強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第三十五話「ぐっしょぐしょ」

 

「まぁ、それはそれとして……だ」

 

 俺にはやらないといけないことが残っていた。

 

(まず、トロワをどうするかだよなぁ)

 

 このままここに寝かせ、担当する元民家に潜む魔物を殲滅してから戻ってくるか、変態娘の意識が戻るのを待つか。

 

「む……ここも酷いな」

 

 着ているローブは血の染みがある上、あちこち濡れた状態のまま埃だらけの床の上で暴れたせいで袖や裾は普段掃除しない場所を大掃除で拭いた雑巾みたいなことになっている。

 

(どう考えても即洗濯レベルなんだよなぁ)

 

 背中の部分は先に布を敷いていたことで幾分マシだが、それでも抱き方によっては俺が間接的に受ける被害(よごれ)が少なくなるだけだ。

 

(そもそも既に担いじゃってるから、俺の服や防具も洗濯が必須だろうけどね)

 

 だが、トロワの格好のひどさは間接的に汚れた俺の比ではない。

 

「……やはり、時間はかかるが意識を取り戻すのを待つのが正解、か」

 

 自称次期村長のホロゴーストは身体の中から引きずり出したが、あの荒っぽい除霊がトロワの身体や精神にダメージを残していたって不思議はない。

 

(大丈夫かどうかの確認もせずに置き去りにするのは拙いし)

 

 寝かせたまま魔物を倒しに行き、戻ってくる前に変態娘が目を覚ませば拙いことになるかもしれない。

 

(それに、目が覚めた時ムール君にモシャスで変身しておいて「ムール少年がトロワを悪霊から助けた」ことにすればムール君と変態娘をくっつけられるかも知れないし)

 

 最後に付け加えた俺の打算部分はさておき、一応主と言うことになっている以上、トロワが無事かを確認するのは義務だろう。

 

(目を覚ましたら、着替えを手渡して戻ってくるまでに着替え終えるよう言っておけばいい)

 

 ムール君の格好の対応になったとしても、モシャスの効果が切れる前に俺を呼んでくるとでも言って変態娘の側を離れ、呪文の効果が切れたところで戻ってくれば良いのだ。

 

「ふ、そうと決まれば……まずはこいつを寝かせて」

 

 はだけてしまっている胸元を隠す。

 

(これでよし、っと。しっかし、意識を取り戻す前に直せたのは良かった)

 

 もしトロワに見られた場合、弱みを握られるか社会的に大ダメージの二択だったのだから。

 

村長の息子(ホロゴースト)を見たのは俺だけだし、トロワが取り憑かれた時のことを全く覚えてなかったら、残るのは俺が痴漢行為をしていたように見える事実だけ)

 

 まさに悪夢である。光景を想像しただけで、手の中に変な汗が滲んでくるレベルの。

 

(汗、かぁ。そう言えばこいつも汗びっしょりだし、風呂は贅沢でもせめて何処かで水浴びが出来るといいけど)

 

 村なら生活に必要な水を何処かで調達してるはず。

 

「そこが枯れてなけれ……あ」

 

 言葉の途中で、ふと思い出したのは、地下を流れる川。

 

(まさか、あそこから水を汲んでたとか?)

 

 わかれみち の さき とは いえ せいだい に ばくは しちゃったし、かりゅう の ほう にも とろる の したい つめちゃったんですが。

 

(アレが水源だったら、どうしよう)

 

 出来ればそれはないと信じたい。腐乱死体が流れてた地下河川でもあるのだ。

 

(れ、冷静になれ。アレが水源と決めつけるのは早計だし、アレのもっと上流ってことだって考えられる)

 

 オッサンでは微妙だが、この村出身のムール少年なら水源についても知ってるだろう。

 

(ムール君に聞いた訳でもないのに絶望するのは早すぎる)

 

 問題があるとすれば、直接聞くことが出来るのが早くてもノルマを果たし、村長の家に向かう途中になると言うことであり。

 

(今の俺では変態娘が意識を取り戻さないと、受け持つエリアの魔物を倒しに行くことすらままならないってことかな)

 

 割と先は長い。

 

「なら、出来ることをしておくか」

 

 床に突き刺したままのまじゅうのつめを回収し、使いかけの聖水は要らない布に染み込ませる。

 

「……ふむ」

 

 出来上がったのは、見た目だけなら水で湿らせた布。

 

「せめてこれで顔を拭いてやりたいところだが……」

 

 魔物であるトロワの顔を拭いても大丈夫と言う保証はない。

 

(飲ませた時の反応は、邪悪なモノに取り憑かれていたからだろうし、流石にあんな風になるとは思わないけどさ)

 

 目を閉じたままの変態娘を前に、一人睨めっこをすること暫し。

 

「埒があかんな」

 

 意を決した俺は一方の手でトロワの頭を持ち上げ、布で頬に残る涙のあとを拭った。

 

「んッ」

 

「っ」

 

 短く漏れた呻き声に肩が跳ね。

 

(って、ただの反射に何ビクビクしてるんだか。ダメージを受けてる様子はないし、反応してくれたのだって寧ろ重畳じゃないか)

 

 自分のビビリように苦笑すると手を動かし、顔を拭いて行く。

 

「ふ、少しはマシな顔になった、か」

 

 代わりに布が汚れたものの、まだその布の方が変態娘のローブよりは綺麗であり。

 

「……汚れの酷い袖だけ拭ってお」

 

 布を持ったまま手を伸ばした直後だった、突然腕を抱きしめられたのは。 

 




いきなり持って行かれる腕、果たしてトロワは元に戻ったのか?

次回、第三十六話「突発的な出来事と」


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