「バイキルト」
まず、呪文で攻撃力を倍加させ。
「いくぞっ」
しゃがみ込むように低い姿勢から飛び出し、向かう先は部屋の一角。
「な」
俺の行動に変態の悪霊が声を上げるが、一切構うつもりはない。
「あんな臭いそうな死体を、武器で攻撃出来るかぁっ」
叫び声と共に持ち上げたのは、空の宝箱だ。空っぽなのは、おそらく中身を悪霊が取り出したからなのだろうが、俺としては都合が良い。
(中身を焼却処分してしまえば入れておく箱が壊れても問題ないっ、つまり、どんなに荒っぽい扱い方をしても良いってことだっ!)
新感覚、死体を箱で殴るアクション。
(いや……そう言うゲーム、既にあってもおかしくないか)
ちょっとふざけてみたが、ぶっちゃけどうでも良い。
「直接大元を真っ先に滅しては意味がない。まずはこいつらを相手にし、俺を怒らせた貴様の愚かさを思い知らせるッ」
持ち上げた箱。
「お゛」
狙うは、声を上げた個体。
「おおおおっ」
叩き付けるは、角。
「喰らえェっ」
宝箱で最も頑丈と思われる補強された箱の角が死体の顔面に炸裂した。
「お゛ん゛っ」
結果として、悪霊に操られた死体は顔面を砕かれたただの死体に戻り。
「ちっ」
宝箱の破片と言う雨の下で、俺は舌打ちする。
「箱の強度が俺の怒りに耐えきれなかった、か」
まだ、嘆きと悲しみ用に二体程残っているというのに。
「フォオオ……何だ? これはどうい」
「どうもこうもない。俺が怒っていて、箱が思ったより脆かった、ただそれだけのことだ」
状況を呑み込めない悪霊に吐き捨て、とりあえず周囲を見回す。
(箱はまだある……が、中身入りか)
開いていた一個に入っていたものが忌まわしすぎると、未開封の箱を無警戒で掴み使用する気など起きない。また箱が砕けて、飛び出してきた中身をうっかり見てしまったら最悪の事態だって起きるかも知れないのだから。
(なら……これだっ)
しゃがむ、拾う、投げる。
「うお゛っ」
三つの動作で放った宝箱の蝶番付きの欠片が手裏剣か何かのように顔面に刺さりそのまま貫通して、顔面に穴を穿たれた死体が、傾ぎ、倒れ伏す。
「二体目、だ」
残りはあと一体。
「あ、あぁ……」
あっさりと二体まで倒されたのが信じられないのか、悪霊は呆然と立ちつくし。
「……仕上げだ」
振るうのは、つめではなく鎖つきの分銅。
「フォぐっ」
手加減して振るったそれは悪霊を消滅させることなく絡みつき。
「でやあっ」
「うおォ?!」
「うおおおおっ」
蝙蝠の様な翼の生えたそれを捕らえた鎖を引けば、悪霊はひっくり返るが、構わずそのまま振り回す。
「ホロゴースト・ハンマーァァァァッ!」
物理攻撃の効く悪霊なら鎖で絡めて引っ張る事も出来る。
(そしてそれを武器にすれば元々持っていた武器は汚れない)
まさに完璧な発想である。
「スカラっ」
「な、フォオ、ちょっ」
「……貴様が冒涜した死体にっ、詫びろぉっ」
簡単に壊れないよう敢えて強化してから、振り下ろす。
「ぐフォ」
「ああ゛っ」
悲鳴を聞きつつ横に薙ぐ。
「フォべっ」
「おらっ」
変な角度に曲がったが、叩き付ける。
「フォげっ、もう、止め」
「はあああっ」
何か言ってるものの、無視して振り回す。
「フォオォォッ」
「まだまだぁ」
遠心力が乗って、エメラルドグリーンの輪が俺の頭上に誕生するが、気はまだ収まらない。
(とはいうものの、もう攻撃する相手が残ってないしなぁ)
即席武器とはいえ、使ってるのはバイキルトをかけた俺だ。悪霊に操られることで変質したとは言っても死体の魔物に何発もの攻撃を耐えうる力はなく、とっくにただの死体に戻って仲間と共に地下室の床に倒れ伏している。
(いや、それだけやっといてまだがーたーべると持ったままのこのホロゴーストもある意味凄くはあるけどね)
何が悪霊にここまでさせるのか。そんな胸中が聞こえた訳ではないと思う、だが。
「……れ、村……息……からっ……き勝手」
振り回される武器は何やら漏らし出し。
「……ふむ」
俺は徐々に速度を緩めると、回していた悪霊を放り出す。
「フォぐぺっ」
投げ出された悪霊は悲鳴をあげるが、消滅していないので問題は無いだろう。
「止めてはやった、言いたいことがあるなら言え」
酔狂だとは思う。だが、回していては聞き取れないし、微かにでも聞いてしまうと気になった。
「これは……やれん。フォォォ、妻の形見のこれだけは……誰にも、やれんのだ。村長の息子である事を笠に着て……強引に奪っていった……あれとは、違……う」
「強引に奪って……いった?」
ただ、聞いたのは失敗だったかもしれない。
「春画……フォオォ……裸婦像……借り、ると言って……その、まま……」
なるほど、あの猥褻領域の真実がそれか。
(むーるくん には だまって おいたほう が いいよなぁ、これ)
父親か祖父か、もっと前の代かは不明だが、あそこに淫らがましいものを隠したのが自身の先祖だった事もだが、それが人から強引に奪ったものだったとかあまりにも酷い。
「お前も……村長の息子に……何か言われて来た、フォォォ……のだろうが、これだけは渡……」
「ニフラム」
「うぼあー」
ただ、そんな輩の手下扱いになどされたなら、即座に呪文で消し去ったって俺は悪くないと思うのだ。子孫と同行はしてるが、そっちは成り行きだし。
「……まったく、冒涜した死体の当人に向こうで詫びとけ」
猥褻物を巡った二人のもめ事に巻き込まれた死者達が気の毒すぎる。
「……はぁ、無駄に疲れた」
床に残されたがーたーべるとも形見と聞いてしまうと流石に燃やしてしまう気になれず、嘆息を残して俺は地下室を後にし。
「しかし、本当に酷かったなぁ……けど」
元よろず屋を出つつ、思う。
(何代か前の村長の息子の犠牲者が悪霊化してたなら、元凶の方も何処かで悪霊になってるなんてことは……うん、ないな)
悪霊になってるなら、鍵を取りに行った時に遭遇してるはずである。
(うん、ないない。あの時戻ってくるのが遅かったムール少年に取り付いてるとかなら話は別かも知れないけどさ)
ホロゴーストが他者の肉体に入れるのは確認済みだが、ムール君におかしな所は無かったと思う。
「まぁ、念のために聖水をぶっかけてみるか。トロワへのお仕置きの時に手が滑ったとかそう言うことにしておけばいい訳も出来るし」
万が一を考え、そう決断を下すと俺は再び周辺の魔物を倒す作業に戻るのだった。
今回明かされた衝撃の真実ゥ!
展開がベタ過ぎてあっさり予想出来たかもしれませぬが、すみませぬ。
次回、第三十話「合流」
伏線? フラグ? そんなモノありましたっけ?