これも作者がドラゴンズド○マオンラインにはまっていたからなんだ。
「ふぁああ」
我が家の朝は早い。俺はあくびを噛み殺しつつ起床すると、枕元の時計に目を向けた。
「あー、もうこんな時間か。朝飯の支度手伝わないと」
ウチは母親の両親が居ないにもかかわらず大家族である。家族全員の食事ともなれば割と洒落にならない量になり、両親だけではままならないので俺達年長組がローテーションで手伝うことになっている。
「あ……ましてや今日はお客さんも居るんだっけ」
トロワさんという両親の知り合いで
「普通の人と同じで良いんだよな?」
種族もだが住む世界すら違う人だ、ごく一般的な日本人の朝食で良いモノかと言う疑問がどうしても最初にやって来る。
「とりあえず、和食なら納豆は問題外。世界観的に洋食の方が良いかもしれないけど、異世界情緒というかこっちならではの料理とか期待してるかも知れないし……」
トロワさんには並々ならぬお世話になったし、迷惑もかけたと思う。だからこそ、俺としては出来る限りのお礼がしたかったのだが、やれることと言えばせいぜい朝飯の用意ぐらいしかなく。
「……そもそも、出発が今日とかなぁ」
行くと決めたなら決心が鈍らない内の方が良いと母は電光石火の早さで俺の学校へ休学手続きを申請押してしまった。やむを得ず俺は、学校の友人達に母の故郷に行くので当面帰ってこられないと嘘ではないが色々ぼかしまくりつつも他国へ行くと説明し、幾つか餞別を貰って鞄にしまい込んだ。
「や、それは良いんだ。良くはないけど」
どっちだよとツッコまれるかもしれないが、もっと酷い無茶ぶりを俺はされていたのだから、許して欲しいと思う。
「あっちで味噌と醤油作れって……」
鞄に詰め込まれた初心者用の指南書に、麹菌、大豆や種籾、そして道具各種。一度旅立てば日本の味との別離も意味するため、これだけは持っていった方が良いと父に言われたのだ。
「アレフガルドに渡ったジパング人は少数、用意していかないと日本食無しの一生を送らざるを得ない、かぁ」
説明されれば尤もだ。一応トロワさんがいればこちらとアレフガルドを行き来して調味料を運んで貰うことも可能だが、トロワさんのお子さんはおそらくまだ幼い。乳飲み子を抱えた母親に使いパシリさせると言うだけでも外道の所業だし、そもそもトロワさんは俺にとって恩人であり、短い期間とはいえ技を伝授してくれた師匠でもあるのだ。
「ないな、トロワさんにこれ以上迷惑かけるとか」
ついでに言うなら、あちらでこっちの味の基礎を確立するのは単に俺が故郷の味と離別せず済ませるというだけではない。向こうにはない食材と調味料はアレフガルドに行けば商売の種として使えるのではないかと考えたこともあるのだ。
「異世界トリップとか転生ものの小説に時々あるよーな展開だけど、もう一人の勇者とその仲間達もジパング人だって言うし」
世界を救った勇者の故郷の味と言うネームバリューが有ればいけると思うのだ。
「あっちに渡ったら、有るのは母さんの息子って肩書きだけだし」
何らかの生活基盤が無くては暮らしていけない。
「って、格好いいこと言っても当面は母さんの友達の家に居候なんだろうけど」
初心者が一朝一夕でどうこう出来るなんて甘い考えは俺にもない。
「異世界に旅立つにあたって有用そうな情報はパソコンからプリントアウトしてもおいたけど……うん」
どれがどのくらい役に立つかはまだ未知数だ。ちなみに、現実重視系異世界トリップファンタジーで時々取り上げられる転移したらあっちとこっちの風土病で人がバタバタ死ぬんじゃないかという最大の問題は、母をこっちに送ったりトロワさんがこっちに来るのをサポートした神竜の力で解決してるそうなので敢えて考えないことにしている。
「はぁ……」
考えれば考える程不安が襲ってくる。アレフガルドのことを俺はゲームと母やトロワさんからの情報でしかしらない。
「わかってる……ミルザさんを救えるのが俺だけなら――」
行かなければと決めたのは俺自身だ、だから。
「アルー? まだ寝てるのー?」
固めようとした決意した瞬間、下階からの声が決意ごと俺を現実に引き戻す。
「っ、ごめんッ!」
そうだ、朝食の支度をしなければいけないのだった。
「ったく、考えすぎてそんなことも忘れてるとか……」
場合によっては今の家族全員で食べる最後の朝食になるかも知れないというのに。
「すぐに行くー」
下階に叫んで、部屋を出ると階段を駆け下りる。降りて行く階段の下から味噌のにおいがしてきた。拙い、もうみそ汁は味噌を溶く工程まで終わっているらしい。
「やれることが残っています様に……」
台所に行ったらみんな終わっていたでは立場がない。
「遅くなってごめん、やれることは?」
「あ、おはよーアル。とりあえず、戸棚から食器出して」
だが、現実は非情。
「あ、うん」
何というか料理自体は大半が終わっていたらしい。
「アル兄、ねぼー」
「まぁ、無理も無いっすよ。あんなむちむち人妻とつきっきりレッスンとか、寝不足になっても誰も責められないっす」
「OK、礼人とは後で部屋に来い。話がある」
卵を溶いたボールを水で注ぐ妹の言葉にさもありなんと頷いた弟の一人を凍てつく視線で刺しながら俺は食器棚の前へと赴き。
「ひいっ、ご勘弁を、おいらホモいのは勘弁っす」
「……ほう」
尚も巫山戯る弟へ皿を投げつけたい気持ちを抑え込みながらドスの効いた声を出す。ある意味一瞬触発の空気だった。
「まったく」
「「っ」」
焼き鮭を箸で網から引っぺがす別の妹が、これ見よがしに嘆息するまでは。
「何をやっている兄貴共、遊んでいる暇があったら先に朝飯の支度を終わらせろと」
「すまん」
「悪いっす」
普段物静かだが怒らせると一番タチの悪い妹の視線に刺された俺達は即座に謝罪し。
「あ、アル兄。今日のお昼は外食だって。アル兄とトロワさんの送別会だからそのつもりでねってお母さん達が」
「……そっか、ありがとう」
送別会と言う言葉に若干トーンを落としつつも礼の言葉を口にする。
「しかし、兄貴は大丈夫か? トロワさんが一緒とはいえ父も母もついて行かないのだろう」
「……不安がないと言えば嘘になるが、行けと言われた訳じゃないからなぁ」
姉と両親を除いて、弟や妹たちは俺がどこに行くのかを正確には把握していない。両親は俺のアレフガルド行きの理由他諸々を母の故郷に行って実家を継ぐのだと説明したらしい。
(「母さんの故郷はアレフガルドじゃないし、正しくは無いのだけれど」)
真実を伝えるに弟達はまだ幼すぎると言うことなのだろう。
「……それじゃ、行ってくるよ」
俺が家族を前に告げたのは、朝食の準備どころか送別会も終わり、荷物でパンパンになった肩掛け鞄の紐を身体に食い込ませ、若干左に傾きながら。
「ごめんね、空港まで見送れなくて」
「こういう時大家族って面倒だよねー」
バスを借りでもしなければ見送りに行けないからと言う理由を疑わない弟達の前で、俺はそれじゃあなと別れを告げる。ここからはバス停まで徒歩だ、表向きの理由通りなら。
「よろしかったのですか?」
「はい」
いくらか歩き、我が家が見えなくなったところでたずねてきたトロワさんへ頷く。
「では、参りますよ……アレフガルドに」
それがこちらの世界で俺が知覚した最後の言葉。揺らめく水面を思わせる様に周囲の景色が歪み薄れ。
「……良く来たアルトよ。わしが王の中の王、竜王だ」
「え゛っ」
揺らいだ景色が漸く焦点を結んだかと思えば、紫のローブを身に纏い、竜の頭部を模した杖を手にした見知らぬ人物が俺にそう語りかけてきたのだ。
まさかのりゅうおう登場。
ああ、ちなみにアル君の妹は片手の指ではまず確実に足りない数が居ます。ので、作中に出てきたのは年長組の半分以下。
もう12人でも良いかなとか思ったのですが、男女必ず偶数で生まれるという設定を踏まえると、26人兄弟になっちゃいますので没にしました。(一人は姉の為)
どっちにしてもテレビで放映される規模の大家族ですね、エンゲル係数とか凄いことになっていそう。
次回、IF・C→A6「ようやくあえたね(Chalotteルート・???視点)」