母さんの惚気話兼昔話を聞いてハーレムパーティーでうはうは何じゃないかって疑ってたことを恥じ入る。何て苦行をやってたんだろう、この人は。うん、こんな所でカミングアウトしなくても良いんじゃないかとも思ったけど。
「あれ? そんな打ち明け話をしたってことは――」
「ああ、見たところミリーの娘が気に入ったのだろう? なら、決闘を挑まれても勝てる様にはなっておかねばな……トロワ、伝授の方は頼めるか?」
「承知しました」
抗議の声を上げる間もない。トロワさんはもう話を振られることをわかっていたのだろう、俺の手を取り。
「ちょっと待って!」
だから、制止の声を上げたのは俺でなく、母だった。
「どうした、シャルロット?」
「お師匠様、アルの特訓にはボクも文句はないけど――」
いや、そこは文句を言って下さい母さん。
「ミルザさんの気持ちの方はどうなの? ボクはアルのことを悪く言う気は無いけど、ミルザさんにとってウチの子はまだ名前も顔を知らない相手だよね?」
「「あ」」
「ちょっ、何その『今気づきました』って顔?!」
ぽかんとした二人に俺が叫んだのは仕方ない事だと思うんだ。人物画の容姿に心奪われ舞い上がって、俺も母さんに言われるまで完全に失念してたんだけどさ。
「大丈夫です、ご心配には及びません。ミリー様の旦那様はお二人ともご存じのあの方ですし、マイ・ロードのお子様なら――」
「……なるほど、な。まぁ、後はこいつの努力次第と言うことか」
「はい」
「や、何だか知らないところで通じ合ってて俺置いてきぼりなんですけど?!」
ミリー様の旦那様って何なんだ。
(俺とどう関係があるの?!)
聞いてみたかったが、聞いたら聞いたで後悔しそうな気がして心の中で叫ぶ。
「では、マイロード」
「ああ、頼む。車庫なら人の目にも触れず、動けるだけの広さもあるはずだ。場所は息子に聞くと良い」
だから当然、俺の気持ちなんて知るはずのない父とトロワさんは話しを進めていて。
「行きましょうか、アル様。車庫はどちらに?」
「あ、廊下を玄関の方に――」
気が付けば場所を尋ねられた俺は反射的に答え。
「……すみません、俺」
技術の習得は予想以上に難しかった。ようやく会得出来たのは、モシャスの時間切れで三度程トロワさんの裸を見てしまい、土下座したあとのこと。
「いいえ、アル様でしたら夫も怒らないでしょうし」
この時の俺は、自分にモシャスされた衝撃とか、トロワさんの裸の破壊力とかで一杯一杯で、苦笑するトロワさんが漏らした言葉の意味を考える余裕なんか無かった。
アル「けど、ミルザさん……何だかディスティニーストーン集めて邪神倒しに赴きそうな名前ですね」
クリスマス特別企画も考えていたのに、気が付くと普通に続きを書いていた不思議。
次回、IF・C→A5「そしてアレフガルドへ(Chalotteルート・???視点)」