強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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IF・C→A7「そして色々ありまして(Chalotteルート・???視点)」

「お待たせしました。出発は明日の早朝とのことです」

 

 俺がその言葉をメイドっぽい服を着た魔族の女の子から聞くことが出来たのはぢごくのような毎日に割と限界を感じ始めた頃だった。

 

「あ、ああ……って、出発?」

 

「はい。勉強と修行、どちらも良く耐え抜かれましたね。いくらあの勇者シャルロットの息子とは言え特殊な訓練を積んだ訳でもない人間があのぢごくの短期集中コースに耐えるとはと皆様驚かれておりました。かくいう私もその一人ですが」

 

 思わず聞き返した俺に頷いてくれたメイドさんの視線は若干生ぬるかったが、無理もないと思う。

 

「ま、まぁ、俺にも譲れないものがありましたから」

 

 代償(かわり)に大切な何かを失いもしたけれど、それはもういい。そのお陰で、あ

のやまたのおろちとマリクさんのお子さん達と仲良くなれたのだから。

 

「お前は仲間じゃ。人間の国に行ってもわしはお前を忘れぬ。同じぢごくを味わった仲間のことは」

 

 そんなことを言っていたのは、何人目の息子さんだったか。

 

「強く生きるのじゃぞ、はぐれメタルはもうあんな所には入って来ぬ」

 

 ポンと肩を叩いてくれた別の娘さんの目は死んでいた気もする。発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)風呂という名のぢごくを経験すればあの目も仕方ないとは思う。

 

「訓練でへばると、『入浴しつつホイミで死なないコース』」

 

 いかさずころさずとルビ打たれたあの狭い空間で何人が心を殺されたのだろうか。

 

「大丈夫? 私が妾になってあげましょうか?」

 

 這う様にしてあてがわれた部屋に戻る途中、気遣っておかしい提案をしてくれた幼女はトロワさんの娘さんだった。魔族の血を引いてるために成長が遅いだけで実年齢は俺の一個下らしいが、何故妾とツッコミを入れた覚えがある。

 

「アル様の事はママンから聞いております。このアレフガルドで嫁を娶る為に参られたと。本来なら妾ではなくお嫁さんと言いたいところだったのですが、それでは本末転倒ですから。それに私はアル様のお父様の従者の娘ですし」

 

「いや、ほんまつてんとう って いうか、めかけ でも じゅうぶん おかしい ですよ?」

 

 何をどうしたらそんな結論に至るのかじっくり話し合う必要が有る様にも思われたが、実年齢はどうあれ、見た目は幼女なのだ。

 

「話してるだけで通報されそうだったから、結局『気持ちだけ受け取っておく』で終わらせたんだっけ」

 

 本当に色々なことがあった。酔っぱらったやまたのおろちが部屋を間違えてベッドに潜り込んできた時なんて、あの呪文が使えるようになっていなかったらどうなっていたことか。

 

「ありがとう、アストロン……」

 

 ただ、勇者専用呪文が使える様になったことで、母がⅢの勇者だったことを俺は再認識した訳でもあるが。

 

「アルト様?」

 

「あ、ああ、すみません」

 

 呼び声に回想シーンから引っ張り出された俺はとりあえず謝った。

 

「はぁ、無理もありませんね。もう一度言いますが、出発は明日の早朝、本日の夕食は大広間でとなりますので、タンスにある礼服に着替えてお越し下さい」

 

「ああ、あの服ですね」

 

「はい、おしゃれなスーツをベースにアルト様でも着用できるよう調整されたモノですので、相応の防御力も備えておりますが」

 

「うわぁ」

 

 記憶では盗賊と遊び人しか装備出来なかった防具がまさかの装備条件緩和である。

 

(まぁ、防御力があるのはありがたいけど……)

 

 今居る城へ滞在してる魔族やらモンスターの皆様は洒落にならない戦闘力の持ち主がポコポコいらっしゃる。当人は酒に酔っての悪ふざけでも回復呪文を必要とする惨事にだってなりかねないのだ。

 

(蘇生呪文にならない辺り、俺も強くなったなぁとは思うけど)

 

 代償はあの発泡型潰れ灰色生き物風呂(ごうもんせつび)で払った。得をしたのか損をしたのかはちょっとわからないが、これから年を重ねれば良い思い出と言える日が来るのだろうか。

 

「まぁ、それはそれとして……夕食に礼服で出席せよってことは」

 

「はい、本日の夕食はアルト様を送る送迎会となります。竜王様やおろち様、マリク様主立った方が全て出席される盛大な宴となるとか」

 

「なに、それ」

 

 まさか そこまで だいだいてき に いわって おくって くれるとか そうていがい ですよ。

 

「竜王様がこの地を治める様になって何年も経ちますが、人間を刺激しない様に大きな催しは控えられていましたから……皆、娯楽に飢えていたのです。そこに現れた勇者の息子、気にならない筈がないではありませんか」

 

「あー、至れり尽くせりではあったのかな、うん」

 

 ひょっとして俺の修行や勉強がお偉いさん達の娯楽になってたとか嫌な想像が脳裏を過ぎったけど、無かったことにしておく。

 

(おかげで身を守る術を得ることが出来たんだもんな)

 

 例えその最初の一回で守ったモノが自分の貞操だったとしても。

 

「伝言、ありがとうございました。時間に余裕を持って着替えた上で大広間に向かわせて頂きます」

 

「はい、よろしくお願い致します」

 

 丁寧に礼を言えば、メイドさんは優雅に一礼して部屋を後にし、俺だけが残される。

 

「ふぅ……さてと、それじゃ荷造りしちゃわないとな」

 

 それが終わったら挨拶回りだろうか。宴席で大半の面々には顔を合わせるとは思うが、それじゃ伝えられない事だって有る。

 

「こう、荷物に紛れ込んでついてくんな、とか」

 

 両親より俺を選ぶ様な懐かれ方はしていないと思うが、マリクさんやトロワさんの子供には一応警戒しておかなくてはならない者が何人か居る。

 

「この世界、施錠呪文ないからなぁ……荷造りする時は気をつけないと」

 

 独り言を口にすると、とりあえずタンスの取っ手を掴んだ。大丈夫だとは思うが、まず礼服のサイズ確認だ。

 

「太ったつもりはないけど、筋肉はついたと思うし」

 

 夕食の時間が近づいてから袖を通そうとした結果、着れませんでしたでは洒落にならない。

 

「タンスって言ってたから――」

 

「やあ」

 

 間違ってはいないはずと取っ手を引っ張った俺はタンスの中に居た人に挨拶されたのだった。

 

 




忘れた頃に更新してみる。

次回、IF・C→A8「であい(Chalotteルート・???視点)」
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