「で、登って早々に、か」
硬いモノの擦れ合う様な音に視線を向ければ、こちらにやってくるのは六本の腕を持った骨の剣士だった。
(けど、この世界の白骨系人型モンスターは何故腕が多いのやら)
地下墓地に眠っていた村人の骸が元だとすると二人分の腕はどこから持ってきたって話しになると思うのだが。
「……ふむ」
戦闘力を高めるために魔物自身が生やしたとか、近くにあった別の人の骨を失敬したとか、数人分の怨念が集まったため骨が混じってるとか、きっともっともらしい理由があるのだろう。
(そもそもツッコミは無粋……と言うより無意味でもあるかな。ディガスと違って会話出来るかも疑わしそうだもんな)
声を発すこともなく、骨の擦れる音を時々出しつつ、一歩一歩歩み寄ってくるそれには感情らしきモノも感じられない。
「なら、やることは一つだな……せいっ」
足下の石を拾って、投げる。狙ったのは、頭蓋骨だ。
「カッ」
悲鳴と言うよりも先程の骨と骨が擦れ合うに近い短い音を残して石の命中した頭蓋骨が吹っ飛び、地面に叩き付けられて砕ける。
「……やはり石で充分のようだな」
立ちつくす六本腕の人骨がようやく頭部を失ったことに気づいたかの如く崩れてゆく様を見つつ呟くと、屈み込んで再び石を拾う。
(盗賊で良かった、とおもうべきなのかなぁ、これ)
一体だろうと二体だろうと腐乱死体が歩き回っていれば当然酷い匂いがする。逆に匂いが酷すぎて何処に動く腐乱死体が居るか解らなくなりそうなものだが、この身体はしっかりと捉えていたのだ、近くにいる魔物の気配を。
「一っ」
「お゛」
朽ちかけた倉庫か何かの影から半分身体を出していたくさったしたいへ投じた石は命中し。
「そこだっ」
二つめの石がまだこちらに気づかず背を向けていたがいこつけんしの背骨を砕く。
「三つ……ちっ、数が多い上に何体かは建物で死角か」
更に投石でぼーっと立ちつくす動く腐乱死体の顔面を砕いた俺は、舌打ちすると物音の聞こえた穴の方を振り返る。このタイミングで穴から聞こえた音の主など一人しか居ない。
「トロワ、猿ぐつわの解除及び呪文の使用を許可する、そこを暫く守れ。ただ、なるべくで良いが、村の建物に被害は出すな。そして、下の洞窟に味方が居ることも忘れるなよ」
使える攻撃呪文が大爆発を起こすものオンリーな時点で変態娘に力を借りるべきか迷ったのだが、俺は敢えてトロワに命じ、釘を刺す。
(洞窟の方がこの後どうなるか解らないし、さっさと周辺制圧して上がれるようにしておかないと)
敵の編成を考えたなら、トロワに一時ここを任せ、殲滅してまわった方がどう考えても早い。
「ん゛ん、んーん……承知致しました。あ、マイ・ロード、どうぞこちらをお持ちください」
ただ、答えを待たずに駆け出そうとする俺を変態娘は呼び止め。
「……これは?」
「トロルの棍棒だったものです、イオナズンの呪文を付与しておきました」
「は?」
手渡された棒状のモノを見て問えば、返ってきたのはとんでもない答えだった。
「いおなずん?」
「はい、素材の方が呪文の威力に耐えきれないので使い捨てのアイテムになってしまいお恥ずかしい限りですが、強い力で敵に投げつけると大爆発を引き起こします」
この へんたい、あの たんじかん で えつきしゅりゅうだん もどき つくりやがった。
(そーいえば、てんさい でしたね、こいつ)
忘れていた訳ではないのだが、こういう一面を見ると味方に引き込めて良かったと思う。
「ただ、道具も時間も有りませんでしたので、他にも欠点があって……半日たつと付与が解けてただの棒になってしまいます」
「いや……即興にしては充分すぎるだろ」
「マイ・ロードに喜んで頂こうと、本気を出しました」
半ば呆れる俺の前でふんすと鼻息荒くドヤ顔をする辺りとかは、結構残念系なのだけれど。
「これの応用でお尻をぶっ叩いて蘇生させる杖とかも出来ないかと考えていますが」
「待て」
うん、やっぱりいつもの変態だった。
「何だその発動条件は」
「いえ、誤作動防止に壊れる程強い力を受けた時を発動条件に組み込んでるので……」
「なら、何故尻と箇所まで限定する?」
「ママンの事を妄想して死にかけた私に使って貰って、傷物にされたという既成事実を作り責任をとって頂くためで……はっ」
はっ、じゃねーよ。
「とりあえず、これが終わったら聖水責めの刑、だ」
「ま、マイ・ロード?!」
清められた水ならこいつの煩悩とか変態性とか洗い流してくれると期待して。
(魔物にかけたらダメージ受けそうな気もするけど、致死ダメージじゃなかったはずだし)
大人買いして浴槽に注ぎ、身を清めさせるのも良いかもしれない。
(それでも駄目だったら、教会に連れて行って見るかな)
手遅れですって悲痛な顔の神父さんに頭を振られる気もするけど。
「まぁ、いい。こいつは一応借りて行く。村の中で使う機会が有るかはわからんがな」
さっさと終わらせよう。これ以上トロワに変態性を露わにされては俺の方がどうにかなってしまう。
「……恨むなら、度を超した変態を恨めよ」
投げる石の威力が増したとしても、それはきっと八つ当たりじゃない。
「でやっ」
「ぼっ」
崩れかけた民家を回り込んで、裏手にいた腐乱死体を仕留め。
「はぁ、五つッ」
そのまま直進して、こちらに振り向こうとした骨の剣士を手刀で袈裟懸けに斬り捨て、ズレ落ちた上半身を足で踏み砕く。
「おまけだ」
更に、白骨の腕が持っていたボロボロの剣を拾い、廃屋の窓に向けて投じれば串刺しになった腐乱死体が崩れ落ちる。
「くっ、やはり建物の中に居る奴が一番面倒だな」
たまたま窓の側に居てくれて助かっただが、気配の幾つかは屋内なのだ。
神 父「ご冗談を、トロワどのは手遅れであられる」
主人公「えっ?」
何てことがあるかどうかは、実際に教会に連れて行かないと解りませんが。
次回、第二十七話「勇者ってだいたい住居不法侵入してる気がする」
割とどうでもいい話ですが、闇谷ゾンビを銃でどうこうするゲームは苦手なのです。ホラーとかも。