「勇者様は、相変わらずですかな?」
部屋を出てすぐ、投げられた問いに私は頷きで応じましたわ。
「そうですか」
「致し方ありませんわ。こんな事になるなんて、思ってもいませんでしたもの」
ここ、アリアハンに戻って来るなり盗賊さんが姿を消したのは二日程前のこと。
(勇者様のお母様への話からすると、盗賊さんは「やらねばならん事」を抱えていたようですのよね)
もっとも、そのやらなければいけないことについて私には全く心当たりが無く、それは勇者様やあのエロウサギも同様でした。
(思い返してみると、あの盗賊さんについては知らないことが多かったのだとつくづく思い知らされますわ)
窮地に陥っていたところを助けられたのが勇者さまとあの盗賊さんの出会うきっかけ。
(それまで何をしていたかとかは全く不明、最初に勇者様が名を聞かれた時も「過去にはあった、だが今の俺にはそれを名乗る資格すらない」と答えられたそうですし)
勇者様が弟子入りを志願し、受け入れられて二人は行動を共にするようになり。
(そこにエロウサギが加わったのでしたわね)
そこまでは伝聞。
(私が知っているのは酒場で勇者様達を紹介され、盗賊さんの代わりにアランさ……アランと一緒に加わってから)
最初は勇者様との関係を疑い、ダンジョンに精通していることや盗賊とは思えない豊富な呪文知識に驚き。
(そう言えば、聞こう聞こうと思ってたのに、はぐらかされて有耶無耶になったままでしたわね。一応、呪文知識の元については、もう推測はつきますけれど)
盗賊さんのお知り合いの魔法使いで、スレッジと名乗られたあの方が使った高度な呪文。
(今は私でも扱えますけれど、あれほどの呪文の使い手がお知り合いなら……)
勇者様に的確なアドバイスが出来ても不思議はありませんもの。
(……そして、盗賊さんと親しくしていたという意味で、盗賊さんの「やらねばならん事」を知ってる可能性が最も高い人物でもありますのよね)
もし居場所がわかればすぐにでも赴いて盗賊さんのことを尋ねたいところですけれど、そのスレッジ様も現在の居場所は不明だったりしますのよね。
(はぁ、盗賊さんの居場所とか目的とかの手がかりでもあれば、勇者様を発奮させる材料になりますのに……)
いっこうに姿を見せない盗賊さんを訝しみ、アランの話を聞いて勇者様のお宅にお邪魔した私達は勇者様のお母様から盗賊さんの言葉を聞き。
(……わかってますわ。あそこで盗賊さんの残した言葉を伝えなければ、勇者様はあそこで盗賊さんをずっと待って居かねなかったのだから、誰かが話さなければいけなかったことですの)
その結果が現状だとしても。
「……すみませんな。あの時、告げる役をあなたに押しつける形になってしまった」
「仕方ありませんわ。盗賊さんが勇者様のお母様を除けば、最後に話したのはアラン、あなたですもの」
何であの時引き留めてくれなかったのかと勇者様がこの人を責めることも考えられた。だったら、私が告げるより他になかった、ただそれだけのことですの。
「そんなことより、今は一刻も早く勇者様に立ち直って頂かないと……」
「……そうですな。では、私は手がかりらしきモノが残っていないか、調べてみることにしましょう。本来ならすぐにでもやっておくべき事だったかもしれませんが」
「無理もありませんわ。勇者様やエロウサギ程ではありませんけれど、今回の一件はショックでしたし、倒れた勇者様達を介抱したりでそれどころじゃありませんでしたもの」
勇者様はエロウサギとほぼ部屋に籠もったっきり。
(きっと、現実を受け入れられないのですわね)
愛しい人が出来たからこそ、解る。
「……アラン、少しアリアハンを離れてもよろしいですの?」
だからこそと言う訳では有りませんけれど、私は切り出しましたわ。
「離れる? ……手がかりを外へ求めに行くと言うことですな?」
「同じタイミングで姿を見せなくなったことを鑑みると、あのエロムラサキも多分一緒について行ってる筈。盗賊さんと行動を共にしているとするなら、破廉恥行為で騒ぎを起こしているかもしれませんもの。ルーラの呪文であちこちまわって聞き込みをしてみますわ」
「いや、それは流石に……無いと言い切れないのは何故ですかな」
半ば冗談のつもりで言った言葉に遠い目をする辺り、アランも同じ認識でしたのね。
(それはさておき、問題はまず何処に行くかですわ)
まるっきり見当がつかないというのが痛いですけれど、それならそれでやりようはある。
「とりあえずジパングに行ってみる事にしますわね。エロムラサキのお母様もあちらに向かわれて……あ」
「……意外なところに手がかりになるかも知れない方が居りましたな」
「ですわね、エロムラサキがついて行っているのが偶然でなければ、何らかの事情を知っている可能性も」
なら、このタイミングで何処かに出発すると入れ違いになるかもしれませんわね。
「前言撤回させて頂きますわ。まずはエロムラサキのお母様が戻ってくるのを待ちます」
「それが良いでしょうな。では、待つ間、手がかり探しの方を手伝って頂けませんかな?」
「承知しましたわ」
持ちかけられた提案に私は頷き。
「では私は教会に行ってみましょう。元僧侶の私が適任でしょうからな」
「道理ですわね。なら、私は酒場に」
手分けして聞き込みをする為アランと別れ。
(こんな昼間からお酒を飲んでる人なんてあまりいないと思いますけれど)
ダメもとのつもりで入り口をくぐってすぐでしたわ。
「でよ、すっげぇ爆発とか起きたり、何かキラキラ光ってさ、おっかねぇと思いつつも後で気になったから行ってみたのよ」
「へぇ、そんで?」
「そしたらよ、地面にすっげぇ傷が出来ててよ。無茶苦茶沢山の剣で付けたような傷とか。その辺に生えてた草なんかもバッサリよ。しかも、けっこう広い感じに草が枯れててよ」
行商らしい男性が赤ら顔で身振り手振りを交えて話しているのに出くわしたのは。
(爆発……この辺りの魔物はそんな攻撃しないはずですわよね)
気になり、後で調べてみようと決めた私は、男性の言葉に耳を傾け。
「……これは、マヒャドの」
その後、確認に赴いて私を出迎えたのは、聞きしにまさる惨状。
(こっちはブレスの後ですわね、多分氷の)
まるで、突然の冷害でも受けたかのように枯れて変色した草地の広さに言葉を失う。
(氷のブレスを吐いてくる魔物にマヒャドを唱えて対抗したとは考えにくいですし、これはひょっとすると……)
私の中に、一つの仮設が浮かび上がる。
「盗賊さんのやらなければいけないこと……私の想像通りなら、とんでもないことですわね」
盗賊さんは、ここで強大な何かと戦い、撃退するに至ったが、倒し損ね。
(ようやく平和な世界で一人の少女として過ごせるようになった勇者様を戦いに駆り立てぬよう、一人その何かを追ったと言うことなら、辻褄は合いますわ)
無論、これはまだ推測にすぎない。
(それにそれが真実だとしたら)
勇者様がどういう行動に出るかは、解りきっていますの。
(おそらく、勇者様は――)
私の中に予感がしていた。勇者様が再び旅立つと言う予感が。
魔法使いのお姉さん、微妙に勘違いするの巻き。
次回、第三話「相談の結果」