「あなたが、ミルザさんの――」
俺の目的を考えれば、その人は明らかにラスボスに当たる人だとは思う。
(けどさ、俺、まだミルザさんと会ったことさえ無いんだけど……)
はじまる まえ に らすぼす が たちはだかる とか ざんしん すぎや しませんか。
(まぁ、それも酷いと思う。ただ)
そのラスボスの後ろには見知った顔が居たのだ。三つ首竜と尖り耳幼児のコンビは俺に義父さんがこの城へやって来ると教えてくれたあの二人だ。その二人が、こっちを向いた上で、真顔のままクイックイッと腰を振って滑稽な踊りを踊っていた。
(あれ、かくじつ に こっち を わらわせ に きてますよね)
粗相なんて見せられないこの場面で失敗しろと言わんがばかりの妨害行為。
(無視だ、無視しろ、俺)
だが、こんな所で躓く訳にはいかなかった。あの二人については後でトロワさん達に言いつけるとしても。
「しかし、当然だがシャルロットの面影があるな。母親は息災か?」
「あ、はい。元気というか……昔から変わらないと父は言ってました」
どことなく遠くを見る様に尋ねてきたその人に俺は両親のやりとりを思い出しつつ答え、後半で視線を逸らす。複製とは言えオリジナルの記憶を引き継いでいるなら、この人は勇者だった母を知っているはずだった。そう言う意味では、母のことは共通の話題になるとは思うのだが。
「昔と変わらない、か。もしや一人称は」
もしやと付け加えたのは、流石に俺程の大きな子供がいれば直したのではと思ったのかも知れないが、そんなことはさらさらなく。
「ボクのままです」
「……そうか」
俺の答えに、短く沈黙してからその人は短くそれだけ言って、後ろを振り向くとあのいたずら者二人を捕まえた。
『っ、ヘイルおじさま気づい』
「ちょっ」
「変わらないな、確かに」
慌てふためく三つ首竜と尖り耳幼児をぶら下げて苦笑したヘイルさんは迎えが来たらしいなと呟く。
「迎え? まだ来たば――」
「ロック。リーロ様」
来たばかりじゃと続けようとした俺はドスの効いた声で誤解に気付いた。声の方を見やれば、そこにはとても良い笑顔をしたトロワさんが立っている。
「盗賊だからな、後ろで不埒な真似をしていれば気配で気づくし、誰かが寄ってきても気配でわかる。そこはトロワの夫も同じ筈だがな」
後ろでこそこそすれば気づかないはずがないと言外に言うミルザさんのお父さんはどことなく呆れた様子であり。
「子供かわいさに悪戯へ気づいても気づかないふりをしてたんじゃないでしょうか、トロワさんの旦那さんは」
遠い目をしつつ俺が答えれば。
「ご迷惑をおかけしました。それでは失礼します」
「か、母さん。こ、これにはサ、色々と事じょ」
『お、おばさま、ごめんなさい、許してもうしま』
こちらへ頭を下げ、トロワさんは引き渡された二人を連行してゆく。
「まぁ、自業自得だな」
「ですね」
見送る俺達としては他に言えることもなく。
「さて、静かになったところで娘の、例の件についていくらか話しておこう。娘が結婚を持ちかけられた話だが、何割かは俺のせいだ」
「はい?」
いきなりの上にとんでもない爆弾発言だ。俺は思わず聞き返し。
「俺が複製なのはもう聞いていると思うが、まさにそれが原因だった。とある王族の少年が一人の少女と恋に落ちてな。二人は惹かれあい、少年の方が言ったのだその少女と添い遂げたいと」
「え? 両思い? 望まぬ結婚じゃなかったんですか?」
いきなり食い違う話を俺が訝しんだとしても当然だと思う。
「この二人に関して言うなら、結婚はお互いに望むところだった。だから、少女の両親に結婚の許可を貰おうと使いが立てられた」
ただこの使い、何をどう間違ったのかまったく別の家に許可を求めに行ってしまったのだとヘイルさんは言った。
「そう、俺が留守中の我が家に、な。父親が銀髪でヘイルと言う名であるという理由で」
「ちょ、まさか」
「ああ。どこでどう間違ったか、別の複製の娘と俺の娘を間違えたと言う訳だ……しかも、その使者は俺の娘とその王族が両思いなので結婚を認めて欲しいと、確認もせずに当時家にいた妻に言ってな」
ヘイルさんの奥さんは当人同士が好き合っているならと承諾してしまったらしい。
「人違いに気づいた時にはもう遅かった。話は他の結婚相手でも立てなければ取り消せないところまですすんでいて、俺は戻ってからその話を聞かされた」
「うわぁ」
好き合う二人は一緒になれず、ミルザさんから見ても望まぬ相手と急に結婚させられることになるとか、一つ掛け違うだけでこうも誰も幸せにならない展開になるのか。
「それで、俺が……」
「ああ。シャルロットの息子なら妻が反対する理由はない。そして、俺は
「娘さんに、ミルザさんに俺が認めて貰えるかが全てと言うことですね?」
確認する様に視線を送れば、ヘイルさんは頷いた。
「そしてもう一つ、
「……それは」
俺にとっては好都合な情報が一つ増えた訳だが、素直に喜ぶ気にはならない。友人の為に相手がどんな人物であれ結婚の申し出を受ける可能性があるとこの人が言う理由など鈍い俺でもすぐわかったのだ。
「ちょっとあからさますぎませんか?」
有利な情報を渡してこちらの反応を見る。ここで浮かれたりしめたと言った顔をすれば娘の夫に相応しくないと見なされたんじゃないかと思うが、こう、何というか。
「ふ、何、ただの前振りにすぎん。俺は『
「そう……ですね、そういう……ことか」
俺がミルザさんの配偶者として相応しいかという査定はまだ始まっても居ないとこの人は言外に言っているのだろう。
「絶対にとか強いことは言えませんが……出来る限りのことはしますよ。とは言っても、仰る通りミルザさんとはまだお会いしても居ない訳ですけど」
今の俺に返せる言葉はそれだけであり。
「そうか。さて、今日はお前のための宴だろう?」
これ以上拘束する訳にもいかないと言う様にミルザさんの父は踵を返すと去っていった。
「これから……そう、これからなんだ」
一瞬何処かの漫画に有りそうな打ち切りエンドが思い浮かんだが俺は敢えて考えなかったことにした。
今明かされる衝撃の真実ぅ!
追い風としか思えない情報を暴露してラスボスは去り。
次回、IF・C→A10「宴も終わり(Chalotteルート・???視点)」
打ち切りエンドの誘惑に駆られたことは否定しない。