シャル「はっ」
サ ラ「どうしましたの、勇者様?」
シャル「え? あ、ううん何でもないよ。ちょっと、お師匠様が別の女の人を助けてるような気がして……羨ましいなぁ、とか、そんなことないからね?」
なんてことはないので安心して下さい。
「っ、いいかげんに――」
馬鹿なのか、理由でもあるのか。狙ったのは変態娘の身体から生えた翼。
「うぎゃあぁぁぁっ」
聖水で濡れた爪によって翼を敷いた布ごと床に縫い止められた変態ホロゴーストが絶叫を上げる。
(やっぱり効いたか。よろず屋の方がチェーンクロスで絡め取れたし、いけると思ってたけど……)
念を入れて聖水までかけたのだ。
(これで後はトロワの身体の方を引っ張れば……こいつを引きずり出せる)
いくら変態娘と言っても、一応ついさっきまで怪我人だったことを鑑みれば、身体に負荷をかけるのはよろしくない。
(それに、こいつに取り憑かれた影響で変態が悪化ししたら目も当てられないしなぁ)
と、変態娘を気遣う理由もあるが、何より自称次期村長の目的が俺には看過出来ない。
(不覚をとる気は無いものの、こいつに身体を乗っ取られた場合の危険性を考えると、残念だけど八つ当たりはこの辺りで終了して、さっくり倒しちゃった方がいいよね)
冷たい息という反撃手段によって一方的な優位も崩れた。聖水に内から浄化される状況を媚薬でも飲まされたと勘違いしてる点も、ある意味拙い。
(しっかし、想定外というか何というか……元々魔物だった上に邪悪な魔物が取り憑いた状態だから、聖水が効いたのは驚かない。寧ろ想定通りだった)
ただ、浄化がトロワの肉体ごしに発揮されたせいで自称次期村長への効果が浅かったのが、妙な誤解を生じさせたのだ。
「だが、流石に本体へ塗布した武器を突き立てられればそうも言って居られまい?」
「ぐ、がっ、フォ、あがあああっ」
実体化を解いて逃げられるかも知れないと警戒してもいたものの、苦しみようからすれば杞憂であったらしく。
「さて、返して貰うぞ」
俺は濡れた手でトロワの肩を掴む。
「がっ、ぎゃああっ」
端から見れば聖水で濡れた手で肩に触れ引き起こしただけのことでも邪悪な魔物にとっては身体の一部を縫い止められた状態で引っ張られたようなモノなのだ。翼を固定されているからか、引き起こす手に謎の抵抗を覚えるも、躊躇はしない。
「や、止め」
「断る」
悲鳴の間から漏れた声をきっぱり拒絶し。
「ぎっ、が……フォォ、身体がっ、エロい、俺の女た、ぐぎゃああっ」
「誰がお前のモノだ」
引きずり出される変態ゴーストの世迷いごとに突き立てた爪をぐりっと剔ったけど、他意はない。
(べ、べつ に この へんたいむすめ は おれ の ものだ とか、そんなしゅちょう を してるわけじゃないんだからねっ!)
なんでツンデレ口調になってるんだと自己ツッコミしたくなるが、そもそも次期村長がアリもしない所有権を主張したのは、多分トロワの身体オンリー。
(身体だけじゃなくても、流石にここで迂闊発言は拙い)
ここで張り合うかの如く変態娘の所有権を俺が主張し、トロワの中の人というか当人にきっちり意識があった場合、こいつの性格なら必ず言う。
「マイ・ロードが私を自分のモノだと言って下さったのです」
とか何とか誰も聞いていないのに触れ回るに決まっている。
(いや、それで済めばまだいいか)
身体に俺の名前の入れ墨とか彫って、これで自分はマイ・ロードの所有物ですね、とか頭おかしい真似をしたって俺は驚かない、だから。
「それは、トロワのモノだ。お前がどうにかしていいものではないッ」
「ぎゃ、が、や、止めろぉぉぉっ」
「あ゛っ、あ、あ゛、あっ」
力を込めて肩を引き寄せれば、蝉が抜け殻から出るかのように翼に引っ張られたホロゴースト本体の上半身が変態娘の身体から引きずり出され、トロワの身体がビクビクと痙攣する。
「このまま返して貰うぞ」
「うぎゃああっ」
簡単に引き抜けないようまじゅうのつめを深く突き刺してから手放し、代わりに変態娘のローブを掴むと自分も立ち上がりながら意識のない身体を無理矢理立たせる。
「あ、あぁ……」
「これで、終わりだっ」
それでもまるで影法師の様にホロゴーストの一部が足から伸びているのを見て、俺は変態娘の身体を俵のように肩に担ぐと、聖水に濡れた手で直接エメラルドグリーンをしたそれを掴み、引っこ抜く。
(え? こういうとき は おひめさまだっこ じゃないのかって? ごじょうだん を)
足から伸びているゴーストの身体を引っこ抜く手前、片手をフリーにしないといけないのだが、あの抱き方ではトロワの身体が安定しないのだ。
(それに、こいつに意識があったら喜ばせるだけだしなぁ)
そんなサービスする度量は持ち合わせておりませんのことよ、って一体誰に言っているのやら。
(ともあれ、やることは二つ、かな。魔物の始末と……その後で、洗濯)
聖水とか涙とか汗とかいろんなモノでぐちゃぐちゃになった変態娘の身体を担いだんだから、お察しである。
(ついでにトロワのローブも洗わないとなぁ)
この村に予備の服が有れば良いのだが、遺棄され、長年封印された村だ。望み薄だとは思う。
「ふ……と言う訳で、後は貴様を消すだけだな?」
「ぐ、ぎ……ま、待て、俺が悪かった! フォォォ、お前の女に勝手に入ったのは謝る。もうお前の身体を奪おうとも思わない」
内心で服の心配をしつつちらりと視線をやれば、制止するように手を前に突きだし縫い止められたせいで後ずさることも能わない自称次期村長が声をあげ。
「そうだ、貴様の、いや、あ、アンタの、フォォォ、こ、これからはアンタの力になるっ。気に入った女がいれば俺に言ってくれれば、そいつの身体に俺が入って何でもしてやるぜ? 時々アンタの身体を貸してくれたら、俺も嬉」
「消えろ、クズがっ」
「ぎっ、ぎゃあああっ」
命乞いをするにしても、もっとまともな内容があると思ったのは、俺だけだろうか。
「まったく、この村もとんだ災難だな」
生前あれが村長の息子だったと言うだけでこの村の人達には同情を禁じ得ない。ただし、よろず屋のあいつだけは例外だけど。
ホロゴーストな村長の息子、終了のお知らせ。
次回、第三十五話「ぐっしょぐしょ」
どうするんでしょうね、後始末。